HICPMメールマガジン第780号(2018.07.12)

みなさんこんにちは

毎日のテレビ報道には全国の集中豪雨の被害、オウム真理教麻原彰晃の処刑、タイでに13人の少年サッカーチームの洞窟からの救出劇など大きな事件の報道でFIFAの結果が霞む位です。その中で安倍内閣がどさくさにまぎれ私利私欲と党利党略の追求をしている様子が際立っています。

 

今回の「注文住宅」は、欧米の最もオーソドックスな住宅・建築・都市教育がどのような考え方で行われているかを説明することにしました。住宅・建築・都市はそれらをつくることはそれらの事業の始まりを示すもので、最終目標は造られた住宅・建築・都市が消費者のニーズにいかに適格に答え続けていけるかということです。わが国とな考え方の違いにご注目ください。

 

第14回 技術と知識の裏付けを必要としている住宅・建築・都市(MM780号)

 

住宅不動産は個人資産であるが、同時に社会資産でもある。住宅は土地を建築加工して造られるもので、都市環境の構成要素である。住宅不動産は社会的に納得のいく効用(デザイン、機能、性能)があり、居住者がそこにアイデンティティを感じ、歴史文化を過去から未来へと発展させるものであるから、設計者自身が住宅の建設される土地の歴史文化と、居住者たちの歴史文化を理解することが必要である。

しかし、同時に住宅不動産は地域の街並み景観の一部の構成要素であり、住環境の一部である。

 

建築士により進められた無政府状態の住宅産業政策

欧米の人文科学教育としての建築設計(基本設計)は、住宅設計を行なう土地とそこに居住が計画されている入居者の歴史・文化・生活を考え、そこで造られた住環境が、未来に向けて熟成発展する住環境を建築家が設計するものである。住宅設計とは、住宅不動産を設計する建築家がその学識・経験と建築思想により設計する建築主の委任により行なわれる業務である。建築家の設計業務報酬はその技能力に見合った技術報酬単価に業務に掛けた時間の積で決められる。建築士法でも米国の建築家法の規定に倣って人文科学として建築学に基づく「基本設計」が行われた前提で業務報酬規程が定められる。

 

土地を建築加工して造られる住宅不動産は、国民により未来永劫に使われる建築環境でスクラップ・アンド・ビルドの対象ではない。そのためには設計者は「基本コンセプト」を作成しそれに基づく「ストーリー」と「ヴィジョニング」を作成する。基本コンセプトとストーリーとヴィジョニングに建築主の合意が得られたとき、建築家は建築主の要求を取り入れ「基本設計条件」が取り纏められる。その基本設計条件に建築主の合意が得られれば、基本設計が始められる。建築主に建設工事費を含めた基本設計の成果が受け入れられると、「実施設計」が始められる。「実施設計」は「基本設計」内容を材料と工法で価格として特定するものである。「基本設計」は、人文科学(ヒューマニティーズ)の分野(設計の必要条件)であるが、「実施設計」は、「基本設計」を材料と工法の数量と単価で工事内容を金銭(工事費)で決める建設工学(シビル・エンジニアリング)として実施する(設計の十分条件)ことになる。

 

わが国の大学の建築学教育では、欧米の人文科学としての「基本設計」も「実施設計」も行われていない。大学の建築教育では建築基準法令に適合した設計が重視され、実際の工事を確実につくるための「実施設計」図書作成の教育は存在しない。そのため、建築設計教育で作成された設計図書では、建設現場における各種工事の納まりも分からなければ、建設工事に必要な材料及び労務の数量及び単価を確定できず、工事費の見積もりは行なえない。それでも建設工事業者は建築主と工事契約を結ぶため工事費を知ろうと、「代願設計」と「材工一式」の概算単価を使って工事費概算見積もりで工事請負契約を締結し、下請け業者に仕事を分配して工事を行なってきた。わが国では実施設計の教育はしていない。代願設計では材料や工法の詳細までは決められず、正確な工事の見積もりは行なえない。

 

確認申請用の「代願設計」と工事施工を目的にする「実施設計」

工事内容を特定する設計図書が実施設計で、それは工事に使用する材料と工法を特定することで可能になる。そのような「実施設計」教育を行なえる能力のある教師はわが国の大学の建築科にはおらず、「実施設計」教育は行われていない。建築士の作成する「代願設計」では建築基準法令の適合性以上の内容を確認すること以上の内容を期待することは望めない。そのため、概算見積りで算出した概算額で、工事請負契約を締結する無謀なことが行われている。その結果、設計業務として行うべき実施設計で定められていない工事を、見積もられていない工事費で実施することが建設業者に求められている。

 

