HICPMメールマガジン第734号(2017.08.21)

HICPMメールマガジン第734号(2017.08.21

みなさんこんにちは

8月に入ってから毎日雨の日が続いています。

現在私はこれまでCMを中心に20年間走ってきましたが、CM教育の市民権が得られていないことが分かり、もう一度原点に返って設計・施工から問題の整理を始めたところです。ここで連載している「注文住宅」もその一環です。住宅産業の生産性の低さは、欧米の住宅と日本の住宅を比較したデータでは約2倍と言われています。日本の生産性の低さを材料業者が材料販売の売込みに取り入れていますが、それは材料ごとの生産性で住宅全体の生産性の一部にすぎませんし、その職人は使い捨てされていくのです。職人に高い賃金を払っても安く生産できることが重要です。

 

「注文住宅」だい8回目の連載を続けます。

顧客満足のできる住宅

住宅は国土交通省が「建設業」ではなく、「建設サービス業」と産業区分をこれまでの産業ク分とは別に設定し、その目的を「顧客満足」のためのサービスに重点を置き、広告・宣伝、営業・販売にかけた流通サービス業を住宅販売価格として回収することを、一般の商業・業務業同様でよいと正当化してきました。その結果ハウスメーカーの場合を見るとその住宅販売価格のうち、直接工事費は40%以下になっていることが分かりました。そのようにしてつくられた住宅は10年程度経過すれば、その住宅の価値が購入額の半額程度しかないことは明らかになり、実際中古住宅取引価格にその本当の姿が現れてきます。ハウスメーカ以外の一般の工務店の住宅の情報誌「注文住宅」が無償で地下鉄の広場やコンコースに並んでいますのでご覧になれますが、先週私はその雑誌を読んで驚きました。プロの写真家を使って写真は広々写されていますが、そこに掲載されているすべての住宅が「建設廃棄物予備軍」であると思いました。顧客の資産を毀損する注文住宅を建設して、顧客満足は得られるはずはありません。しかし、政府が進める「建設サービス業」は、注文住宅の建設を通して顧客満足を得られなければ、住宅販売価格を回収できません。そこで現在のハウスメーカーを中心にする日本の住宅建設業は、建築士の設計力は低く、住宅そのものに対しての満足は得られないので、その住宅を建築主が設計し、施工する過程での建築主に参加満足をさせる「建築士(芸無し芸者)遊び」をすることで「顧客満足」を得るような「顧客サービス」になっています。

 

2人の「ご主人様」

建築をしようと計画した建築主は、その建築計画を自らの主体性をもって、住宅の設計図書を「自己実現」として建築士を使い作成し、建築主事に建築基準法令に適合している確認の得られる設計図書にまとめることで、その要求を満足させています。建築主にとっても自分の選択した設計内容が実現できることは確認済み証の交付と考えていますから、それが当面の設計の目的とされます。ハウスメーカーなど住宅会社は、「建築主事からの確認済み証が得られない」対応が建築主の設計要求の最終の決定条件になります。「顧客満足」も、「建築主事の確認」が鍵となり、建築士も建設業者も、建築設計は確認されやすい設計に向かって誘導されてきました。集団規定の斜線制限など、およそ建築設計の本質とは無関係なところで住宅設計内容が検討されています。確認申請を通すというために「ご主人様」(建築主)と「メイド」(建築士、又は営業マン)が一体になって取り組み、建築主事や確認検査機関に行けば否定されることでも何でも、「ご主人様」の命令に従い、メイドが足を運び、疲れ切って当初に用意したハウスメーカーの作成した「代願設計」に落着して、疲労による満足で設計が終了します。その後、工事段階で同じ挑戦を繰り返し、疲労困憊して、「メイドがよくやってくれた満足」で、工事が引き渡されてきました。しかし、それは建築士法上で定めている設計図書の問題ではありません。

 

注文住宅設計図書に必要な専門知識の勘違い

建築基準法で確認申請に添付する設計図書は、建築士法で定めている建築主の要求に誠実に応えた設計図書と定めてはいません。確認申請代理業者は建築士でなくても構いませんし、その業務は建築士法上の建築士の排他的独占業務ではありません。誰が行なってもよいのですが、建築士は建築士法が立法で定めた設計能力を持っている訳ではありませんので、建築主の「メイド」となって、建築教育で身に着けた唯一の専門性である「代願設計図書」をまとめる仕事を行ないます。代願設計をまとめる業務は、建築設計という本来の仕事と比較したら、如何に不毛なものであるかは、欧米の建築家では皆分ることです。しかし、日本の建築士もハウスメーカーも、確認済み証を得ることが建築工事の前提とされているため、その業務を建築士法上の設計業務と勘違いしています。設計業務ではない建築士法上「その他の業務」と定義されている業務の目的を実現する代願設計をまとめるために建築主が、建築士や営業マンを小間使いのように使う「メイド遊び」が、「顧客満足」を獲得するための営業上重要で、「客扱いの上手な営業マン」が要請されています。メイド扱いされている建築士の大学教育を含め、確認申請の合格を取る技術がすべてになっているため、それを専門の設計技術と勘違いしています。

