HICPMメールマガジン第757号(2018.02.05)
みなさんこんにちは
会員からの報告
先日、宮崎のHICPM会員矢野さんからお電話をいただきました。昨年中ごろから音信が途絶えていた上、12月6日のHICPMセミナーも欠席され、気に掛けていたときのお電話で、しかも声も元気に満ちていたので、うれしく思いました。そこで、「いかがでしたか」と尋ねたところ、「経営上で、大変な経験をして生還できた」ということで、何よりと喜びの気持ちを伝えたのですが、矢野さんの方から日本の建築教育が間違っていた話を聞いて、「何をいまさら」と驚きましたが、矢野さんがどのようなことを経験されたかは詳細には分りませんが、その仕事の上でご苦労され、あるゼネコンの建築家でいた方が、徹底的にコストカットをするための設計図書をお作りになって、それに基づく見積もりでその合理主義に徹した実施設計を見せられ、その中でコストカットを確実に行える内容であることを確認し、「自分もこのような努力をしなければいけない」ということが分かり、その認識を実践されて、会社立て直しの目途が付けられることになったというお話でした。
建築設計が諸悪の原点(間違った設計で顧客に損を与え、自らの経営を苦しめている)
私が日本の住宅産業の最大の弱点が「建築設計」にあることに確信を持てて、現在「日本の建築設計教育と欧米の建築設計教育の違い」を比較し、その対応ができるようなテキストを数年かけて纏めているところでしたので、そこで感じたことを矢野さんにお話ししました。「基本的に設計が欧米のようにできていないことだったのでしょう」と言いましたら、「その通りでした」という矢野さんの返事を聞いて、矢野さんの経験はまともな経験だと確信しました。建築工事は設計計画に基づいて行われるものですから、間違った決啓図書を使ってまともな工事はできるはずはないからです。日本では建築設計教育を全く行っておらず、顧客に設計依頼または行為依頼させるようなスケッチを示し確認申請用の図面(代願設計)を作成することを設計と言ってきました。その設計では欧米と比較して以下の機能を果たせません。
- その住宅を手放なさなければならなくなったとき、政府と日本の住宅産業が説明する「減価償却」と説明された半値以下の「中古住宅」になるものしか設計できない。
- 「代願設計」では正確な工事費見積もりができなく、建設現場での下請け同士の工事を調整する工事納まりが分からず、結果「現場納まり」に任せざるを得ません。
- 現在の「代願設計」を基に「現場納まり」と言われる建材業者の材料施工方法で造られた住宅では、維持管理及び修繕はできず、スクラップ・アンド・ビルドの対応しかできない。
欧米の住宅の基本は、標準化、規格化、単純化、共通化を基に、職人にとって最も効率を上げられる設計が行われているため、職人はどこの建設現場に行っても、慣れた材料と工法で高い生産性を上げて施行しています。全米ではAIA(アメリカ建築家協会)の共通仕様書一本で、建築材料や住宅設備も同じ原則で製作されています。職人に高い生産性を上げられるような設計と施工をする環境づくり造りに米国では政府も、住宅産業も努力しています。住宅設計は住宅産業と協調して施工しやすい設計を行なっています。その結果、正確な工事費見積もりもできるし、コストカットの途も容易に見つけられます。
工務店経営の日米比較
欧米との比較で日本の住宅産業を見ればその対比は明確です。顧客の関心を引くデザインを採用し、「差別化」により高額に表示だれている目新しい材料と工法を採用し、「半値8掛け5割引き」で仕入れ、材工一式見積もりを行なって計算した概算見積もり額で工事請負契約を締結し、建設現場では下請けとの間で工事納まりが決まらず、無駄な時間を空費し、職人と材料と工事が予定した金額と工程にはできていません。しかし工事費見積もりでは、下請け工事単位で材工一式の概算で見積もっていますから、正確な見積もりを知らず、各下請け工事に期待する粗利にしか関心がありません。そのため工務店に原価管理、品質管理、時間管理が行われていなくて、事実上、破たん状態になっていても心配をしません。
工事を締めてみれば、期待した粗利は使い果たし、「特記仕様書」に頼って仕様変更(手抜き工事)をして損失の発生だけは食い止めるという仕事をしている工務店や建築事務所が多くいます。欧米の住宅業界では、日本の工務店が供給している住宅と同一仕様であれば約半額の見積もりで、実際の工事も見積額とほぼ同じ額でできています。そのため、日本の工務店の設計図書と工事費見積もりの話をすると、日本の工務店は大儲けをしているのではないですかという反応が返ってくるはずです。
