HICPMメールマガジン第736号(2017.09.04)

HICPMメールマガジン第736号(2017.0904

みなさんこんにちは

今年の夏(8月)は毎日雨で、9月に入った今日も雨です。

北朝鮮の水爆実験の問題やユダヤ人のパレスチナ問題などトランプ大統領の発言に振り回される以上の問題が発生し、地球規模の天候以上の問題と同時の発生し、報道を見ていてどうもできないいらだたししさを感じます。HICPMでは、ホームページの変更と合わせてユーチュウブを利用することになり、その原稿の準備をしています。皆さんに必要な情報となれるよういろいろ工夫しています。

 

今回も「注文住宅」問題、第9回を連載します。

 

建設業能違法を正当化する建設業行政

確認申請書の添付図書を建築士法及び建設業法上の設計圖書と見なし、また、建築教育上も、「確認申請用の設計図書」を「建築士法上の建築設計図書」と見なして教育してきたことに不正な設計・施工が紛れ込む原因がつくられました。それは製造業としての建設業は、基本的に建設工事に使う材料と、そこで行なう加工組み立て工事によって構成される工事の基本を失わせ、不正確な設計図書と概算工事費見積もりでも、重層下請けにより、工事費不足があっても、それらを下請けに押し付けることができると判断し、実施設計業務を疎かにしてきました。

日本の建設工事現場の技能は、伝統的な技能者の徒弟制度によって担われてきました。そのため、建築工事では、工事の最終的な納まりは現場の職人に任せておけばよいという安心感がありました。しかし、戦後の社社会・経済の混乱は、材料が払底し、技能者も仕事を失い、職人の技能の伝承が失われました。そのため、実施設計図書が正確に作られない限り、合理的な工事は望めません。そこで建設工事は工事費見積もり同様、「材工一式」で下請けに丸投げされる方法が拡大し、それは建材業者の望む方法でもあったのです。熟練技能に代わるものとして建材業者がプラモデル方式の簡単な加工組み立てを非常に多くの建材において導入してきました。

そのため現現在では建材メーカーが施工を単純化する建材供給を行うようになり、建設現場は単能工により、場当たり的に対応しても一定の工事を実現できるようになり、建設現場から熟練技能者は消滅する方向にあります。単能工による技能は、安い単価で使い捨てられるもので、その技能は既存住宅の修繕や維持管理に有効な技能にはなりえません。このため、最新の建材を使った工事で修繕や模様替えなどをするときな、既存資材のスクラップ・アンド・ビルドは不可避になっています。それは「フローの住宅」で精算システムもできているためです。日本の建設業は重層下請け構造で組み立てられているが、それは、欧米のように建設業経営管理(CM)技術が普及していないためです。

 

「建設業法」は製造業でなく、「流通サービス業」に

国土交通省は、「建設業」をこれまでの産業分類を恣意的に変更し、「建設工事業」ではなく、「建設サービス業」と言ってきました。その理由は、下請け業者に工事を下請けさせることよりも、下請け業者に仕事を分配しるときの「口銭」(粗利)に関心が向けられたためです。下請けの都度、粗利を抜いて実行予算を痩せさせて行き、その粗利をすべての中間下請け業者から賛助会費(営業経費)として巻き上げ、建設業団体を介して政治家への政治献金や官僚の天下り経費としてキックバックすることが、建設サービス業としての主たる業務と考えられるようになってきました。建設業者の主たる関心が工事をすることよりも、中請けとして粗利を抜くことに関心が移ってきたことに原因があります。

公共事業の場合、予算単価自体が財政緊縮で厳しくなり、物価の上昇や重層下請構造を使っても、工事請負額での工事で期待通りの利益を生み出せなくなりました。すると、工事請負契約に定められている設計圖書と工事請負額の矛盾は、請負工事人が利益を減少させる以外に工事を実施できないところに追い詰められました。その矛盾は、下請け業者が粗利を抜いて、さらに下請けさせることとともに、建築士が立法趣旨に違反して工事内容を特定できる実施設計を作成できず、工事費見積もりが正確のできなかったことにあります。そこで持ち出した利益確保の方法は、「手抜き工事」です。「手抜き工事」を建設業法上「適正」とする方法が、国土交通省の建設業法の施行で、「正式な請負工事契約文書」に「違法を正当化する特記仕様書を追加することによってなされました。「手抜き工事サービス」を国土交通省は正当化したのです。

