HICPMメールマガジン第754号(2018.01.15)

HICPMメールマガジン第754号(2018.01.15)

みなさんこんにちは

 

私が「住宅による資産価値向上の話」を手変え品替えして会う人ごとに話しているのを見ていて、「自分だけが住宅問題の真実を知っている」と勘違いしているため、そのような話をするという批判を受け、そんな話を、HICPM会員は、誰も聞きたくないと言われました。今日は、私が10年以上の裁判闘争の結果わかったこだわりの問題を紹介することにします。断片的にはこれまでお話ししてきたことです。 

 

日本の常識、世界の非常識:本当の住宅購買能力

日本の住宅価格が、年収の8倍もして、不思議とされないほど高止まりしていることが長く続きました。最近では「年収の5倍以下でないと」という意見から「年収の3倍程度でないと」という意見が聞かれるようになりました。政府が「8倍までであれば認められる」と言った当時と、現代との違いを見てみると、労働者の給与構成として本俸と手当の構成比が大きく変わっていることが分かります。年収の8倍と言ったころは、各種手当や金融商品の配当等の隠れた所得があり、多分、実質所得比では8倍ではなく5倍程度で、インフレ経済と超長期金融の結果、支払い能力の中という説明になっていました。企業がバブル経済崩壊後倒産を避けるために手当てを削り、サービス残業と非正規職人に変え、企業の生き残りを図りました。政府はその企業の方針を全面的に支持し、気が付いたときには、正規雇用職員が例外的に存在し、非正規職人という労働者雇用体制に変質したことはみなさんご存知の通りです。現在の賃金を基に所得の8倍という議論はなくなって、生涯ローンに縛られることと低金利政策で「年収5倍の返済が可能」と詭弁を弄していますが、実際は実年収の3倍の住宅購入も困難な状態です。

 

日本の政治の狂い

本当は不良債権で経営不振に陥った企業を欧米では倒産させ、新しい企業の肥やしにすることが自由経済を基本とする資本主義の常識でした。しかし、日本では護送船団の国家経営で、政治家、官僚、産業人が個人的な人間関係を基にした法人の繫がりで、公私混同の企業救済が行われてきました。そのなれの果てが、法人税と所得税が徴収できなくなり、不足分が国債で補填され、その国債額が税収以上になる状態が生まれていました。住宅産業経営本位の政治で、住宅会社の販売額全額を対象にする過大ローンを政府が容認することで、消費者の住宅購買力を年収の5倍の住宅価格であるように政府は国民を欺罔してきました。欧米の金融機関のように消費者の返済能力を考えたら、世帯年収の3倍のローン以上の額の住宅ローンは、通常の国民生活上は困難であるのが世界の常識です。

政府の政策は不良政権企業の救済と、住宅産業や住宅金融機関の利潤追求のために、住宅の不等価交換販売と不等価交換金融を認める犯罪容認の政策を行なってきたのです。その結果、政府がその公式文書で明らかにしたとおり、「住宅を購入した消費者は例外なく、その購入した住宅価格の半額を50年以内に失う」(「住宅リフォームと不動産流通改善のラウンドテーブル報告書」:平成25年)のです。

 

国民が理解していない「徳政令」政策

国債の累積総額が一時、1200兆円という巨額な規模に拡大し、財政収支は均衡を失い、税収不足を回復することはできなくなり、政府は税収回復策手段を失っていました。そこで登場した小泉・竹中内閣の政策が、「聖域なき構造改革」という「徳政令」でした。

当時の財政危機の異常事態で、不良債権企業の巨額な不良債権を国家経済に影響させず解決する方策を検討した結果、解決策のヒントを米国の住宅金融機関の整理方策として不良債権企業を個別に明らかにし、その企業の経営責任者の責任を刑事事件として立件し、金融機関の整理を含む責任追及を行なった実例を参考にした提案を纏めました。その提案には、不正な金融を請け企業に損失を与えた経営者の個人資産の没収を含む社会的制裁の見返りに、不良債権処理を行なって地価下落による不良債権は、基本的に地価の回復以外に経済的救済の方法はないと判断されたので、その不良債権物権に対するスポットゾーニングを行なうことにより不良債権プロジェクトの不良債権解消分の容積率緩和を行ない、その影響区域を関連させて容積引き上げる政策をまとめました。それは、不良債権物権の歴史を都市の中で目立たせることになり、「後世の戒め」にする遊びも入れたものでした。