消費者本位の住宅産業経営に向けての努力を
今の工務店はネットを使い、いろいろな組織に加入して、終局販売と言った広告宣伝営業流通販売に力を入れていますが、建設業者として欧米のホームビルダーの努力している業は非常に軽視されています。その結果工事費以外の流通販売経費だけが肥大化し、顧客に販売している住宅価格の半額は、元請け業者と下請け業者と材料業者の粗利になっていますから、中古住宅が半額になっても当然です。
最近のTVでは、多くの国民は住宅を購入するだけではなく、住宅に居住することで貧困になっていることを問題に数るニュースが非常に多くなっています。住宅の顧客の支払いで経営を行なっている住宅産業が、その大切な顧客に「住宅に住んでもらって貧困にさせていて」は話になりません。住宅産業界のモラルはどうなっているのでしょうか。
以下連載の「注文住宅」を継続します。
住宅需要の消滅と住宅産業救済政策
1975年ベトナム戦争が終結し、わが国を米軍の兵站基地とする条件は基本的に変わらなくても、軍需産業自体を拡大させるための住宅供給が不要になり、それまでの公営、公団、公庫による軍需産業労働者向けの住宅政策は、突然、不要になりました。そして、これまで政府施策住宅として供給した企業や地方自治体や日本住宅公団にこれまでの住宅供給事業主体は需要を継続する目的が失われ、住宅産業が軍需産業労働者向け住宅需要が喪失した結果、政府施策住宅全体が需要を失い、放置すれば経済不況になるため、それに代わる政策目的が必要になってきました。
政府は、軍需産業労働者需要に変えて、一般国民を最終需要者としてこれまでの住宅事業主体への需要保障をし、併せてわが国経済成長を財政誘導型の住宅政策を展開しました。「軍需産業労働者向け住宅需要」から、「住宅産業向け住宅需要」への政策転換が、1976年にはじまる「住宅建設計画法」時代の始まりでした。重要なことは、政府の住宅政策は結果的にその供給する住宅は国民が居住することになるため、「国民のための住宅政策」と説明しましたが、国民の住宅今大改善は結果であって、その目的は住宅産業の救済であり、それに関係する護送船団の関係者の利益でした。
「住宅建設計画法」の本当の政策目的
それは社宅や公共賃貸住宅という軍需産業労働者向け「賃貸住宅政策」から、「個人が住宅購入者になる」「持ち家政策」への転換で住宅産業需要を維持する政策でした。その住宅政策への転換を、これまでの公営住宅、公団住宅、公庫住宅という公共住宅政策主導で国民に住宅を供給する住宅政策への大転換でした。公共住宅の供給事業主体は同じでありながら、入居者を軍需産業労働者から、国民一般の労働者・消費者に置き換えるものでした。この政策転換を、政府は「賃貸住宅から持ち家」政策を「量から質へ」の政策と国民向けの説明し、国民の豊かさが実現されるかのように説明してきました。しかし、政府内部で国民の住要求との関係での政策議論は皆無で、住宅政策で議論されたことは、これまで軍需産業向け住宅需要に置き換えることのできる新規住宅需要を生み出せるかという住宅産業経営の議論だけでした。最初に問題にされたことは、それまでの軍需産業、言い換えれば、重厚長大型産業の発展により地価は高騰し、その高騰した地価負担をして新設住宅を国民に購入させることは難しいと考えたことです。池田内閣による所得倍増計画は目標を超過達成し、国民の所得は上昇させましたが、土地はそれ以上に高騰していました。そこで持ち出された住宅政策提案は、国民の負担として「土地代負担をなしで住宅を購入させる政策」を展開することにしました。
その方法は、基本的に土地を所有している人たちに「建て替え」を促すとともに、高地価となっている都市部では中高層マンションにより地価負担の戸建て住宅と比較する政策です。そうすれば国民の地価負担を新規土地取得の戸建て住宅の土地代の負担をしないで住宅を供給する政策を実施しました。既存住宅のほとんどすべてが木造住宅でした。それらの木造住宅は戦災の経験から提唱された『不燃都市建設』の国家の都市づくりの目標に反対するものと位置づけられ、木造は都市政策上取り壊すべきとされました。それらに代わって、軽量鉄骨プレハブ住宅や鉄骨鉄板屋根のコンクリートブロック造住宅が推奨されました。建て替え事業を進めるためには既存木造を「無価値の住宅」と説明する必要がありました。そこで、公営住宅の家賃計算の便法として取り入れられた「減価償却」を既存の住宅の資産価値評価方法に持ち込みました。木造住宅の資産価値は20年で残存価値(10%)とする扱いを「国の建て替え住宅政策」として定められました。住宅展示場を営業拠点とするハウスメーカーに「持ち家の建て替え」による住宅建設営業を行わせました。ハウスメーカーは住宅・建築・都市に関し、専門的学識経験のない素人の営業マンを使った営業で、築後15年程度の木造住宅にターゲットを絞って木造建て替えの絨毯爆撃攻勢をかけました。
