HICPMメールマガジン第808号(2018.11.12)

みなさんこんにちは

 

輸入住宅政策でわが国に紹介され、住宅政策により葬り去られたCM教育

輸入住宅は日米貿易不均衡を是正するために日米で合意された「プラザ合意」を背景にするもので、当時、米国の住宅産業では、わが国に建材輸出を促進するためには、輸入住宅はこれまでの住宅価格より安い価格で消費者に供給されるべきことと、住宅産業に取り組む住宅建設業者(ホームビルダー)が、これまで以上に高い利益を獲得できなるようにすべきと考えた。わが国の「輸入住宅」は、米国では「輸出住宅」政策と言い、政策の鍵は「プラザ合意」による円高政策(1ドル240円から130円へ)に加え、わが国の住宅建設業者の工事生産性を高めるべきと考えた。そこで米国政府は、わが国の住宅建設業界に生産性向上技術移転を図る建設業経営管理技術(CM)の技術移転が計画された。

 

米国ではわが国に対する住宅建材輸出最前線であるワシントン州に対し、エバグリーンパートナーシップと呼ぶ官民協調の技術移転団体を設立し、そこを拠点に対日建材輸出を進めるべく、様々な輸出促進プロジェクトを展開した。シアトル・バンクーバー・ヴィレッジ、ワシントン・ヴィレッジ、KIHF(神戸・インターナショナル・ハウジング・フェア)等のイベントと並行して、米国政府の財政支援を受けてワシントン大学のCM学科オシンジャー教授を日本に派遣し、日本全国でCM教育普及事業が展開された。わが国の工務店が、米国のホームビルダーと同様な材料と工法とを使って、米国の消費者に供給していると同様な品質の住宅を同様な販売価格で供給することができれば、工務店は消費者に大きな利益を与え、輸出住宅事業は日本国内で大きく展開できると考えた。この間の経緯は井上書院『アメリカの家・日本の家』に詳しく説明されています。

 

HICPMはその政策を実践する技術移転団体として創設されたが、当時、私たちは米国の輸出振興政策は、輸入住宅産業経営の振興を通して消費者の利益を図る政策になると判断しました。そのためにHICPMは米国の住宅産業で使われている技術の国内への移転する団体を創設され、その後も一貫して技術移転を行なう業務に取り組んできました。日本の住宅産業自身の技術が米国の住宅産業と比較して遥かに遅れているから、国民のためにも、政府は米国の住宅産業技術の国内移転には協力してくれると信じました。しかし、結果は、その期待を裏切るものでした。国の住宅産業能力は、同じ品質の住宅を、米国で生産できる価格で供給できるようにするという政策が実現されて、日倍瓦当等の能力ということになります。その意味では、わが国の住宅産業の能力は、米国の半分以下です。政府は国民に欧米並みの優れた住宅を欧米並みん販売価格で供給する政策を輸入住宅政策として実施する説明したが、それを行なわれず、輸入住宅政策は、既存の住宅産業の利益保護にしか関心が持たれなかった。

 

この輸入住宅政策は消費者のためと説明されましたが、日米貿易均衡のための経済政策として、又は、わが国の住宅産業政策としてしか行われませんでした。政府の輸入住宅政策は、既存の住宅産業の利益を保護する範囲での住宅政策でしかなく、既存の住宅産業の低い生産性と後進性を破壊して、消費者の利益を拡大することで輸入を促進するものではありませんでした。戦後わが国の住宅政策は、住宅産業及び日本経済のためであっても、国民一般の消費者大衆の利益本位で取り組まれることはありませんでした。政府は住宅生産価格のコストカットには熱意を持たず、住宅産業の利益拡大に関心があっても、住宅購入者のための販売価格切り下げには全く関心をもっていなかった。そのため、米国政府が建設業の生産性向上の技術として紹介したCMを学校教育として取り入れることはなく、産業教育としてCM教育を導入することにも、全く関心を示さなかった。

 

1996年、米国政府がわが国に輸出住宅振興のためにCM(コンストラクション・マネジメント)の教授を派遣してきてからすでに20年を経過しようとしているが、わが国の住宅産業界にはCM教育が根付かないでいる。HICPMは1996年に創設されて以来23年間、全米ホームビルダーズ協会が下院のための教育してきたCM教育を、そのテキストを日本語に翻訳し、解説を加えて全国各地をセミナー行脚して、その教育に努めてきたが、国内に定着させられないできた。そのような理由で、わが国の住宅産業関係者にとって、CM教育は国内で実践されることのない技術として利用されないできた。そこで、今回は、米国におけるCM教育の概況を紹介することにした。

