HICPMメールマガジン第793号(2018.08.24)
みなさんこんにちは
8月21,22日静岡県掛川でHBKの定期例会が開催され、「女性が活躍する時代」をテーマに意見交換が行なわれました。静岡県掛川のウイングホーム(斎藤社長)の住宅営業で企業を成長した経験とその理論を聞きました。その会社は女性が経営から事業の全てで働いていて、そこから今回の定例会のテーマがつけられたようでした。私はその経緯を知らず、女性が社会で活躍する歴史を、フェミニズム運動と住宅の話「アメリカや物語」の話をいたしました。「木に竹を継いだ」私の講義になりましたが、結果的には私の話が合ってウイングホームの話「私は「新しい形の詐欺商売」と判断し、「企業の利潤追」本位の住宅成業の間違いを指摘できたと思っています。今回のHBKの定例会の問題は、現在のわが国の住宅産業の抱える重大な問題であるので、別の機会に説明します。
以下連載の「注文住宅」の開設を継続します。
法治国である自由主義国での違い
HICPMが、わが国の住宅産業の業務を欧米の住宅産業と比較して検討分析した結果、欧米もわが国の住宅産業も利潤を拡大するために努力をしていることは共通しているが、欧米の場合には、ZD(ゼロディーフェクト)と言って、生産過程に介在する無理・無駄・斑を発見し、それをなくすることによって利益を高めようとしているのに対し、わが国では、「差別化」という欺罔をすることで不等価交換を行ない、それによって利益を挙げることが行なわれていることが最大の違いのように思われる。
法治国は自由な経済活動が需要と供給という自由な取引が公平の原則によって行われることを国是とし、その実施を法律によって確実にする国家を言う。一方、販売する側が公告によって情報を操作し、販売側の情報宣伝を有利に行わせることで、購入する側の判断を間違わせ、販売側の意図通りの価格で販売することを「独占販売」と言い、自由主義国ではそれを犯罪として禁止している。しかし、わが国では政府自身が日本国憲法第14条に違反した「差別化による独占販売」を自由主義国による正当な販売とわが国社会が認めているところに、住宅政策の間違いが引き起こされる原因がある。
わが国の住宅販売において、政府は住宅販売を促進するために、住宅会社が販売価格と設定した価格一杯の住宅ローンを認めている。その結果、住宅購入者はすべての住宅が住宅ローンが提供されることで「購入できる対象の住宅」になり、住宅産業の顧客にされている。問題は価値の低い住宅を高い価格で販売するとき、消費者は住宅会社の広告宣伝に騙されて、販売価格相当の価値のある住宅と欺罔され、住宅を購入させられてきた。日本には建設業法も建築士法も不動産取引業法もある。しかし、政府は不等価交換販売で購入しても、消費者が納得した取引だから、「住宅購入者の自己責任である」という。
法律で決めていることとその前提になっていること
建設業法では建設工事における等価交換の実現を重視している。住宅販売を例にとって考えたときの、「建設業法の等価交換」とは、建設業者の供給する住宅の効用が消費者の求めている効用を具備した住宅施あることを前提にして、消費者はその住宅の価値に見合った価格を代償として支払うことである。そのときの「住宅」と「支払代金の価値」とが、「等価交換」であることが確実に行われなければならない。住宅の購入代金は貨幣で支払われているから、消費者は支払金額どおりの価値の貨幣を支払っている。しかし、住宅供給業者が供給している住宅には、販売価格の通りの価格が定められているが、その住宅の価値が販売価格相当であることは価格表示では説明してはいない。
建築3法(建築士法、建設業法、建築基準法)では建設業者の供給する住宅は販売価格相当の経済価値を保有することを法律に定められた方法で説明することを定めている。つまり、その住宅が住宅購入者の需要に相当することを建築士法による設計業務で明らかにし、それを建築基準法に適合することで証明し、さらにそれが安全で衛生的は効用を有することを建築基準法で説明する。その上で、その住宅の実施設計でその住宅を構成する材料と工法を具体的に明らかにし工事の見積もることを建設業法で求めている。その建設業法による工事費の見積もりにより、その住宅の経済価値は明らかになる。
代願設計により建築基準法に適合し、建築士に設計及び孤児管理させることで建築士法に適合し、代願設計を基に「材工一式」の略算工事単価を使って工事費見積もりをし、それを基にして工事請負契約を締結したから、この請負契約は建設業法に適合した工事請負契約であると建設業者も政府もその住宅政策で主張してきた。その結果、住宅を購入した国民の全てと言ってもよい大多数が、「住宅を不等価交換で住宅を購入させられること」で資産を失ってきた。建設3法が違法に施行されていることは設計図書そのものが建築仕様で設計図書と認めていない代願設計に依っている最初の出発から違反している。
