HICPMメールマガジン第740号(2017.10.10)
HICPMメールマガジン第740号
みなさんこんにちは
今月10月22日は衆議院総選挙です。
昨日のTVで、プレスセンターで行われた党首討論を見ました。「日本国憲法改正問題」が今回の選挙の争点となっています。私は 党首討論を聞いて「日本国憲法」と「日米安全保障条約」の関係を全く説明しないで憲法改正を争点にして国民がついていけないのではないかと思いました。憲 法改正には、第9条以外の問題があるという主張もありますが、9条以外に国民の議論が分かれている問題はなく、9条以外の問題の改正議論を持ち出すこと は、国民の議論をそらすもので、9条の議論をすっきりすることがなければ国論の合意形成はできません。
日本国憲法と日米安全保障条約と矛盾していることは1959年の最高裁判所で認めたうえで「砂川判決」が出されています。現在 日米安全保障条約が、「憲法違反状態であると最高裁判所が認めながらも、そのことを最高裁判所は問題にすることはできないと判決しました(「統治行為 論」)。日本国憲法と日米安全保障条約の矛盾した関係を継続することで「自衛隊の合憲」を政治的に政府が認めてきました。安保法制もその流れです。今回の 「憲法改正は安保条約が憲法違反であると認めて、それを是正するという議論」なのか、それとも「日本国憲法では安保条約を前提にした『自衛隊の合憲』とい うこれまでの法解釈を改めて、日米安全保障条約に合わせて日本国憲法を改正しようという議論」か、党首の皆さんの主張が分かりません。
前回に続き「注文住宅」の話を継続します。
日本の建築士に求められている学識経験とその実力
欧米では、「国民の年間の所得と比較して、欧米では平均3倍以上の高額な投資で損失が生まれてはならない」考え方の下に 住宅設計者の資格は法律で厳しく制限されています。米国は占領政策においてこの米国の考え方を日本の建設3法(建築士法、建設業法、建築基準法)で取り入 れました。住宅設計が間違っていれば、又は、貧しければ、住宅施工でどれだけ頑張っても資産価値の維持増進される住宅は造れません。
しかし、米国で行われている高品質の住宅をより安くつくる技術は、現在の日本では米国と同様にすることはできていません。その理由は、建築教育の技術力と建築技術者の学問に対する意識付けの違いにあります。それは消費者の利益を重視する「ストックの住宅」の考えをもたず、建設業者の利益確保を消費者の利益に優先する「フローの住宅」の考え方に立って、業者の利益中心の考え方に立っているためです。住宅生産をシステム産業と理解し、すべての場面で合理的な取り組みをすることが顧客の利益となる「ストックの住宅」の考え方が住宅産業界の信頼になっているのです。
建築士法の立法趣旨に違反した建築士法の施行
欧米に比較し、日本では建築産業界全体に合理主義が貫徹していなくて、建築士法の内容を例にとっても、建築士の学識・経験が建築士法どおりではなく、建築士の排他独占業務と定められた設計及び工事監理業務を建築士法の規定どおり行う大学の建築学教育で行われていません。日本の大学で建築教育を受けた卒業生が欧米の建築学の大学院の教育研究に入っても、業者利益追求本位の「フローの住宅」の考え方が抜けず、欧米の消費者の資産形成 本位の「ストックに住宅」の人文科学教育について行かれないことが指摘されています。日本の建築教育が住宅建築産業に必要な設計・工事監理、並びに、工事施工経営管理(CM:コンストラクション・マネジメント)技術(原価管理、品質管理、時間管理)教育が行なわれていないため、建築教育を受けた学生は、実施設計図書の作成やその設計図書に基づく建設 工事費の見積もりをする能力もありません。日本の大学での建築教育の学力では、基礎知識が低く、建築学習の人文科学的な意識が違い、実務について行けず、 必要な実務経験を積めません。
基本的な建築設計・施工教育不在の日本の建築学教育
現在、建築士のほとんどが、建築士法で定められた学識経験に裏付けられた設計業務を行う学業と実務経験がなされておらず、建築士資格を持っている人たちにまともな設計・施工能力がありません。建築士の設計能力では建築確認申請用の図面である「代願設計」しかできず、建築士法及び 建設業法で必要な設計圖書が作れず、その結果、その業務成果である「代願設計」では、正確な工事費見積もりはできません。建築士ができることは、「代願設計」をまとめ、その「代願設計」に「材工一式」の概算見積もり単価で概算工事費の見積もりをする程度です。「代願設計」では使用する材料の正確な数量もそ の建設に必要な技能者の技能も労働力の総量も分かりません。その結果、その「代願設計」では工事費見積もりはもとより、概算見積りすらできない建築士が 殆どです。「材工一式」の坪単価の略算単価に延べ面積を乗じた概算工事費総額では、「工事はできるはず」としか言えません。工事請負契約当事者が契約を締 結したから、契約当事者は契約履行義務があるから、工事請負契約さえ締結できれば、後は下請業者が工事をやるから、工事費見積もりは概算でよいと政府自身 が考えています。米国の指導で制定した日本の「建設業法」では「建設工事費の見積もりは、材料と労務の数量と単価を明確にして工事費を精算するように規定 しています。