 

税金(公共事業)に寄って集る公共事業の構造

公共事業は基本的に財政支出(税金)によって実施される事業で、国会や地方議会で工事請負契約内容を説明し、その承認の上で実施される工事です。当然適正な工事を契約通り行うべきですが、公共事業の発注者が建設業者及び設計工事監理業者と共謀し、手抜き工事を実施してきました。この公共事業で行ってきた方法は、公共事業という財政(国民の税金)を政治家、官僚、建設業界が重層下請けによる粗利の分配によって業界全体を潤おす「社会福祉事業」であると、護送船団内部では皮肉交じりに、必要悪といいます。例えば、100億円の公共事業のうち70億円は粗利の分配で消え、直接工事費として支出される割合は30億円程度です。日本の公共事業費が米国の公共事業費の2倍以上になっている理由です。その公共事業の方法が住宅建設業にも持ち込まれています。

住宅産業においては、1976年から始まった住宅建設計画法の時代から、持ち家政策をハウスメーカーによる住宅展示場を営業の中心に、広告・宣伝、営業・販売を中心に置く経営に変化してきました。その流通業務自体にかけるサービス費用を販売価格で回収する経営が始まり、そのサービス業務の経費が、販売額の過半数を超える額なってきました。住宅販売額の60%をも占めるサービス業務費を直接工事費と欺罔して住宅販売を行ってきましたが、政府は、「その経営が建設業法に適合している」と国民を国会答弁で欺罔し、それを追及されぬよう建設業法に違反して、建設業法の適用を受けている建設業を「建設サービス業」という新しい産業分類を持ち出して正当化しました。

 

建設行政による「手抜き工事」正当化

わが国では、工事請負契約書の正式書類としては、工事請負額を定めた「工事請負契約書」と「工事設計圖書」と「特記仕様書」という3つの図書で構成されていますが、欧米では、「工事請負契約書」と「設計図書」です。工事内訳明細書や工事費見積もりに際し、施工者が建築主に工事内容を質問し、設計者がそれに答えた議事録も契約の正式文書に入ります。わが国では、工事請負契約書では、「材工一式」の概算工事費で計算した概算見積額を正確に見積もった工事費と見なした工事請負契約書と、その工事費見積もりを行った根拠となる実施設計図書といわれる「代願設計」の2つの書類が変更のできない基本契約書です。その2つの契約書の矛盾は重層下請け構造の中で「下請け叩き」で解決せよという運用でつくられています。

しかし、わが国の重層下請け構造は、工事を下請けに転嫁させるだけではなく、その過程で請負金額は中間下請けが抜き取る粗利分だけ、やせ細っていきます。矛盾を下請けに押しつけていく方法は、潤沢な請負金額があるときには可能であっても、重層下請けで中間下請けごとに10~15%ずつ工事費(請負い金額)はやせ細っていきます。建築主に追加予算を求めることもできず、末端下請けに損を強いることができなくなると、「手抜き工事」が行われることになります。公共事業の場合、政治家や官僚が請負工事の最初の段階で利益を先に奪い取ると、重層下請けのすべての下請けの過程で、粗利の分配で期待した利益の確保ができなくなると「手抜き工事」に走ることになります。

 

建築主を欺罔する設計技術

やがて、その手抜き工事のできる予算を、請負契約当初から隠しておく方法が広く行われてきました。実際の工事では使わない高額な材料や工法を、建築主には「高級な工事をする」と期待させ「仮押さえ」をしておくと説明し、とりあえず建築主には、「設計に取り入れる」と説明し、工事費見積もりの対象にしますが、設計者及び施工業者には、実際に使う意図はなく、材料に資料は集め検討対象にしますが、採用できない条件を調べ、注文はしません。資金が必要になったときには何時でも仕様を変更する「隠し財産」と業界ではよく口にする「当て馬」です。