第29回 「法律違反」を「法手続きで適正と見なす」行政(MM第793号)
公務員法では服務の根本基準で「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならないと定め、職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならないと規定している。建設業に関係する公務員とは、建設業法、建築士法、建築基準法の法律の施行に関係する公務員の全てが含まれる。公共事業関係の業務、建設関係法の施行業務、公共事業の監督委当たる行政法施行機関、会計検査院や検察庁に勤務する公務員の全てが含まれる。そのもとで行なわれる公共事業で違反が横行している。
機能を果たさない建設行政機関、会計検査員、検察庁
工事請負契約では材料と労務は価格によって特定されるから、価格を引き下げるために採用された材料や労務が、設計図書の記述と同等品であることは論理的にあり得ない。しかし、「無理を通せば、道理引っ込む」の諺どおり、それを契約形式上、辻褄を合わせる方法が「特記仕様書」の欺罔になっている。建設業法違反を行政上容認する解釈(建設業法施行の不正運用)、「特記仕様書を正式契約書類とする」会計検査院への説明と承認がされた。公共事業では公然と「欺罔」行われ、「手抜き工事」の欺罔を正当化する建設業法の運用が行われた。公共事業は行政機関内部での違法な法解釈を省内の共通解釈とし、「法解釈の官僚間の約束」で省内外を縛れると考え、不正を実行している。
米国の建設業者に米国内の扱いを尋ねたところ、工事監理者による「同等品の承認」は、「建築主に対する背任行為である」と説明された。建築主には分らない請負工事内容を工事監理者が「同等品の承認」行為を行なえば、工事監理者による承認行為は、建築主の利益を侵害する「詐欺・背任行為」で、米国では犯罪として刑罰の対象とされる。そのため、米国ではこのような「特記仕様書」は建設業法上存在しない。わが国で行われている「工事監理者による承認行為」自体、日本の建設業法上、刑法上、民法上犯罪行為である。しかし、日本では公共事業の第一義的な監督官庁である会計検査院がこの不正を容認し、起訴権を持つ検察官も行政官僚の解釈に従い訴追することはないので、犯罪にはならない。
全国各地で、有名建築家の設計した高額の建築請負工事で、建築主(発注者:公共事業主体)と施工者とが、学閥の関係で計画段階から設計者、施工者、建設業者が共謀し、有名建築家が工事監理者の立場で、「同等品の承認」で仕様変更を行い、最終的には、「設計圖書の差し替え」で建築主の利益を毀損する背任行為の証拠隠蔽が日常茶飯事で行なわれてきた。問題は建築主を含む設計、施工関係者のすべてが請負工事費の範囲で工事をまとめる労働を功労と勘違いしている。「手抜き工事」は「工事費がなく、追加更正予算が組めないから正当な措置」と考え、公共事業の発注団体に予算承認どおりの工事を行なわず、手抜き工事で辻褄合わせをした行為は、刑事訴追されないから問題はないとされてきた。
公然と行われている「納税者に対する背任行為」
わが国では多くの下請け建築士事務所が、元請け建築士事務所の指示で工事終了時点で実施図面一式をつくらされ、それを請負契約時の添付設計図書と差し替える刑法上の犯罪業務をさせられてきた。公共事業の場合、工事施工者は建設工事予算が議会承認を受けたことを無視し、工事予算に合わせた「手抜き工事」を「工事監理者による同等品の承認」の形式を整えれば、工事請負契約書添付設計図書を実施した工事図面と差し替えることは許されるとされた。それは、差し替え図書を請負契約書添付設計図書と欺罔し、議会に諮らないで設計内容を変更する「納税者に対する背任行為」であるが、そのような建設業法、民法及び刑法に違反した行為が、正当な工事請負契約として行われてきた。
このような状況に追い込まれた原因は、合理的な実施設計図書が作成されず、それに対応して工事費見積もりができず、建築現場工事が遅延し工事費が膨張し、工事資金の不足を手抜き工事でつじつま合わせを行なったものである。わが国の設計・施工のもう一つ欠陥は、建設現場で工事納まりが明確でないため、下請業者間で工事納まりの調整に手間がかかり工期が延長されたにも拘らず、それが原因で実際の建築工事が膨張していることに気付いていない。工期の長さが建設工事費用に関係する理解がない。「親方日の丸」と言われるように、公共工事では言われた工事は発注者の言いなりに行えばよく、工期も請負契約額も発注者の意思で変更されることは問題にしなくてよいという考え方がある。
