HICPMメールマガジン第783号(2018.07.23.)

みなさんこんにちは

既存住宅(イグジスティングハウス)という概念はわが国にはなく、新築住宅に対しわが国では中古住宅(ユーストハウス)という概念があり、中古住宅は新築住宅とは全く異質の概念の住宅とされ、わが国では新築住宅と中古住宅とは、「月と鼈(スッポン)」のように異質なものと考えられている。しかし、欧米では新築住宅と既存住宅との間に基本的な差異はなく、住宅の取引価格としても基本的に差異はない。

 

欧米にはユーストカー(中古車)という概念はあっても、ユーストハウス(中古住宅)という概念は一般的にはない。住宅は土地を建築加工してつくられ、住宅不動産は居住者の生活要求や家族の成長に合わせて成長するものと考えられ、その住生活環境も、生活している居住者とともに成長する。家族が成長するに伴い生活要求は変化し、居住者は家族の生活要求に合わせて住環境を改善し続けてきた。そのため、欧米では、住宅不動産は居住者とともに成長させるものと考えられてきた。

 

住宅の資産価値は住宅が提供する住宅の効用に対応するものであるから、人びとは住生活内容を常に向上させようと努力しているし、居住者がその生活に合わせて居住環境を改善していけば、その効用の改善された分だけ住宅の資産価値は向上する。住環境自体は居住者の生活要求とともに改善を繰り返すことになる。そのため全ての住宅は居住者の生活要求に応える努力が行われる限り、人びとが使い続けている住宅、即ち「既存住宅」の効用は、「居住者の生活要求に応え続ける」と、欧米では一般的に考えられている。つまり、既存住宅はその時代の生活要求に適合した効用を維持している。

 

既存住宅にはその時代の求めている住宅効用を具備している住宅であると考えられるため、その経済的な価値は、既存住宅を現時点で建設したときに必要とされる材料と労務費を基に見積もった推定再建築費になる。土地費、建材費及び建設労務費の全ては、物価上昇率により引き上げられるため、既存住宅の推定再建築費は、その物価上昇率を加算した見積額になる。そのため新築住宅と既存住宅の価格は基本的に同じと考えればよい。住宅の効用と住宅の価値は等価交換される関係にあり、物価に対し連動する。この考え方が欧米の不動産鑑定評価制度における原価主義(コスト・アプローチ)である。

 

少なくとも第2次世界大戦が終わったころのわが国では、住宅は個人の資産(身上)と考えられ、粗末に扱うことはなかった。高度経済成長時代に政府は建て替え住宅政策でプレハブ住宅を進行させるために、住宅をスクラップ・アンド・ビルドさせるために償却資産扱いを始め、ベトナム戦争で米軍が敗北し、米軍の軍需産業労働者の住宅需要が消滅したとき、政府は軍需産業に代わって国民が住宅産業需要を作り出すため、「高地価負担をしないで済む住宅政策(住宅建設計画法)を立法し、地価ゼロの地上げ・建て替えプレハブ住宅と、調整区域(農地地価)での実質地価ゼロで公共住宅として供給した。

 

わが国の政府は、住宅政策によって国民の住宅を償却資産と位置付け、建設廃棄物にし、国民が住宅を取得することで資産を失うよう、住宅産業が半永久的に住宅需要に有り付ける政策を実施してきた。世界中に、国民の住宅を購入させ,それを償却資産にする政策を採っている国は日本しかない。住宅政策は国民のためではなく、住宅産業のために行われている。住宅は不等価交換金融と不等価交換販売により、住宅産業と住宅金融機関が巨額の利益を挙げ、消費者は資産を失っている。

 

 

第18回 住宅環境評価と注文住宅の作り方(MM第782号)

 

住宅は、人類が歴史に登場するとともに生まれ、すべての人たちの居住空間としてつくられて来た。そのため、住宅はすべての人が利用し、その生活を通して住宅関係の知識・経験を高め、住生活ですべての人が経験した技術を日常生活に生かしている。そのため、すべての居住者は住宅に関し経験豊かな利用者として、その経験したことの関係で住宅に対し「一寡言」もっている.居住者は住宅の設計・施工・材料の専門的学識と経験を有する専門家ではないが、主張には生活上の真実がある。

 

建築主の意見と住宅設計と既存住宅(イグジスティングハウス)