「実施設計」図書がなければ、工事内容が確定できないため、工事の原価管理、品質管理、工程管理という施工管理業務(CM:コンストラクション・マネジメント)も、実施設計通りの工事の工事監理業務(モニタリング)も行なえない。住宅産業が行っている業務は、建築士法及び建設業法に照らして無政府状態と言ってもよい状態である。高度経済成長時代、わが国では住宅を耐久消費財と考え、10年程度で住宅をスクラップ・アンド・ビルドし、GDPを高める経済政策の「フローの住宅」政策が行なわれた。そこでは建築基準法上の安全確認ができればよいとされ、建築設計業務は代願設計でよいとされ、長期間使われる住宅より使い捨てできる住宅が経済政策上も望まれた。

 

わが国では建築教育は消費者の目先の欲望を満たすための「物づくり」(建築工学)とされ、国民の歴史・文化・生活を考えた人文科学教育としての「基本設計」を作成する建築教育は無視されてきた。同様に、職人の技能は軽視され、単能工でも施工できる工法が望まれ、生産性を挙げる標準化された熟練技能を活用し、「実施設計」をする設計教育は行われていない。わが国で重視された設計教育とは、確認制度が全国適用になったため、建築基準法に適合した設計図書の作成で、それを建築士の遵守すべきコンプライアンスと説明した。それは消費者の豊かな住環境のなる住宅資産を形成する欧米で言う建築家の建築家の倫理規定が適用されるコンプライアンスを満たす住宅建築教育ではない。

 

欧米の基本設計で重視されていること:消費者の資産形成

日本以外の国では、住宅取得は住宅単独の物づくりではなく、住宅建築加工した土地と一体の住環境の形成である。住宅不動産は適正な計画修繕と善良な維持管理を施していけば、恒久的に利用される環境資産となる。欧米では住宅の取得は「住宅環境投資」と考えられ、住宅所有者には普通の投資同様の資産価値増による投資利益(キャピタルゲイン)が得られている。国民が住宅を所得することで資産形成を実現する住宅設計方法を建築教育で行なってきた。その背景には、都市は市民の合意によりマスタープランを尊重して造ることにより、市民にとって利益となる都市資産形成の歴史がある。

 

住宅設計や住宅地開発計画では、建築主の希望や期待に応えて資産形成のできる住環境を実現するためには、土地とそこに居住する人の抱えている基本的な要求への解決が不可欠となる。その設計のために尊重すべき内容を「基本コンセプト」として明らかにし、それを建築主と設計を担当する建築家との間で共有しない限り、基本設計は進められない。土地は住宅不動産に不可欠で、過去から現在まで辿ってきた歴史の延長上に未来がある。その土地の性格をどのように理解し「基本コンセプト」に纏め、それを設計と施工に具体化し、居住者に利用させていくかが、設計上の重要な課題とされる。

 

まず土地があり、そこで生活を形成する人のための開発であるから、計画された人の担ってきた歴史文化と生活を検討し、それを「如何に本人に豊かなものにするか」が建築設計である。その土地と居住者の歴史・文化の発展を考えた「基本コンセプト」をもとに共通の認識をまとめた「ストーリー」と「ヴィジョニング」から「基本設計」が始まる。「基本コンセプト」がしっかりできていることは、将来に向けてのブレない利用を可能にするもので、建築主のさまざまの要求は、それらの「基本コンセプト」、「ストーリー」、「ヴィジョニング」から導かれることがその計画の設計条件である。

 

物づくりから環境の経営管理へ

住宅を取得することで資産形成をするこれまでの住宅の歴史を調査研究すると、19世紀末にエドワード・ベラミーが『顧みれば』において、豊かな社会を実現するためには、人文科学的に人類社会を理解し計画的な社会計画を立案・経営することの必要性にたどり着く。ベラミーの「計画経済の持つ合理性」の影響を強く受けたエベネザー・ハワードは、自らを「住宅の資産価値を高める都市経営の発明家」と称して、『ガーデンシティ』で都市経営の理論発表し、「レッチワース・ガーデン・シティの実践」を通して、住宅都市経営による資産を形成する事業を、自らを「都市経営の発明家」として提案を行なった。

 

エベネザー・ハワードの『ガーデンシティ』で明らかにした提案は、人類がその英知を生かして、居住者が主体性をもって住宅地経営を行なうことでしか、住宅所有者が資産形成を進められる住宅を所有することはできないことを明らかにした。その方法とは、住宅所有者が主体的に住宅環境の経営管理を行なう経営管理を担う法人になり、住民の合意形成された住宅地環境の形成のルールと、住宅地環境の活用のルールという「三種の神器」(住宅地の経営管理主体とによる強制権を有する環境管理)による都市経営を実施することである。住宅地経営は善意の住民による同好会ではなく、住民の合意事項は強制的に履行させる住民の自治権力の裏付けをもった経営をしなければならない。