建築基準法が1950年に制定施行されたとき、全国適用となり、建築士が「その他業務」として作成した設計図書で建築主事が、その「確認処分」を「許可処分」のように権力を濫用し満足しましたが、「メイド設計」は、そのときの代願人の建築士事務所にハウスメーカーの営業マンが加わり、今回同様の「メイド」の役割を担い、建築主の「ご主人様」に加え、建築主事が、許認可権者のような「お上」(権力者)となっています。この2重の「ご主人様」は建築設計及び工事監理に必要な学識も経験も持っていません。建築主事も建築士法及び建設業法上の設計圖書ではなく、確認申請書添付図書を審査するだけで、建築基準法の知識も怪しい人たちです。ハウスメーカーの営業マン(メイド)にとっては、建築主も建築主事も「ご主人様」ですので、2人の「ご主人様」は同じ意識ですから「ご主人様」に対する扱いは基本的に同じ扱いをしています民主主義国家の法律上は、建築主は注文住宅づくりの主人ですが、建築士は専門職能としてその希望する住宅を設計する専門職であり、建築主事は、その計画が建築基準法令に適合することを確認するだけの技術者で、行政指導や許可権を行使する権限はありません。

 

建築士法上の建築士の具備すべき能力

現行の建築士法では、建築の設計と工事監理を行う建築士の業務資格として、建築士の資格試験を定めています。建築士法のモデルは米国の建築家法(アーキテクトロウ)で、そこでは学校教育として、大学の人文科学部建築学建築家教育を履修して後、設計と工事監理の実務経験で構成されています。建築士法上では、日本の大学での建築教育と社会での設計及び工事監理業務は、米国と同様に行われていると行政運用上でアプリオリ(先験的)に見なしました。その結果、学校教育として日本の大学で行われた4年間の建築学教育を修了した者には、米国の建築学教育同様の知識能力の学業の教育がされたと見なし、そのうえで、建築・住宅産業関係の職歴があれば、その職務実態が「ハウスメーカーの営業販売」等の「客引きのサービス業務」を行っていても、それを建築士法上の設計・工事監理に関する2年間の実務経験と見なしました。それら学歴と職歴を、建築士の受験資格と定めました。建築士資格試験は、建築技術と住宅・建築行政関係で構成された学科試験と代願設計用設計図の作成とで構成されています。

その建築士試験に合格し登録者に建築士資格が与えられました。その建築士に求められている能力は「代願設計」を要領よく作成する能力で、建築士法上の「その他の業務」です。

日本には、欧米で行われているような「人文科学としての建築学教育」も、「設計・工事監理業務教育も実務経験を行う職業経験をするところ」もほとんどなく、欧米の建築学教育と設計・工事監理の実務経験を日本で行なうことは殆ど不可能です。そもそも、建築士法で定めている建築学教育自体が欧米と違っているため、建築士法で定めた米国の建築学教育が日本に存在せず、また、設計業務・工事監理業務で扱う設計図書が違っています。わが国では建築士法で期待した設計・工事監理に関する学識・経験を日本で積むことはできません。

学校教育で人文科学としての建築学で行う設計業務教育とは、土地利用計画に合わせて土地の歴史文化を伝承するような建築加工し、その建築の利用者の歴史・文化・生活を調査研究し、その連続線上に成熟する将来の環境を構想し基本設計を作成し、その後その基本設計に基づき、それを依頼主の経済的負担の範囲で確実に工事できる「材料と工法を確定する」実施設計圖書を創作します。その実施設計によって施工者(住宅建設業者)は、工事費見積もりを行い、CM技術を使って、設計図書通りの品質の住宅を安く建設します。実施設計が正確にできていて、設計圖書通りに工事監理能力を有する専門職能がその業務を行うことができます。

しかし、わが国では、建築士に必要な建築設計・工事監理に関する学識経験を学習訓練する場が整備されていない状態で、建築士法及び建設業法が施行されています。その結果、建築士法どおりの業務を行うことも建築士に要請されず、設計・工事監理業務も行われていません。建築士法で定めた設計・工事監理に関する学識・経験を持たない建築士による設計・工事監理業務により、工事に必要な正確な設計図書(基本設計及び実施設計)が存在しないまま、概算見積りで工事請負契約が締結される結果、建設業は正確な建設業経営管理ができず、国民に不利益が及んでいます。

 

建築士法で定めた技能を持たない建築士

建築士法で定める設計・工事監理能力が備わっている建築士にしか、その業務をさせてはいけない規定になっています。しかし、建築士にはその業務実施能力が欠如しているため、国民に、健康で文化的な建築環境を設計・工事監理する業務はできず、作成された設計図書では工事ができず、建設現場で工事詳細を決定して工事が行われています。その結果、確認申請用の設計図書では、工事の詳細は計画されず、建設工事現場の生産性は低くなります。工事が遅延し工事費は膨張すれば、予算内での工事ができなくなります。その結果、わが国の建築工事では「手抜き工事」が常習化しています。国土交通省は常習化している「手抜き工事」を建設業法上、正当化する方法を「特記仕様書」により、工事監理者の法律上の機能を制限的に解釈することで欺罔を正当化し、建築士法は形骸化しています。