木造住宅をプレハブ住宅に建て替えさせる住宅政策
攻勢をかけられた木造住宅所有者は住宅の資産価値を減価償却によって評価することは過去に聞いたこともなければ、理論的にもあり得ないと抗議しましたが、建設省住宅局、住宅金融公庫、地元金融機関、地方公共団体は、プレハブ住宅開発と関係した御用者を使い、政府の方針に口裏を合わせ、「木造資産価値は実質ゼロ」と言い、軽量鉄骨プレハブ住宅を最も優れた住宅として普及しました。住宅不動産の価値を減価償却による残存価値とすることへの反発は強く、一時、その扱いに対し社会は騒然となりました。しかし、住宅不動産評価は政府の建て替え政策の基本で、予め政府の建て替え政策によって見解は統一されていたため、住宅局は住宅金融公庫、地方公共団体、金融機関にその方針を徹底して譲りませんでした。それらの疑問は、住宅政策の窓口担当者により一蹴されました。戦後に建設された住宅は資材不足もあって、住宅所有者自体、所得も所得倍増計画で急上昇し、インフレが高進しローン残債が実質目減りし、できれば建て替えたい希望者もあり、建て替えに踏み切る人も多数いて、結局は、建て替え政策が大きく展開されることになりました。しかし、戦災を免れた優れた伝統的木造住宅の場合、営業目標を与えられていたハウスメーカーの支店長や営業事務所長が、「夜討ち朝駆け」で住宅所有者の住宅に押し掛け、建て替え営業を進めたときの折衝には、厳しいものがありました。
建て替え住宅政策を巡る議論
そのとき、ハウスメーカーの営業責任者から持ち出された建て替え議論には、以下の議論がありました。
(1) 木造建築自体が都市火災の原因になる建設省の政策説明により、既存木造住宅は建て替える。
(2) 伝統木造住宅が「隙間風の入る」非健康的な住宅と非難。(プレハブ住宅推進大学教授の見解)
(3) 伝統的な木造住宅は、技術や技能水準が低く出隙間風が入る間違った説明。(木材の腐朽菌の活動を阻止するため、伝統的な技術は構造体(木材)に自然換気により酸素を供給している。
(4) 木造伝統住宅所有者に対する卑劣な批判:資産家が残存価値しかない隙間風が入り、ステンレス流し、換気扇、高気密スチールサッシ、バスやトイレに衛生陶器も使われていない住宅に生活し続けることは、地方の名士としての信用は失墜する。
(5) 「国家は鉄」であり「鉄製品を使った軽量鉄骨住宅は鉄を利用しただけで高級品」と説明した。
以上のような非難や脅しも混ぜて、地方の立派な邸宅に建て替えを迫ることも行われました。その結果、伝統木造を軽量鉄骨プレハブ住宅に建て替えることが雪崩を打って進みました。ベトナム戦争が終わり、軍需物資、中でも鉄鋼需要が急減し、軍需産業需要の要であった鉄を消費するため、国を挙げて大プロジェクトが取り組まれました。新幹線、高速(自動車専用)道路、地下鉄、千里万国博覧会、東京オリンピック、地下街、超高層建築物等です。
新たにわが国の産業界で中心的産業となった住宅産業では、集合郵便受け箱、換気扇、スチールサッシ、スチールドア、ステンレス流し、シリンダー錠、鋼製物置、ミゼットハウス、キーストンプレート、鋼製シャッター、軽量鉄骨プレハブ住宅、鉄筋コンクリート・鉄骨造等マンション鋼製部品を採用した。
後日談
建て替え住宅政策が一段落した1980年代に冷静さを取り戻した関係者が、「建て替え住宅政策」の結果、貴重な住宅資産を破壊し、取り返しのできない間違いをした」話は、当時のプレハブ住宅販売責任者から、自嘲的によく話題に取り上げられました。現在では信じられないような建て替え政策が、プレハブ住宅の営業マンを人海戦術で活用して進められました。既存木造住宅の建て替えを政府が組織的に推進した結果、ハウスメーカーを中心にした金融機関を巻き込んだ住宅産業政策として多くの住宅産業及び関係者の「フローの住宅」としての利益を拡大し、GDP最大化の経済政策をすることになったため、政府の住宅政策はバブル経済を拡大していきました。