 

ハワードは、住宅地環境を居住者の成長とともに、憧れの対象となる住宅地環境として経営することを、産業革命を実現した経済理論を取り入れて、確実に履行する住宅地経営を著書『ガーデンシティ』の中で、ハワードは自らを「都市経営の発明家」と呼んで明らかにした。ハワードは、住宅は売り手市場を形成・持続することで住宅の資産価値は向上し続ける方法を、「住宅地経営の理論と実践で示すこと」により、欧米の住宅の資産価値を高める基礎を構築した。ハワードの「ガーデンシテイ」の理論は全世界で取り組まれた。その代表的な開発が「フォレストヒルズ・ガーデンズ」(ニューヨーク)、「カントリークラブ」(カンザスシティ)、「ラドバーン開発」(ニュージャージー)など米国各地で実践された。

 

1900年『ガーデンシティ』が発刊されたその90年後の1991年には、ハワードの都市経営理論は、次の3つのプロジェクトを総括し、これからの都市開発のあるべき姿をLGC(ローカル・ガバメント・チャンセラー)が開催したヨセミテ公園アワニーホテルで6人の建築家と200人の都市行政関係者による「アワニー原則」として集約し、居住者の豊かな生活重視の開発として展開された。

 

  • DPZ(アンドレス・ドゥア-二とエリザベス・プラター・ザイバーグ)が発展させたTND(トラディショナル・ネイバーフッド・ディベロップメント:伝統的近隣住区開発)による「シーサイド開発」(フロリダ)や、「ケントランズ」(メリーランド)を実現した。
  • 豊かな住環境を形成すればそこに人びとの求める都市ができることをピ-ター・カルソープはあきらかにして、「サステイナブル・コミュニテイの開発(永続し続けるコミュニティ)」を、「ラグナー・ウエスト開発」(カリフォルニア)や、歩行者重視の街「ザ・クロッシング」(カリフォルニア)や「ノース・ウエスト・ランディング」(ワシントン)として行った。
  • 有限の資源を使って、マイケル・コルベットは太陽と水と緑と土壌と風のエネルギーをを有機的に組み合わせて、地熱を活用し、風水を利用し、「エコロジカルなコミュニティ」による歩行者空間を街の生活空間とした「ヴィレッジ・ホーム」(カリフォルニア)を開発した。

 

これらの新しい開発を、官民がそれぞれの役割分担をして進めるための開発の合意形成が『アワニー原則』として纏められた。この原則は米国のクリントン政権の副大統領で、環境問題の専門家・アル・ゴアが「21世紀の都市白書」でまとめた。それは米国における新開発、再開発、都市経営に当たって、現代の「ニューアーバニズム」による都市の健全な成長(スマート・グロース)へと続いている。

 

「住宅の品質問題」と「住環境問題」

現在連載している「注文住宅」で扱っている問題は、欧米では例外なく住生活環境問題として捉えているが、わが国では、「長期優良住宅」と言う住宅単体の品質確保の問題とされ、その本質は住宅性能表示に置き換えられ、耐震性能から始まってゼロエネルギー住宅の性能・品質の問題に置き換えられてしまっている。住宅品質確保の保証から長期優良住宅制度と、住宅政策は、住宅の性能表示を住宅の優秀性と勘違いさせ、消費者に住宅を高額で販売する「差別化」政策の手段として「手変え、品返え」行なわれてきた。欧米の住宅に対する重点とは全く無関係な住宅の本質からずれた商業政策になっている。

 

「アワニー原則」の検討をするにあたって取り挙げられた上記3つの住宅プロジェクトのどこにも、わが国の政府や住宅産業が大騒ぎをしている問題は取り上げられていない。欧米の注文住宅を含む住宅として問題にされていることは、住宅が存在する限り、居住者に「いかに豊かな生活を営むことができるように経営するか」に尽きる。豊かさを享受できる住宅は、住宅単体では望めなく、複数の住宅が集まって住環境の経営管理をつくることで、人々の豊かな生活が保証できると考えている。その豊かな環境は時系列でみた場合、「過去・現在・未来の繋がり」と、「近隣空間への広がり」として近隣、地区、地域、都市生活の広がりの中で住生活を考え中ればならないことを教えてくれている。

 

英国の住宅政策は環境省で扱っていることは、住宅は人々の住生活を営む環境の問題であるから、住宅政策は住環境政策と同じであると英国では考えている。わが国が住宅政策で重視している「住宅の品質」は、全て物づくりとしての住宅単体の品質であって、そこで生活する人に提供する環境という視点では極めて貧しいレベルでしかない。住宅の中で営まれる住生活とその生活に対応する住環境というレベルの対応が問題にされるべきである。一方、わが国の住宅政策で問題にしているのは「物としての住宅」の物理的性能の固定的な評価に留まっていて、そこでの人びとの生活は問題にされていない。日本の住宅政策で問題にしている性能問題は、消費者の求めている環境管理の性能問題ではない。