予算が不足すれば追加更正予算を組めばよく、工期が不足すれば事業を繰り越せばよいとされてきた。発注者の意向でなく起きた問題は、工事業者に責任を取らせるやり方である。その原則も工期が順延し工事予算が不足し場合、公共発注主体は追加予算を組まず、その不足部分は当事者間の癒着で「手抜き工事」を容認し不足額を捻出する救済が行われてきた。時間(工期)延長が工事費増大になる建設業経営の認識がわが国の建設業者には非常に弱い。建設業経営管理(CM)は、建設工事を経費、品質、時間の三要素で経営管理することであるが、その教育がわが国の建設業者に行われておらず、工事現場での工事納まり図面がないことで大きな損失を生み出す原因になっている。
建築工事で常態化している「同等品」
合理的な設計圖書(実施設計)の作成を怠り、小手先で設計の欠陥を容認してきたためである。実施設計の不完全さが原因で工事が遅延し工事費が嵩み、工事資金が不足した情状を酌量して工事監理者による「同等品」の承認が頻繁に行われている。建設工事における手抜き工事は犯罪意図をもって行われたものは少なく、工事請負契約額の範囲で工事実施をするためにはやむを得ない行為として、行政法および刑法上の犯罪として訴追されることはなかった。しかし、この扱いは政治家・官僚・産業界が護送船団を組み、不正な利益を追求する場合と紙一重の関係にあるため、不正な利益追求のための「同等品承認」に対して厳格な法施行はできず、不正の温床を作ってきた。
通常、設計・工事監理業務は同じ建築士事務所で行い、大きな公共工事を行う有名建築家を擁する建築士事務所は、「同等品の承認権限」を濫用し工事業者に利益をもたらす不正な設計変更を要求し、工事監理者に承認をさせ、工事業者から巨額な資金の分配を指導料、寄付金、賛助会費等の名目で建設業者から建築士事務所にキックバックさせてきた。その結果、大手建築設計事務所は多数の下請け建築設計事務所を使って、建設工事引き渡し時に「差し替え図面」制作に膨大な作業をさせられてきた。その差し替え図面の作成は建築主に対する背任行為であるが、公共事業の場合、建築主である公共事業者自体が、「差し替え図面」での請負工事額で工事実施できなくなることも多い。
関係者は主観的には、「皆まじめに業務をやってきたから、だれの責任も追及できなく、請負工事費の中で処理するためには、手抜き工事もやむを得ない」として、正当な事務として受け入れている。建設業者でありながらCM技術を持っていないため、わが国の請負契約のように、設計図書(代願設計)と工事請負金額(概算額)を変更できない請負契約の基本条件とすれば、工程管理が行なわれていなく、工期が延長したときの解決策がなく、安易に特記仕様書に逃げ道を求めることになる。
適法な建設業業務実施のための条件
建設工事が適法に行われるためには、まず、設計者が建築設計に関する正しい設計知識と設計技術をもって設計業務をしなければならない。そのために設計者は、建築士法で定めているとおりに建築士に対する正しい建築に関する学識と設計・工事管理経験を有していなければならない。しかし、建築士が担当した設計及び工事監理業務は、建築士の排他独占的業務として実施することが建築士法上定められているが、建築士に建築士法で定められた設計・工事監理業務の学識・経験が欠如しているため、わが国では建築士がその業務を実施した結果、その住宅を購入した国民が損失を被ることになる。
住宅設計者に設計を依頼し、住宅建設業者に工事を請け負わせるとき、依頼される設計者及び施工者が建築主の希望する住宅をつくる学識経験を持つ者であることを予め確かめなければならない。しかし、それを消費者が実施することは不可能に近い。最良の方法は、その設計者が過去に行ってきた業務に対する社会的評判である。その選択の判断を政府は示さず、代わりに、政府は建築士法の建前を持ち出し、建築士に設計・工事監理業務を依頼することで、不安は解消できると説明してきた。しかし、建築士が消費者の希望する住宅を設計する能力を有するとは限らないことが、一般的に分かってきた。
