HICPMメールマガジン第821号(2019.02.18)
みなさんこんにちは
欧米とわが国の住宅建設の考え方の違い
欧米では住宅不動産は土地を建築加工して造られるもので、一旦建築したら都市空間の構成部分として、社会的な合意なしに勝手に取り壊すことはできないものであり、その取得費用は建築主の所得と比較して高額であるため、住宅金融(ローン)を受けて建設する。金融機関は等価交換金融(モーゲージ)により、その住宅不動産価格の不動産鑑定評価((原価方式の場合、直接事費)を行ない、その評価価値の80%以下のローンを行なっているが、融資保険を利用して97%までの融資が行われている。その融資を行なうに当たって金融機関はローン借り受け人の所得によって住宅ローンが返済できることを確認して融資が行われる。わが国のハウスメーカーで3,000万円の販売価格の住宅建築費(土地費用含まず)の場合、直接工事費は、1,200万円 で、広告・宣伝、営業・販売・流通経費が1、800万円である。米国のモーゲージは、その直接経費1,200万円に対して住宅ローンが行なわれる。その住宅ローン額はローンの借り請け人の返済能力(所得の30%)を目途にローン額が決定されるため、所得に見合わない住宅ローンを組むことができない。そのため、米国では我が国のように住宅会社が販売したい額を融資しないため、住宅販売価格を住宅ローン額との関係で考えるため、住宅販売額の高さを「所得に対する額の高さ」として実感することになる。わが国では原則住宅ローンは住宅会社が販売するに必要な資金を供給しているため、国民はどの住宅でも購入できると考え違いすることになる。
住宅建設を投資と考える意識付ける政策
米国で自宅の住宅設計を取り組むとき、住宅建設や住宅取得は住宅投資と考え、一般の投資との比較で住宅購入が十分利益を生むものであることの検討がされる。住宅購入は米国でも世帯の年間所得に比べ大きな投資である。彼らは、一般的に投資に見合った資産価値増が期待できなければ、住宅投資は行なわない。わが国のように、住宅投資により例外なく損失を発生させる社会構造は異常であり、世界の住宅政策では考えられない。しかし、わが国の政府は異常な高額な住宅購入を当然視し、それを住宅産業利益の拡大のため住宅政策として推進し、ゼロ金利政策と合わせたローン期間の延長や住宅ローン減税等、わが国の経済政策のため、さらに拡大させようとしている。
わが国におけるそのような住宅産業の利益中心の異常な「フローの住宅」政策は、長期的に国民を貧困化させる国民の利益に反する「継続させてはならない政策」である。そのためには、まずわが国の住宅政策の誤りを国際的な住宅政策比較により、社会的な共通認識とし、そのような不当な住宅政策が廃止されるようにしなければならない。そのためには住宅産業利益中心の政策ではなく、消費者(住宅購入者)本位の「住宅の人文科学的および社会的性格」を学校教育でしっかり教育することが必要である。国家の住宅政策は、国民にとって住宅所有により資産形成ができる「ストックの住宅」しかない。
消費者を犠牲にしても、住宅建設や住宅不動産取引で利益を得る「フローの住宅」という視点を優先する政策は、主権在民の国家の政策としては否定されなければならない。欧米の人文科学による建築学は、住宅設計をする場合において、住宅所有者にとって資産形成となる住宅計画の方法を教えている。住宅不動産は土地を住宅加工した一体のもので、土地の性格と切り離して住宅不動産を考えることはできないことから始まる。まず、住宅が建設される敷地の過去・現在・未来を見通した敷地の条件調査を行い、その上でそこに開発(建設)される住宅に居住する予定の需要者の人文科学的性格から、この住宅地の性格を検討し、土地と居住者の相互作用の関係で予測されるこの住宅地経営は、社会的に羨ましがられるように計画・実践する。
住宅地の計画と経営管理
住宅地開発と一体的に行われる住宅地経営は、住宅を常に売り手市場に維持するためにどのような住宅地経営を行うかを構想立案するものである。住宅地経営計画は、住宅地開発の「基本コンセプト」(土地と居住者)を明確にし、それを基に住宅地計画の「ストーリー」と「ヴィジョニング」を設定する。その後、基本設計の設計条件を設定し、それに合わせた基本設計と住宅購買者の支払い能力を考慮した実施設計を行い、設計通りに住宅地開発を行い、居住者の入居から住宅地経営に繋げることになる。作成した実施設計どおりの工事施工をし、その後、確実に管理運営を行える住宅地環境経営システムを構築する。そのシステムを受け入れて入居が行われ、当初計画どおりの住宅地経営管理が行われる。