住宅設計を職業としている人には、過去の住宅に関する学識経験や家族の繫がりや変化を基に考えてきた家族論や家族経営論を研究し、人々に共通する家族の住生活の全体像を理解しようとする。その上で依頼主の生活空間をよりよくするために依頼人の家族の社会的な属性や社会的、経済的環境と住宅に対する要求を聞き、現在から将来に向けての望ましい生活を考える。その生活を受け入れる住環境に利用できる技術、材料、経営管理方法に活用する住宅環境を計画する。建築家は建築主がうらやむ住宅に関する情報を集め、将来的な社会的、経済的な環境変化に対応する住宅をつくる。そのために必要な消費者の生活の歴史・文化の調査研究や教育は必要であるが、わが国ではそれらが殆ど行なわれていない。

 

欧米では新築住宅の5倍以上の戸数の住宅が既存住宅市場で取引されている。既存住宅に住み替え(リプレース)する人たちは、基本的に、既存住宅の品質の良さを受け入れて購入している。既存住宅そのものだけではなく、その近隣住居環境(ロケーション)も具体的に確かめられるため、最も安心できるリスクの少ない住宅購入物件と考えられている。既存住宅はその利用実態、住宅の経歴を実物調査で確かめることができる。そのため、購入者はより高い満足を得るため、住宅の選択にあたり家族の生活要求に合わせ、コミュニテイィとの関係を含んだ既存住宅の住生活環境調査に基づき、住宅を購入し必要なリモデリングが行なわれる。

 

既存住宅市場での住宅取引が一般的な欧米では、既存住宅は常に実物大の情報で個人の生活要求を当てはめられるため、抽象論ではなく、実物大で住宅を確認・選択できる。しかも、住宅のロケーションを含んだ住環境の品質の比較は、欧米では不動産鑑定評価として一般的に実施され、既存住宅の取引価格として、経済価値との対応で考えられている。このことは売り手と買い手の双方にとって取引を客観的に検討する基本となる。その結果、既存住宅市場が中心となっている社会では、住宅購入者が求める住宅の効用「使用価値」と取引価格(経済価格)とに「ずれ」のない判断が行なわれている。

 

注文住宅と既存住宅のリモデリング

政府は和製英語で「リフォーム」と言って、「中古住宅を安く買い叩いて、内外装を新築並みに着せ替え、新築住宅に準じた価格で販売し、リフォーム業者が利益をあげる住宅政策を「リフォームによる既存住宅の資産価値増進施策」として推進している。その実態は新築市場の価格が高騰し過ぎて取引量が頭打ちになった状況の中で、新築住宅市場で捉えられなかった需要を、リフォーム事業として捉えようとする住宅産業施策で、既存住宅所有者の住宅の資産価値を維持向上させるものではない。

 

米国でも住宅のグレードアップをするリモデリングも取り組まれているが、それは、住宅の所有者本意の立場で、住宅の品質をより高所得の居住者の生活要求に応える住環境に改善するもので、住宅所有者が社会階層に見合った住宅立地環境に生活する要求に応えるものである。高い価格の住宅購入者層向けの生活要求に見合った大規模修繕を行ない、住宅所有者に満足を与えることが目的である。「ロケーション」と欧米で呼んでいる住宅地環境全体を、より所得の高い社会階層たちの生活要求に引き上げる取り組みで、街並みとして社会階層の特性を著わす住環境のグレードアップである。

 

米国で生活している芸能人で既存住宅を安価に購入し、それをリモデリングして高い価格で売却して利益を挙げた例が、「リフォームで金もうけをすることができる」例として、日本国内で紹介されている。米国では既存住宅を安く購入して、高く販売する投機目的の既存住宅取引方法が一般的であるかのような情報が独り歩きさせられている。米国の住宅市場は等価交換融資(モーゲージ)が基礎に等価交換取引が行われ、それが取引の前提になっている。不動産鑑定評価が前提で、それ以外の方法としてわが国に紹介されている「差別化」でリフォーム住宅が高額販売できているわけではない。

 

2019年から始まったTNARH(ザ・ニュー・アメリカン・リモデルド・ハウス) 