その結果、建築士が設計・工事監理した建築物は、建築主に多大な損失を与えてきました。わが国のハウスメーカーの高額な注文住宅は、設計・工事監理者は、例外なく「建築士の名義借り」によって造られてきました。このことは、現在の建築士は建築士法に定められた学識験件を有しないことを、ハウスメーカーが認めている証明です。それを容認している国土交通省は、建築士法で定めた設計・工事監理業務を建築士に行わせようとせず、代わって、建築士には「差別化」設計をすることを奨励し、不正な設計・施工を建築士に「メードサービス」業務として顧客に満足を与える業務を実施させてきました。

建築主が求めている住宅とは、建築主は支払い能力の範囲で、生活要求に適合した品質をもった住宅です。それを創造するための業務が「基本設計業務」であり、基本設計内容を正確に工事として実施するための「実施設計業務」をするために、建築士制度が創設されたのです。しかし、現在の建築士は、この2つの基本的要求に応える住宅を設計する能力を持っていません。それだけではなく、建築士自身が作成した設計図書で、工事現場での工事詳細を確定できず、正確な建設工事費見積もりができず、工事監理業務もできません。「代願設計図書」を設計図書といい、実施設計は作成されていません。その結果、建設工事業者は建築施工管理(工事費、品質、および工程管理)ができず、建築請負工事契約における等価交換が不可能になって、建築工事の適正な工事監理ができず、建築主に重大な損失を与えてきました。

 

建築士法で定める建築士の業務の重要性

建築士法で「設計及び工事監理業務」を建築士以外に行わせてはならないと規定した理由は、この2つの業務が建築主(消費者)の利益に重大な関係を持っているからです。住宅建築設計・工事監理が建築士法で定めたとおりに行われていたら、現在の日本社会のように、住宅を所得した人が、その年収の5~8倍もの費用をかけてつくった人が住宅が、購入額の半額以下にはならなかった筈です。

この事実と理由とを要約すると、建築設計業務において、

  • 建築主が求めているその支払い能力に合った基本設計ができず、基本設計が存在しないでまとめられた代願設計をもって、実施設計図書とされてきました。
  • 実施設計は工事を正確に行なえる建築士法で定めた実施設計ではなく、確認申請用の設計図書です。確認申請用の設計図書(代願設計)では現場での工事の詳細が決められず、正確な材料の数量や必要労務の内訳がなく、工事費見積もりもできません。
  • 当然、その実施設計では、住宅建設業者(ホームビルダー、工務店)は、代願設計では工事経営管理計画(CM:コンストラクション・マネジメント)は実施できず、工事生産性は低く、時間と材料を浪費していきます。
  • その結果、建設業者が工事請負契約額で工事を完成できず、手抜き工事をする以外に請負契約額での工事ができなくなると、建設業者が不足費用と利益を捻出するために、工事費に合わせて仕様を変更する「手抜き工事」を行います。「手抜き工事」という建築主に対する背任行為を容認する仕組みが、国土交通省の建設業法行政では準備されてきました。

建設省は公共事業において重層下請け構造に乗って公共事業を行ってきましたが、公共事業で、建設業経営管理(CM:コンストラクション・マネジメント)を実践せず、大学教育でも世界の工事施工技術として教育してきたCMを行わず、建築実務でも曖昧な設計図書と工事費概算見積りを悪用して、公共事業では、政治家や官僚が必要とする費用を捻出し、建設業協会を介して彼らにキックバックしてきました。その不正は建設省時代から公知の事実で、政府はそれを是正するのではなく、護送船団にとっての経済的旨味として隠ぺいする工作がされてきました。

 

公共事業で日常化している背任工事

それが工事請負契約書の正式文書に「特記仕様書」を取り入れ、「特記仕様書」の中に不正の救済規定を設けてきたのです。それが工事監理者による「同等品」の承認の規定で、それには次のような説明が、暗黙裡に付け加えられました。

「工事監理者の承認の判断は専ら技術判断であって、工事費用(手抜き工事)に関する判断をしたものではない」。

特記仕様書では、工事監理者の業務内容を技術的判断と限定的することで、中立的立場の第3者の判断であるから、背任行為を行っていないと説明されました。参考までに米国の建設業法では、それは欺罔行為で、明確に「詐欺」行為で犯罪であるとされています。設計・工事監理業務を建築士法で建築士にしか行わせてはならない業務と定めた理由は、建築士法のモデルとなり、GHQが監督した米国の建築家法の規定が建築士法の根拠だからです。公共授業による背任行為は、公共発注主体と施工業者と設計・工事監理者が共謀して公共事業の事業主体である国民と公共授業予算や請負契約の承認という議会決定に違反し、設計図書の前面差し替えとを行なって国民を騙し愚弄してきました。

(NPO法人 住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です