平成25年国土交通省が公表した『中古住宅のリフォームと住宅不動産流通改善のラウンドテーブル報告書』の中で、「住宅購入者は例外なく、住宅購入後50年以内にその購入価格の50%以上の資産を失う」と政府の調査をもとに明記した。その住宅は建築士が設計・工事監理して造られた住宅である。すべての住宅は建築士がその業務をとおして設計したから、建築士に設計・工事監理を依頼すること自体が危険であることになる。国土交通省は住宅政策を実施し建設業法及び建築士法を施行している行政機関である。これらの行政機関が法律道理の機能をはたしていたら発生しないはずである。
大学の建築教育、国土交通省による住宅建築行政
建築設計業務の内容として、住宅の品質(デザイン、機能、性能)要求とともに、住宅購入者の購入能力に適合した住宅要求とがあり、その両方を満足するものでなければならない。わが国の建築教育ではその両方を満足させるための基本設計や実施設計を作成する教育は行われず、国土交通省のレポート通りの「住宅を購入することで資産を失う」事態になっている。建築士法で建築士の資格として学識経験を定めている理由は、国民の資産形成を実現するためで、その目的を果たしていない建築教育が行われず、国民が貧困になっている事実を明らかにしながら、政府はそれを放置している。
全米ホームビルダー協会(NAHB)は、米国社会では国民が正しく設計者及び施工者を選ぶことによって消費者に利益となく住宅をつくることができると選択方法を明らかにしてきた。「設計者も施工者も、それまでに住宅を設計し、施工した成果と同等の能力を駆使するわけであるから、業者の選択に当たっては、過去の実績とそれに対する社会的評価(評判:レピュテイション)を確かめないといけないとされている。米国では住宅取引のうち約80%が既存住宅であるため、取引に当って住宅の既存住宅市場での価格の経緯が分かり、ホームビルダーの評判も建設した住宅の資産価値評価で決められている。既存住宅は実物を直接見て確かめられるから、その住宅の設計及び施工能力を評価できる。
わが国の住宅展示場のモデルホームは、ハウスメーカーが外部の設計者の力を借りる等、企業として総力を挙げて造っている。モデルホームは消費者が設計を依頼する設計者の設計ではなく、工事を依頼する施工会社が造ったものでもない。住宅購入者の購買力を逸脱した高額住宅を提供すると能力があると宣伝するためでも、消費者はその能力を使う経済的能力はない。そのことを知っていてつくられたモデルホームは、ハウスメーカーの活用する技術力や信用力を説明していなければ、住宅購入者の購入対象の住宅モデルでもない。モデルホームは購入する対象の住宅ではなく、消費者の関心を引くための広告塔でしかない。米国のストリート・オブ・ドリームという展示場住宅は、最終的に売却される。
注文住宅設計業務とモデルホームの関係
米国でも「ストリート・オブ・ドリーム」と言って住宅会社のモデルホームがある。そのモデルホームは住環境と一体的に設計され最終的には売却される。モデルホームとして使うときは、その住宅の販売価格はモデルホームと同様な住宅を設計者と施工者が建設した場合、適正なモデルとみなされる。しかし、わが国のモデルホームのように、実際の取引する住宅の何倍も高額な住宅を見せて、そのイメージで住宅を販売することは、「顧客を欺罔する」詐欺行為として米国では禁止されている。
輸入住宅ブームのころ米国の設計によるモデルホームどおりの住宅を建てようと住宅会社に注文した弁護士が、米国のストリート・オブ・ドリーム同様に、モデルホームと同じ住宅を、住宅会社が供給する高級住宅の「相場単価」(モデルホームの建設価格の3分の1)で契約を締結した。しかし、実際に供給された住宅は、モデルホームどおりの入念な仕事ではないため、「詐欺」と訴えられ、全面的に工事をやり直しさせられた。日本の住宅展示場のように、実際に販売する住宅と無関係の高品質な住宅をモデルハウスとして造り、住宅販売をすることは米国では詐欺行為とも言われている。
わが国の住宅の価格は個人の年収の5-8倍もする高額な買い物である。モデルホームにはさらにその3倍近くの費用をかけている。住宅の価格と切り離して注文住宅の話はできない。購入価格の3倍以上もするモデルホームとは一体、何のモデルになるか。住宅の価格はその価値を表していることと同時に、その価格の住宅を購入する世帯の住宅に対する品質を満たし、家計費負担で購入できなくなっては意味がない。住宅が、価格相当の価値を持っていることと、住宅を購入するための住宅ローン返済が、住宅購入者の家計支出の範囲でできなくてはならない。
わが国で起きている「下流老人」の問題