 

 

第35回 CM(コンストラクションマネジメント)学部とCM教育(MM第808号)

 

建設業経営管理学(CM)

米国の住宅産業の成長と米国政府(HUD:住宅都市開発省の推進した住宅産業政策(OBT:オペレーション・ブレーク・スルー:突破作戦)と対決し、工場建設に依らなくても現場生産によっても生産性向上技術を向上できると確信した全米ホームビルダーズ協会(ナショナル・アソシエーション・オブ・ホームビルダーズ:NAHB)は、デュポン社がポラリス潜水艦の操作技術で開発したCPM(クリティカル・パス・メソッド)/CPN(クリティカル・パス・ネットワーク)をジョージア大学のジェリー・ハウスホールダー教授の支援を得て、住宅生産管理技術に応用したことで、現場で住宅生産を行ないながら、工場生産技術に勝る高い生産性向上技術を実現した。

 

CM技術の開発に先立って、米国では戦後の高い住宅需要に対応する技術として、ニュージャージー州のホームビルダー、ウイリアム・レービットが戦争中に開発された戦場で仮設道路として鉄板に代わって大活躍した耐水性合板の過剰在庫を解消する技術として、それをそれまでの通し柱によるバルーン工法を合板を、米国の農務省森林研究所(USDAFL)の共同研究により、面材として利用したプラットホーム工法に改良した。建築構造技術としては、合板を使った床版と壁版と言う平板構造(ダイアフラム)をつくり、ダイアフラム構造で住宅を建築する高不静定次数のウッド・プラットフォーム・フレーム・工法を開発し、高い生産性を上げる住宅工法を開発した。この工法はそれまでのバルーン工法に様な木造軸組み構造とは違った木造平面版構造で構造体を構成するもので、高い構造性能と高い生産性で実現する工法であった。

 

建設業経営管理(CM)業務

建設業者は高生産性を実現できる設計図書を用い工事請負契約を締結してから、重大な工事管理経営業務に取り掛かることになる。設計圖書が確定し工事請負契約額が確定しても、その請負額で工事が実施できるわけではない。請負契約額は建設工事業者にとって、過去に行なってきた工事であれば実施できる工事額を上限に、「その額よりいかに安く工事を実施するか」が建設業者の経営の課題とされている。建設工事を合理的に行なう工事経営管理(コンストラクション・マネジメント)は、次の3要素が三角柱の各面を構成するよう組み合わせた管理業務で構成されている。各要素の変数は、コスト(経費:C)、クオリティ(品質:Q)、タイム(T:時間)である。CM=C・Q・Tという関数として示される。CMを各変数ごとにCMで偏微分したものが、以下に示す3種類の管理技術になる。

  • 工事費管理(コスト・コントロール):dCM/dC
  • 品質管理(トータル・クオリティ・マネジメント):dCM/dQ
  • 時間(工程)管理(スケジューリング):dCM/dT

 

工事請負契約書の内容である設計圖書はそれを実現する内容をすべてを金銭で置き換えることができる。その「工事経費を管理する業務」が「CC:コスト・コントロール」(原価管理)である。その設計圖書で実現する工事は、工事品質によって表現することができる。工事が実施設計どおりできていなければ、手直し工事や手戻り工事がTQC(トータル・クオリティ・マネジメント)として発生する。

 

それは最も浪費が大きい失敗を避けるべきことである。建築生産は実施設計で定められた工事品質を計画通り実現する業務と言い換えることができる。このように、「実施設計で定められたとおりの材料と労務の品質で工事施工を管理するQC(クオリティ・コントロール)業務のことを、建設業では、「TQM:トータル・クオリティ・マネジメント」(品質管理)と言う。設計品質どおりの工事を実現することは、最も時間とお金の損失を少なくする途である。住宅として建築主が手にする住宅の品質(Q)、住宅の建設費用(C)、住宅建設に要する時間(T)の全てが、最終的に建築主にとって住宅経営管理(CM:コンストラクションマネジメント)の3大構成要素であると考えられている。

 

その工事は、住宅を完成するための工事期間(工期)により管理される。工事工程を時間で管理することをスケジューリング(時間管理)と呼んでいる。建設業経営利益も、建設労働者の賃金も経営時間に左右される。企業の経営利益も労働者の賃金も、時間当たりの額を高くする生産性が重視されることになる。そのためには遊び時間(フロート)を最小限にする施工ネットワーク(CPN:クリティカル・パス・ネットワーク)を組み、 その中で無駄時間を取り除く技術(CPM:クリティカル・パス・メソッド)を使った工程計画が行われる必要がある。まさにタイム・イズ・マネーに集約される。