設計段階で高額な材料や施工方法を使うことで建築主の希望を叶える夢を膨らませ、高額な予算を準備しておき、実際の工事は安くて済む材料や工法に変更する方法です。それを建設業法違反であるにもかかわらず、正当であるように変更する方法として、工事請負契約書の正式文書に「特記仕様書」を加えます。その「特記仕様書」には建築主と施工者のいずれの利益にも与しない工事監理者の判断という形式をとって、「手抜き工事」も特記仕様書の手続きで行えば許されるとしたのです。

建設業法は、建築士による建築設計図書は不正確なものしか作成できないことを前提に、歴史的に設計図書に建設業者の不正利益を隠してきました。「材工一式」の概算額で工事請負額を見積もることで、施工業者は潤沢な予算を恣意的に使って大きな利潤を上げてきました。公共事業を請け負う建設業者は「材工一式」の概算によることで、政治献金や行政機関の天下り人件費の支出など建設業の利益確保のうまみがありました。つまり、概算額で工事費見積もりを行うことは、重層下請け構造を利用して、利益を確保する建設業界として譲れない既得権益を形成していました。それは国家が公共事業予算の執行を適切に行うために、会計検査院が検査に使い単価自体が、公共事業主体の発注単価を用い、実際に直接工事費として支払い段階の単価を対象にしませんでした。

 

国家ぐるみの不正容認の建設行政

設計図書通りの工事を工事請負工事額でできなかった場合、「施工業者が損失を被らない」で、「不足する費用を捻出するための方法」と、「それを犯罪にしない方法」とが検討されました。誰にでもわかることは、工事請負契約書として確定した設計圖書でも、設計図書に定めた設計内容を変更し、「材料費と労務費を削れば、工事費は簡単に削減」できます。しかし、それは工事品質を落とすことになりますから、「手抜き工事」になります。「手抜き工事」をしながら、「手抜き工事ではない」と欺罔することしか解決の道がないことが分かりました。

しかし、仮に「欺罔が見破られても言い逃れできること」が求められ、できれば「欺罔してもよい」という「お墨付け」を与える検討がなされました。この検討は建設業法を所管している建設省(現在の国土交通省)で公共事業の施行を通して、護送船団として政治家への政治献金や官僚の天下り人事に必要な費用を捻出するための取り組みとして長年かけて検討してきたことです。その材料及び工事内容を引き下げて実施する方法が検討されました。すなわち「手抜き工事」を建設業法上の正しい工事請負契約の履行であると主張するための方法です。事実上、工事内容を引き下げるわけですから、「手抜き工事」を「手抜きしていない」と技術上の判断をさせる必要があります。「手抜き工事」をしても、「民法上および刑法上の背任にならない」とするためには、「工事内容が請負契約通りであること」を建築主及び施工者のいずれの立場に立たない中立の第三者に立場にある工事監理者に、「専ら技術的判断」として「同等品」と承認させれば良いことになりました。

わが国では工事監理者が、第三者監理が徹底されておらず、これまで設計・施工一貫の業務が広く継続し、「工事監理」(モニタリング)と工事管理(マネジメント)が明確に区分されていませんでした。それは日本の建設業には、「モノづくりの施工にはお金を支出しても、設計や工事管理という技術業務にはお金を出し惜しむ」という風土があり、請負工事として支出した総額の一部を設計及び工事監理業務費として支出することが行われてきた長い歴史があります。設計及び工事監理業務を担当する建築士事務所が、施工業者から建築士事務所の賛助会員や協力企業という口実で資金を受けていた現実との関係で不正追及の矢面に立たされて、下手すると凌ぎきれないと考えられていました。そこで考えられた方法は行政事務の流れをぶつ切りにして、その流れの中では適法であると判断できるようにし、その前後の続きの関係での判断は「知らなかった」としたことです。

このような不正が当然のように行われてきた背景には、建築士が正確の設計図書(実施設計)を作成できず、確認申請用の「代願設計」を作成することを設計業務と勘違いさせられる間違った建築教育が大学の建築教育で行われてきたことにあります。適切な工事施工をするための建設業経営管理(CM)が実施できない理由も、やはり、実施設計が存在しないためです。

NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です