米国では2007年の住宅バブル崩壊後2015年までかけ、住宅産業の産業構造の修復が図られ、住宅を高い購入者層に販売するリモデリングが多数成功裏に行われた。それを広く進めるTNARH(ザ・ニュー・アメリカン・リモデルド・ハウス)が、2019年のNAHB・IBSから始まった。それはわが国のリフォーム事業のように、同じ住宅を高額販売することを目的とすることになっても、それは生活環境(ロケーション)を構造的高額所得者向けに住環境を向上させ、より高い所得の生活環境に適合した住環境に改善した結果で、住宅単体の高額販売を目的にした小手先の化粧直しではない。

 

米国の住宅バブルが崩壊したときに、住宅の価格下落によって生じた損失を回復するため、「これまでの居住者より購買力の高い階層向けに高額住宅を販売する」ため、住宅の品質を向上させる販売価格に見合った価格の材料と工法を採用するリモデリングが行なわれた。住宅の一部に「一点豪華」の超高級建材仕様を持ち込むことで住宅販売価格を引き上げる方法は、米国では通用しない。高級住宅は高級建材を住宅全体にバランスよく使うことが重要である。住宅バブル崩壊で購入価格が大幅に下落したが、住宅ローン債務を縮小する目的で、既存住宅をバブル崩壊前の高額で販売することを希望するならば、価格に見合った建材と工法を採用する必要がある。リモデリングは住宅流通販売業者本位のリモデリングである。住宅バブルの崩壊で住宅所有者の経済能力が激変する住宅市場環境の変化に対応した市場の再編成として実施された住宅地環境(ロケーション)のリモデリングであった。

 

米国の既存住宅市場では住宅地環境(ロケーション)を居住者の所得階層に合わせて、住み替えを含んで再編成を行なうもので、一般的な建築主の単独の要求によって実現できるものではない。その場合、住環境全体を高所得者階級の生活環境に「住環境を構造的に改変するもの」である。それは住宅に使用する材料と労務を高い品質に置き換える街並み景観を含み、住宅環境改善を総合的に行なうことで高額所得者への販売ができるようにするものである。基本的には、住宅不動産流通市場が、住宅市場の経済的要求に応えて行なっているもので、個別の住宅の問題として施工しているわけではない。

 

カスタム・ハウス、スペキュラティブ・ハウス、ホーム・プラン・システム

米国では全住宅の20%程度の新規建設住宅の中、10%以下がカスタムホーム(注文住宅)と呼ばれ、建築家に設計を依頼し、または、ホームプランシステムを利用し設計図書を作成し、その設計圖書どおりの住宅を建設する。大多数の人は優秀な建築家が設計したホームプランを活用するシステムを利用し設計業務費を節約し、その設計圖書を建築主の生活に合わせて修正(カスタマイズ)し、住宅建設業者(ホームビルダー)に施工を依頼している。または、ホームビルダーの住宅環境供給で準備された居住者の社会階層に対応したオーナメントを付けたオプションを選択し、注文住宅をつくっている。

 

中には、設計・施工・住宅地経営管理まで準備されたスペキュラティブ・ハウス(建売住宅)から、建築主が家族の生活に適した住宅を選択することもある。そのすべてが住宅建築の設計・施工・住環境管理の専門的な知識・技術で裏付けられた住宅の中から消費者が選択する注文住宅である。スペキュラティブ・ハウスは、その住宅販売に工事費の内訳明細の説明は求められず、販売価格が取引の条件となる。そのため、建売住宅一般が、投機的な利益が期待できる住宅として「スペキュラティブ・ハウス」と呼ばれているが、決して文字通り(投機的)に高額というわけではない。

 

住宅は注文する人に選択権はあるから、住宅の設計・施工者は、住宅購入者から住宅として選ばれなければならない。建築主に選ばれる設計者、施工者は、その設計・施工に関しては、過去に良い設計業務事績をつくり、尊敬に値する専門知識と技能を有する専門業者、技術者、技能者たちで、スぺキュララティブ・ビルダーは、人気の高い建築家を使った場合には、それをセールス・ポイントにすることもある。彼らは、住宅購入者と等価交換で住宅を供給し、社会的「資産価値を高める住宅設計や施工をした」と評価(評判)を得てきた業者である。

 