 

CM=C・Q・T

そのため、建設工事は、品質(Q:クオリティ)、費用(C:コスト)、工期(T:タイム)の三要素に読み替えることができる。そのため、建設工事時の管理は、資金管理、品質管理、工程管理による工事管理経営(CM:コンストラクションマネジメント)である。この3要素は、全く異質な内容であるが、建設工事を構成する3つの側面であるとも言われ、建設工事を三角柱に例えるとその3角柱を輪切りにしたとき三角形となり、その三角形の切断された部分が建設工事を構成する部分と考えたら理解しやすい。その三角形の三辺がコスト費:費用(C)、クオリティ:品質(Q)、タイム:時間 (T)で構成され、工事をどれだけ小さな単位に切り分けてもこの3要素は常に付きまとい、相乗し合う関係(CM=C・Q・T)にある。

 

各要素の管理は、3要素のうち他の2要素を定数と見なしたときの偏微分の関係(dCM/dC,dCM/dQ,dCM/dT)として行うことになる。この3要素はいずれも重要であるが、住宅建設業経営は製造業であるから、限られた期間内にいかに早く住宅を生産するかが建設業経営では最も重視されなければならない。言い換えれば、1戸建設することで獲得できる利益として使用する材料の無理、無駄、斑を省くことや、適正な工事品質をシステマティックに生産することで工事を円滑にできる。

 

なかでも、その生産速度を高めることは、建設業者としての建設工事費粗利をより短時間で得られるため、建設業者の総利益を工事速度に沿って高めるだけではなく、限られた時間でより多くの生産ができ、労働者の賃金を高めるか、企業利益を拡大することができる。このように同じ時間により多くの生産を行うことを「施工生産性」と言い、「施工生産性」を高めることが企業利益の拡大と建設労働者の賃金向上に大きな役割を果たすことになる。建設業における生産性向上は現代の最大の課題である。

 

江戸時代には木造建築技術が発展し、標準化、規格化、単純化、共通化が進み、最大の利益を実現するために、CMが現代米国で実践されてきた、それを江戸時代の職人の間では、「段取り8分に仕事2分」とわれていた。当時の大工・棟梁は工事生産性を誇り、社会的に最も高い賃金の得られる職人として尊敬されていた。経済学では、「価値を表すものは、価格である」と規定している。「職人の価値の高さ」は「職人の労賃」で決まる。同じ仕事をして高い賃金を得るためには生産性を高める以外に途はない。

 

建築学教育や建設業経営管理学の欠如の結果

建築士がいなくてもハウスメーカーは住宅を建設し、巨額の利益を上げ、有名建築家はジャーナリズムを賑わす建築を立ててきた。しかし、ハウスメーカーやそれと同様な経営をしている住宅会社から住宅を購入した消費者や有名建築家の設計した住宅を購入して資産を失わされ、欠陥住宅を購入させられた事例を見ると、建築士の設計及び工事監理技術に欠陥があることは明確である。わが国全体をマクロな視点で見て最もわかりやすい例が、政府自身が指摘するように、住宅購入者は住宅購入することで例外なく資産を失っていることである。また、既に絶望的な状態になっている新築住宅が中古住宅になったときの異常な値崩れ(中古住宅価格)に表されている。住宅は売却しない限り新築販売時の詐欺価格は顕在化しないため、新築住宅購入者の圧倒的な損失は、中古住宅になるまで潜在したままである。

 

資産価値が急落する住宅の問題

それに加えて最近大きく報道された「限界マンション」と言われる適正な維持管理がなされない空き家が加速度的に増大している。健全な修繕や維持管理ができない「限界マンション」は、急速に劣化し、売却ができない悪循環を辿って建設廃棄物状になっている。その原因はマンションを設計技術の欠如した建築士に設計させ、それを企業が売り抜けさせる「差別化」を売り物にした大きな不正利益収奪の結果である。不正を容認する住宅設計がなされてきた「物づくり」の結果である。建築士の住宅の設計技術が確認申請書の添付図書であって、実施設計を作成できないほど低い現状が、その後の工事費の見積もりも工事施工も適正にできず、利潤確保に走る業務に導いている。

 