建築士の作成した代願設計による設計施工
代願設計では工事の現場での納まりの仕方はわからず、工事に必要な材料も労務もその数量も作業時間も支払い単価も労務費用も明 らかにされず、工事費を見積もることはできません。工事請負契約上、契約当事者が実施を約束しても、その実施すべき工事の計画が具体的に定められていませ んから、実施の仕様も建築詳細もありません。国土交通省は建設業法に従うべき建設業者を、建設業法違反をしてもよいと言い、「建設サービス業者」という政府の考え方を明確にして以来、建設業者はそこで取り扱う材料や労務のすべてに対し、消費者本位の建設業務を放棄し建設業者の利益最大化に向かっています。 建築主に支払わせる価格(上代価格)と建設業者が仕入れる価格(下代価格)の2重価格構造を前提に、差額をサービス流通経費として建設業者が着服することを正当な業務としてきました。日本の重層下請構造の下請け段階ごとに、実行予算が組まれ、その実行予算が下請けの都度やせ細っていきます。同じ材料と労務 が使われる設計図書を使いながら、単価は痩せていく欺罔を政府は容認してきました。日本の建設業界の下請け単価が下請けの都度やせさせ、建設業者が不正な 利益を上げている重層下請けの構造に問題があります。それを行なっている背景には、「概算見積」を「精算見積」とみなし、「不等価交換販売」と「設計図書 の差し替える背任行為」を、建設業行政を国土交通省が、建設業者の利益本位に実施しているからです。その理由は、大学の建築教育も設計教育を行っておらず、建築士が実施設計図書を作成できず、建築士にその能力がないことが、不正を生み出す原因をつくっているのです。
日米の住宅建設業者の違い
米国の建設業界では、建設業者はその建設業として必要な材料と労務を調達するわけですから、その調達価格こそ工事見積額として 建築主に請求できるものです。直接工事費に関係する諸経費は直接工事費に含めることができますが、重層下請け構造によって、重層される粗利をすべて直接工 事費として扱うことに正当性はありません。欧米の場合は、原則「一層下請け」で建設業者が、流通販売利益を建設工事費(直接工事費)として請求してはいけ ません。日本の場合には建材流通システムが閉鎖的で、系列販売や与信管理を行うことで、信用販売で、系列以外の建設業者には材料を販売しないことが行 われています。日本の建材取引では材料は製造工場から直送されても、材料及び労務を調達するため、取引伝票は取引を経由する6枚以上ついていることが一般 的です。そしてそれらの流通経費はすべて建設業者が負担する流通経費は工事単価に含まれます。その流通経費を最小限にする努力がコストコントロール(工事費管理)ですが、与信管理という流通システムが存在する限り、これらの経費はそのシステムを廃止しない代わり無くなりません。欧米では、建設工事部分に建 設先取特権(メカニックスリエン)を認め、その先取特権を担保に建設金融が行われているため、現金決済と同じ取引になり、日本の与信管理による経費の膨張 はなくなります。米国の建設先取り特権を利用した建設金融は等価交換金融で、最終的に建設金融は、住宅竣工時にモーゲージが承認されたとき、相殺されるこ とになります。
手抜き工事を正当化する特記仕様書
わが国では概算工事費で工事請負契約書を締結するため、工事が遅延し工事費が膨張し、工事請負契約額で設計圖書に定めた工事を 行えなくなると、その辻褄合わせをするための欺罔が、建築主に対する特記仕様書を口実にした「同等品の承認」と「工事請負契約添付設計図書の差し替え」に よる背任行為の原因を生んでいます。米国では日本の慣行として行われている設計図書の差し替えは、「背任行為」という犯罪です。日本の建設業法上も犯罪で すが、政府か自ら公共事業で実施し、その後、住宅産業の行政指導で陣頭指揮してきたため、検察は起訴しようとはしません。これらは、関係者の犯罪意図によ り引き起こされたものではなく、行政上の慣行化された違反や、建築士の能力が建築士法に違反して建築士資格を与えられ、建築士の権力をその能力と勘違いし 不誠実行為になったことに原因があります。大学教育では一通り法律を教育し、建築教育でも建設3法は教育されていますが、通り一遍の教育に終わっていま す。国土交通省の建築士法、建設業法、建築基準法による建設行政は、その実態に目を向けようとせず、「工事請負契約が適法に施行されているはず」の弥縫策 に終始してきました。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)