米国ではこの住宅地計画・建設・経営理技術を『コミュニティ・デベロップメント』といい、NAHBは分かり易いテキストを作成し、住宅地開発関係者に利用されている。クリントン政権時代に『ビルディング・リバブル・コミュニティ』(「21世紀の都市白書」と呼ばれている文書)はアル・ゴア副大統領が政府の政策としてまとめたもので、「アワニーの原則」を政策文書にしたものである。住宅地経営を計画どおり実施するカギは、住宅地開発と住宅建設を計画通りの予算で完成することである。そのためにはCM(コンストラクション・マネジメント)の技術を駆使し、計画どおりの予算で建設することである。計画どおりの予算で住宅を供給するためには、設計圖書が合理的に作成され、住宅建設工事費、工事期間、工事品質が計画どおり造ることのできる設計圖書が作成され、工事費見積もり額どおりの建設工事が行われなければならない。その基本となるものが実施設計圖書である。
設計図書は建築家がその学識経験に基づき、建築家としての住居観や建築思想を基に創作するものであるから、住宅地計画の設計に携わる建築家の人文科学的な思想教育と住宅・建築設計養成教育が非常に重要になる。わが国で現在発生している「国民が住宅を取得することでその資産を失っている」問題は、住宅設計に携わっている建築士の学識経験が建築士法の立法の趣旨どおり、米国の建築家に倣った建築教育が行われていなくて、専ら住宅の生産販売を右肩上がりの発展させることに偏重する経済主義に陥っているためである。その現状認識が人文科学的な認識が「フローの住宅」に偏り、建築士養成を建築士法立法時の人文科学的な考え方に立ち返る政策が実施できないことにある。
消費者本位の「ストックの住宅」政策
米国の住宅産業での設計業務成果の評価は、資本主義・自由過ぎ社会の原点に立って、すべての経済活動を市場経済に基づく「お金」による「価格は価値の現象形態」によって行われている。公正な価値評価は、言い換えれば等価交換販売の実現である。設計図書の成果物を、設計段階で建築主が正当な成果物として検収する上で最大の条件は、設計図書と照合できる設計見積が、建築主の求めている住宅価格以下であることである。その後、その設計図書(実施設計)に基づき、請負業者に請け負わせる建設工事費は、実施設計を根拠にした工事費見積書として表わされる。公正な工事入札や、工事費見積もり合わせによって、工事に必要な材料と労務数量と工事単価を明らかにして、その額が建築主と施工業者の間で合意され、実行に移される。
そのときの請負工事費を決定する最大の要件はCPN・CPMによる工事生産性によって左右されるCM(コンストラクション・マネジメント)である。建設工事の実施は元請け業者と下請け業者との間で、各工事部分の価値評価(下請け工事費)の合意に基づき、各工事部分を単位に、建設先取り特権(メカニックスリエン)を設定して、コンストラクションローン(建設融資)を利用して工事が実施される。下請け工事費見積額は、元請け業者と下請け業者の間で実施設計圖書の内容に関し纏められた金額の合意が、工事請負契約書の内訳明細書に記されるから、工事費での建築主と施工者の工事内容の対立に当たっては、工事費内訳明細書、実施設計図書に優先する扱いが行われる。
建設工事完了後、そこで造られた住宅建築がその設計趣旨・目的どおり修繕され、維持管理される仕組みを用意しなければならない。その全体の仕組みが計画どおり働く市場原理が働く住宅地経営を行うことにより、住宅投資は他の投資と比較しても遜色のない資産価値増(キャピタルゲイン)を約束する。欧米の住宅地経営を調査研究すると、まず住宅による資産形成を可能にする理論とその実践経験が大切にされ、これまでに学問研究の対象となり、その必然的な理論が構築されている。それは住宅地計画理論や計画技術に反映され、そのまま住宅地経営理論と実際の経営に応用されている。
そして、それは住宅不動産取引の現場で不動産鑑定評価され、実践的に取引の実績を積み上げてきた。それは住宅市場に任せるだけではなく、住宅・建築・都市行政においても、住宅の資産形成を促すHOAのルールを遵守する前提で建築許可を行なう建築行政が行なわれてきた。住宅の資産価値が上昇することは地方自治体の固定資産税収を増大することであり、資産価値が増大することになれば、より所得の高い人たちが不動産投資により、不動産の需要者として現れ、住民税収を高めることになるため住宅政策の重要な関心と考えられている。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)
(MM第821号)