現在、日本で起きている「下流老人」に関係する多くの住宅問題は、「貸家」でも「持ち家」でも、その建設価格が実際の住宅の価値の2倍以上に高額で購入させられ、その住宅を売却するときには半額以下にしかならない住宅であるため、すべての住宅居住者の貧困化の原因になっている。不等価交換販売により住宅を購入した人の持ち家の売却は、購買額の半額以上の価値分を損失させられ、「中産階級」と信じていた人を「下流老人」に引きずり込んでいる。住宅購入者は高齢化し、所得が減少し、住宅ローン負担が重すぎ住宅を手放さざるを得なくなったとき、購入した住宅の実際の価値が露見し、ローン額を下回り、「資産が負債」に転換するからである。
住宅展示場の住宅会社のモデルホームは、実際に住宅需要者が購入できる住宅とはかけ離れた品質と高額の住宅である。展示されているモデルホームのイメージで、ハウス・メーカー・ブランドの信用力を販売している。しかし、そのブランド力は「フローの住宅」の広告宣伝力であって、住宅が購入された後の「ストックの住宅」の価値を保証してはいない。建築主の前に現れてくる営業マンは、建築に関する教育を受けてはいなく、設計・施工の実務経験もないか、それと大差のない建築士である。その営業マンがハウスメーカーの設計システムを使って設計をまとめている。それ以外では建築士が設計をまとめているが、その建築士の建築設計能力も、建築士法で定めている設計業務能力を有しておらず、その設計で造られた住宅も、ハウスメーカーの住宅同様、その中古住宅価格は下落している。
建築士が対応しても営業マンが対応しても、同じ結果でしかない。ハウスメーカーは建築士法を守っても建築士を活用しても、何の利益もないと判断しているから、形式上、建築士法を遵守して「建築士の名義借り」をして業務を行なっている。住宅展示場に展示されているモデルホームも、消費者の購入する住宅の何倍もする高額なモデルで、消費者の購入額に見合わないもので、それが購入できるように思わせることは、「不当景品表示」で禁止されている欺罔である。購入の参考にならないモデルホームを見て、成約に誘い込む営業は、詐欺と言われても仕方がない。最近多くの建築士が自分で設計した住宅ではなく、海外事例などで「イメージ合わせ」と言って顧客に夢を抱かせ集客している。
「住宅設計業務」とはどのような業務か
わが国での「住宅設計」の定義自体が、欧米と違っている。住宅は土地と切り離して存在できず、欧米のように、土地と一体不可分の住宅とする「住宅設計」とは、その住宅の定義事態がとは違っている。当然、建築士法上の設計業務と欧米の設計業務とは、設計者に求められている学識経験が違っている。欧米では住宅設計に必要な知識は、建設される土地の歴史文化と居住者の成長とともに満足し続けることのできる住環境(人文科学としての建築学)とされている。そのため、住宅を建設後、その住宅資産価値が維持向上することに関心がある。家族の成長に合わせて常に高い満足を得られるように成長できる住環境であることと、その住環境に対応できなくなったときにはそれを売却し、購入時以上の価格で売却できることを考え、その将来のことに考えを及ぼして設計することが欧米の住宅設計である。
一方、わが国の住宅設計では住宅産業が住宅販売をするために、政府が住宅政策上定めた「性能表示」の対象となるモノづくりの「一過性」の知識とされている。政府の進めている「フローの住宅」政策では、販売した後の住宅には、政府も住宅産業も関心をもっていない。住宅の性能表示は実質性能ではなく、「差別化」のためで、計画性能で確認申請時に審査評価されればよいと考えられている。その評価は政府の優良住宅評価の条件として補助金の需給条件にされているが、住宅販売時の一過性の計画性能であって、実質性能を保証するものでもなければ、評価時点を経過すれば、それ以降は住宅居住者に評価された性能を保証するものでもない。この制度は、性能自体を計測する方法すら政府は準備しておらず、住宅購入者が性能に疑問があっても、実体性能を確かめる方法が「性能表示制度」にはない。
そこで行われる「物づくり」としての設計業務の成果としての住宅設計図書は、建築基準法令に適合する代願設計の作成がすべてで、建築士法で定める設計図書ではない。代願設計では建設工事の内容(工事詳細)を特定できず、工事請負契約を締結するための工事費見積もりも正確にできない。確認済み証を受けた設計図書(代願設計)は実施設計図書ではなく、確認済み証と実際の建設工事を照合して交付される工事検査済み証は、実際の工事を行った実施設計と工事を照合したわけではない。代願設計では工事監理もできなければ、施工業者の工事経営管理(CM)を行うこともできない。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)