 

評価する対象が欧米と違う日本の住宅品質評価

欧米の住宅産業の視点からわが国の住宅政策を見ると、わが国で問題にしていることは、欠陥住宅や手抜き工事を問題にし、それに抵触しなければコンプライアンスを果たし、高額販売が許されるとする住宅販売上の品質問題である。欧米の住宅産業が問題にしている「消費者が豊かな生活を営むために消費者が求めている優れた住環境を判断するための条件とは無関係な事項ばかりである。欧米では消費者が求めている効用を有する住宅は不動産鑑定評価制度において価値の高い住宅として評価される。わが国の住宅品質確保制度ででは、その欧米の評価に全く相手にされない実体の伴わないものばかりである。

 

わが国の大学教育で重視していることは、政府の住宅政策で重視していることでだけで、、住宅産業が「差別化」と言って消費者に不等価交換をするための欺罔の手段と言ってよいものばかりである。性能表示した住宅の実質性能を確認する方法を持たず、その違反者に違反是正を求める行政の機能が存在しない。性能表示されたものを確認し、又は追試験する方法が存在しない。理論的には性能確認することができるが、政府が責任をもってその確認を行うわけではない。試験費用を含んで性能表示の結果の正当か、不当かを供給者の保証義務として争うことは、現実には実施不可能である。誰にでもわかるおかしな制度が横行している住宅品質確保制度は、正義の通用しない国の制度である。

 

わが国の住宅政策は、欧米の視点から見れば、不当景品表示を容認して住宅販売をする住宅業者に対し、政府が住宅政策として不正幇助を政策的に行ってきた国である。その不正をもっともらしく国家の住宅政策に組み立て、行政機関が住宅の不正な品質評価をもっともらしく行なうことで。住宅業者の行なう不正な住宅販売を幇助し、不正利益を住宅販売で可能にさせている。その不正幇助の業務で、住宅行政およびその行政関係者が、一旦表示した結果を事実上修正できない制度を執行するために雇用され、巨額な賃金が国の外郭団体職員に支払われてきた。その費用の全てが住宅販売価格に転嫁されてきた。

 

設計者・施工者の仕事が見える住宅教育

私の四半世紀の官僚時代の住宅行政経験と、同じく四半世紀のHICPMでの住宅産業の調査研究を通して明確になったことは、住宅及び住宅地の設計・施工・住宅地経営に必要とされる学識と経験が日本と欧米とは全く違っていることであった。欧米の建築教育とわが国の建築教育とは異質な教育であり、住宅の設計・施工技術者の実務経験も相違していた。その結果、欧米のような建築教育を受けていないわが国では、過去・現在・未来の時間軸を考えて設計し、維持管理し、住宅地経営をすることはできない。わが国で、居住者が豊かな生活を営めるようにするためには、建築教育と設計施工制度を欧米のように改変する建築士制度とそれに対応した学校教育がまず取り組まれなければならない。

 

欧米では、住宅を保有した人が何らかの理由で住宅を保有し続けられなくなったときにも、その住宅は不動産投資による投資期間分のキャピタルゲインが得られる価格で売却できるように計画され、経営(計画修繕と善良管理義務の履行)がなされてきた。欧米の住宅地開発や住宅地経営に代わって、わが国では「住宅の価値を欺罔して売り抜ける」「差別化」しか考えていない。建築士とハウスメーカーに代表される住宅産業による業務は、企業利潤を最大にする「フローの住宅」政策であって、消費者の資産形成を損なってきた。その方法は住宅産業の利益のために不等価交換販売や不等価交換金融を行ない、消費者を欺罔して不正利益を獲得するものであった。その仕組みを成り立たせていた原因は、実施設計図書の製作をする技術教育が行われていないことに基本的原因がある。

 

住宅設計・施工技術が貧弱で、その上、建築設計・施工に必要な技術者教育が存在せず、建設職人を大切にせず、設計技術を担うべき建築士が存在しない。それにもかかわらず、日本政府は、能力のない技術者に建築士の資格を与え、建設職人の技能を尊重せず、使い捨てに粗末に扱い、企業の利潤追求のために行なわれる不正な業務を野放しにしてきた。欧米との比較ではっきり違うことは、建設職人は自分の行なった業務をその専門技術を覚えていて、それに誇りを持っている。わが国の職人には、その技能を誇る機会も、技能を研鑽する機会も与えられず、誇りの持てる業務実績も持てないでいる。技能者が満足する仕事のできない国で、消費者の満足できる住宅を供給することは望めない。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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