「限界マンション」の解決として、政府はその原因がどこにあったのかを全く問題にせず、リフォーム事業で改善されると説明するが、リフォーム事業では、粗悪マンションは減少させることはできず、解消は不可能である。政府の言う「リフォーム」は、マンション所有者が損失を一旦、表に出すスクラップ・アンド・ビルドで、それを安く買い叩いたリフォーム業者が利益を上げるためのもので、衰退し始めたマンション所有者を救済するものではない。政府が考えている「フローの住宅」政策は住宅産業が金儲けをするための政策であって、住宅を所有する人の利益を中心に考える「ストックの住宅」の対極にある政策である。

 

わが国の住宅が資産価値を例外なく失っていることは、わが国の建築士制度や住宅政策が間違っているために起きていることである。建築士法、建築基準法、建設業法が、立法趣旨と法律どおりの施行がされていないため、国民を守ることができないできた。これは戸建て住宅地で都市の人口減少や高齢化で過疎化が進んでいく住宅地も、都心のマンション地でも同様である。これらの住宅は住宅産業が新築住宅販売で不等価交換販売と不等価交換金融で利益を上げ、住宅購入者が損失を被り、経済政策として住宅政策が日本経済を発展させてきた結果である。すべての住宅が例外なく購入時価格の半額以下になり、住宅を購入することで国民を貧しくしてきたためである。住宅の設計及び工事監理業務を行なっている建築士の設計技術を向上させない限り、基本的に改善することはできない。

 

住宅政策責任か消費者責任か

このような現象が社会問題になると政府も多くの識者たちは「当然起こるべくして起きた」と、あたかもこの問題について認識していたかのような発言を繰り返してきた。そして、住宅産業や住宅政策関係者は、等しく住宅所有者が納得して購入した住宅であるから、住宅の価値下落は「自己責任」であると言う。しかし、「自己責任」は政府の住宅政策の責任回避の理屈にすぎない。現実に発生した「限界マンション」や空き家が急増している戸建て住宅地には、例外なく発生した理由を説明できる経済的、技術的必然性、つまりそれを容認してきた住宅政策がある。そのため、結果論として過疎化に社会的必然性があり、住宅所有者の善良管理義務が果たされなかったと説明できても、住宅所有者に損失を与えた住宅供給者による不等価交換販売の不正を隠ぺいする無責任な発言にしかなっていない。

 

日本は法治国で国家は国民に納税義務を課している見返りとして、国家は日本国憲法で定めた健康で文化的な生活を保障しなければさらない。憲法の保障は国家行政組織法で定めた国家の行政組織による行政法、刑法、民法と行政制度の施行を通して実現している。住宅ローンの返済不能事故を始め、制度欠陥の結果、国民が被害を被っている問題で、消費者の自己責任を追及はできない。制度上の欠陥は国家の責任で国民の責任ではない。

第1義的には、住宅の設計・工事監理を排他独占的に行なう建築士の建築に関する専門知識と経験を持った技術者が、建築士法に定める設計・工事監理技術を有していない。建築士法の立法趣旨どおり法律が施行され、学校教育において人文科学としての建築教育を実施し、設計・工事監理の実務経験を積ませ、建築士法の立法趣旨どおりの建築士試験を実施すれば、建築士の設計工事管理技術は建築士法通りに向上させられる筈である。建築士法の適正な施行責任は国にある。

 

第2義的には、建設工学としての施工教育を改善し、実施設計が正しく作成し、工事費見積もり及び施工管理を確実に行なう施工経営管理者を育成できれば、住宅産業に必要な技術は整備できる。このように設計・工事監理を実施する技術者の実施経験を高め、建設業者の施工経営管理(CM)技術の改善をしないでは、住宅の設計・工事監理、並びに、施工経営管理を建築士法及び建設業法どおりに行なうことは望めない。その前提は実施設計を作成し、正確な工事費見積もりを行なうことである。

 

住宅の設計・施工に携わる建築士の学識経験とその倫理を高めないでは、住宅購入者に損失を与えている問題解決はできない。確かにモノづくりとして欧米の建築と比較して遜色のない住宅建築をつくことができた反論する人もあるが、重大な問題は、その住宅を住宅購入者の家計支出で支払える価格で、経年しても資産価値が向上し続ける住宅として供給する能力がないことである。新築住宅の品質としては欧米と同等のものをつくれても、それを家計支出の範囲で供給でき、将来的に維持管理できなければ意味はない。わが国では住宅は衰退し続けるばかりである。

「NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世」

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