カスタマイズド・ハウスとホーム・プラン・システム

米国でのカスタムハウスの定義は広く、建築主の主体的な選択で造られた新築住宅や建築主の要求に合わせてリモデリングされた住宅も、広義のカスタムハウスである。狭義のカスタムハウスは、建築主の依頼に応え設計者が設計業務を行なう新築住宅である。実際に米国の住宅の多くはホームプランシステムを利用してつくられるカスタムハウスである。現在、欧米の住宅市場で流通しているホームプランシステムは、優秀な建築家が敷地条件を想定し、そこに一般的に想定する需要者の生活要求に適したカスタムハウスの設計図書を設計業務報酬の10%ていどの印税方式による設計報酬で供給している。そのホームプランシステムの概要は企業ごとに違っているが、基本的な考え方は、以下のとおりである。

 

カスタムハウスの設計料は、優秀な建築家が設計をするため非常に高額である。消費者は高い設計料を支払うことはできないため、建築家にはなかなか設計依頼はで来ない。そこでカスタムハウスの設計図書を印税方式で供給する方法が開発された。建築家は想定した設計条件に合ったカスタムホームの設計図書を、ホームプランシステムを経営している設計図書を作成販売事務所(企業)に送ってくる。ホームプランシステムは、優れたカスタムハウスの設計図書を、住宅の規模〈延べ面積〉建築様式、階数などの条件ごとにカテゴリー分類し、そのカタログ集を「ホームプランブック」として製作し、販売する。消費者はそのカタログ集を見て、消費者が建築しようと考える土地に建てられるホームプランを選びそれを消費者の求める購入価格に合うようにカスタマイズした実施設計図書(ディテールシートを含む)を購入する。使用材用や工法も住宅価格に合わせた提案をしてくれる。

 

実は日本の2×4工法のハウスメーカーが、「欧米の建築家によるカスタムハウス」を売りものに、米国のホームプラン者から実施設計を購入して、それを使って住宅供給を行なってきた。その企業は米国の2×4工法のシステムを習得していないため、日本の2×4工法のシステムに翻案して実施しているが、米国の建築設計を取り入れているという点では、素直に米国の技術を受け入れていると評価できる。しかし、「米国の建築家の設計」を売り物にして高額な設計報酬を得ることを目的にしたもので、米国のカスタムハウスの設計料を顧客から詐取するものでしかない。

 

欧米のホーム・プラン・システムの合理的な利用方法

欧米のホームプランシステムは1666年ロンドン大火後の都市復興時代から取り組まれた歴史を持ち、1776年アメリカが独立したとき、首都フィラデルフィアの都市建設に、ロンドン大火のときの設計施工システムだけではなく、建設労働者まで、ウイリアム・ペンがロンドン大火の復興事業が峠を越し、仕事を失いかけた大工やレンガ工たちを誘致した。「新大陸に出掛けて建設業で金儲けをしよう」と誘った。その結果、「フィラデルフィアは、建築家なしで作られた都市」と言われた。フィラデルフィアでは、ホームプランシステムを使った住宅建設システムをセットで新大陸に持ち込んだ歴史がある。

 

住宅は個人の所得と比較したら飛び抜けて高額な買い物である。その設計・施工は投下資金を大切にするために、無駄な投資にならぬよう資産価値の上昇する設計と、高い施工生産性を実現する実施設計が用意された。そこで、標準化、規格化、単純化を取り入れて、高額な住宅を消費者の購買力で購入できる方法が追及され、最先端にあるものがホームプランシステムである。建築家による基本設計では、建設した住宅が、人々が生活を始めてから家族の成長に対応して高い満足が得られるような住宅設計が基本設計として行なわれた。住宅建設が合理的な価格でできるためには実施設計が施工者・工事職人が高い生産性で実現することが求められた。それは現場における工事内容を標準化、規格化、単純化、共通化で高い生産性を実現することであった。

 

ホームプランシステムは米国の住宅産業の技術革新の頂点にあるもので、米国の住宅産業そのものが追及している「消費者のための合理的な住宅設計施工のシステム」である。消費者の住宅需要は複雑で同じものはないが、共通している内容は多い。実際に供給されているホームプランの数は無数であるが、その内容には共通していることが多い、消費者はそれぞれの要求に合うようにどのようにホームプランを選択するかという問題に直面する。その選択を誤らないようにするためには、欧米の住宅建築設計施工のシステムを正しく理解し、工事職人が最も仕事をし易くすることである。

 

住生活を固定的に考えない欧米の注文住宅設計の考え方

わが国でよく話題になる話は、消費者の生活設計を考えた注文住宅設計で、当初計画したとおりに子供に恵まれず、政府の住宅政策で重視されたか寝室型の住宅がつくられ、沢山の子供のために用意した子供部屋が物置になり、細切れにされたため空間利用の柔軟性を失い、後に間仕切りをし直すために無駄な費用を使った話である。一方、米国の初代大統領であったジョージ・ワシントンの住宅の歴史は多くの住宅関係図書に紹介されているが、平屋建ての住宅が、増築を繰り返し最終的には3階建ての住宅として、高い資産価値を持つようになったことが紹介されている。

 

人びとの生活自体家族の成長とともに変化し、個人の所得も変化するとした場合、住宅に生活する家族の要求の変化に柔軟に対応し、家族がいつも高い満足を得られることが設計の基本的に重要なことであると米国では考えられている。その理由は本人の満足だけではなく、居住者が満足できる生活環境は、社会的にも豊かな住生活空間と映り、社会的に需要の対象となるからである。米国的な見方では、個人住宅であっても、住宅は社会の重要な資産であり、その資産価値は住宅市場での取引価格である。よって、個人であっても個人資産を高い評価が得られるように経営管理することは必要である。

 

欧米では住宅を購入するとき、住宅ローンを受けることが一般的であるが、その住宅ローンは、等価交換金融(モーゲージ)であって、常に不動産評価の対象になっている。住宅自体の純資産(エクイティ)が上昇すれば、純資産を対象に金融機関は住宅ローンを追加して行ない、そのエクイテイローンが住宅のリモデリング費用として使うことができる。そのため、欧米では住宅は不動産投資資産と考えていて、居住者が高い満足の得られる活用のできることが自己資産価値を高めることになると考えている。その資産評価の考え方が、欧米の設計自体の考え方を規定している。

 

消費者を貧困化するわが国の注文住宅の考え方

わが国の住宅政策は戦後の住宅政策の始まりから消費者の生活要求は政策目的に入っておらず、軍需産業のためで、ベトナム戦争後は、順需産業向け労働者住宅需要が消滅し、住宅産業の利益が重視された。政府は住宅産業需要のため、消費者に住宅を購入させる住宅政策を始め、その住宅政策は住宅建設計画法時代には「量から質へ」が掲げられ、「居住水準」の向上が消費者向けの住宅政策と説明されたが、住宅産業のために住宅産業需要創出が政策目的であった。その後、住生活基本法が政策の基本として取り上げられたときには、住宅品質確保の実現や優良住宅政策が政策の表を飾ったが、そこで実際に行なわれた政策は、消費者に利益を与えるように説明した住宅産業本位の住宅販売政策であった。

 

政府は「差別化」政策と言って既存の住宅との違いを、主として住宅性能等で誇大宣伝できるようにし、消費者の購買意欲を高めるもので、「差別化」する内容として住宅販売価格を高くすることで、住宅の価値が高まったと欺罔し、住宅購入者に利益を与えてはいない。住宅購入価格が高くなっても、住宅会社と住宅金融機関は販売額と同額の担保を押さえて融資することで、消費者に販売価格通りに住宅を購入させている。実際の価値が高まっていないのに、高額でも消費者に購入できるようにして購入させるわけであるから、消費者はそれだけ損失を被ることになる。わが国の住宅政策は、不等価交換販売と不等価交換金融により、消費者を欺罔し等価交換販売と勘違いさせている。

 

政府は住宅販売促進策として「差別化」政策を進めることで、消費者は価値の少ない住宅を住宅金融により購入させられたため、それだけ貧困化させられている。わが国では住宅金融が住宅業者の言いなりに行なわれるため、消費者は高額の住宅でも購入できると勘違いさせられている。住宅を売却しない限り、高額な住宅の価値が低いものであることが消費者に露見しないように、「差別化」政策を、長期優良住宅や住宅品質確保制度を使って、価値の低い住宅を高額な住宅として購入させることで国民が貧困になっている。不等価交換金融を基本に行なう住宅政策が、わが国の住宅政策の基本として進んでいる。「差別化政策」は憲法第14条違反の政策で「差別化」は、憲法上禁止されている。

「NPO夫人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

(7月23日 MM第762号)

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