その政策を、当時HICPMの会員であった民主党の国会議員を介してニュースキャスターから議員に当選し、日の出の勢いに見えた海江田議員に議員会館に出かけ提案説明をました。海江田議員は頭ごなしにHICPMの提案を否定し、提案はそれ以上発展させられませんでした。その1年後にその民主党議員から小泉・竹中改革の「都市再生提案」が作成され、その内容が基本的にHICPMの提案と酷似しているので、HICPMの提案との関係はないのかと緊急電話が入り、質問されました。そこで、小泉・竹中内閣の「都市再生の要綱」を送ってもらい、その技術的対応策が酷似していることに驚かされました。その提案には、企業責任の追及を明確にするHICPMの基本提案は全く考えられていませんでした。私はHICPMの提案自体は「バブル経済で失った地価を単純に回復させればできる」という単純で基本的で、ある意味で幼稚な提案でした。それを小泉・竹中内閣で思い付いたのは不思議ではなく、竹中大臣らしい提案でした。政策提案は国民に広く受容れられるためには、単純で解り易いことが重要です。

 

憲法違反の都市再生法

小泉・竹中内閣がその後実施した方法は、「聖域なき構造改革」政策を「都市再生特別措置法」として立法し、その法律を根拠に都市計画法、建築基準法、マンション建て替え会陰活化法、建物区分所有法を立法し、関連の行政を政省令および通達の改正をとおして行いました。都市再生法関連の立法で取り組まれた都市再生プロジェクトが、都市のスカイラインを変えてしまうほど、都市の空間の秩序を狂わせました。その結果、全国で都市計画法及び建築基準法による許認可処分に対し行政不服審査が多数提起され、その審査会の裁決に不満を持つ消費者から行政事件訴訟が多数提起されました。HICPMもそれらの住民訴訟を支援し、10年間の合計100事件以上の訴訟を手掛けてきました。結果は不服審査はすべて却下の採決を受け、行政事件訴訟はすべて却下等敗訴の結論でした。

私はその採決と判決を横断的に検討吟味した結果、不服審査請求人及び行政事件訴訟の原告の訴えの如何に拘らず審査会及び司法は処分庁(被告)の処分を追認するものでした。いずれも、不服審査請求人や行政事件訴訟の原告の訴えに法律上の誤りを認めることなく、その訴えを排除したことを確認できました。要するに「都市再生特別措置法」の目的に沿って行われた憲法違反の行政処分を、司法は全面的に追認したのです。その作業をとおして私の記憶にアナロジカルに浮かんできた記憶は、1959年11月最高裁判所(裁判長田中耕太郎)が行った砂川判決でした。この判決では「日米安全保障条約は憲法に違反しているかもしれないが、日米安全保障条約を日本国憲法に照らして判断する必要はない、という田中裁判長の判決でした。

今回の都市再生特別法は、砂川裁判における日米安全保障条約の役割を担っている「憲法違反を正当化する法的根拠となるもの」でした。その目的において、都市計画法及び建築基準法の立法根拠となる日本国憲法第25条に違反することは明確です。都市再生特別措置法関連の行政事件が、田中耕太郎裁判長の最高裁判所法廷で争われたならば、以下のような裁判で判決を下したと思われます。

 

田中裁判長は「都市再生特別措置法」は、日本国憲法に違反する立法であるかもしれないが、日本国が巨額の国債で財政破綻に直面しているとき、それから、不良債権企業の救済を図るために都市再生特別措置法を立法することは、企業の経済成長に依存して国家の財政を行なってきた日本政府としては、緊急避難対策として導入されるべきもので、司法としては、「都市再生特別措置法」を日本国憲法に照らして判断することはしなくてよい。そこで、憲法第25条は健康で文化的な国民の生活環境を形成する根拠となる法律であることは承知したうえで、両立させたらよい。

 

砂川事件判決と同じ理屈(統治行為論)に立脚して、日本の司法(裁判所)は関連行政事件訴訟でそのような判決を事実上繰り返したのです。そして、日本国政府は、不良債権で破産すべき経営に失敗した企業に、国民共有の都市空間を無償で供与して企業救済する都市再生特別措置法の目的と都市計画法の目的とは相容れないものであることは、憲法を根拠に制定した都市計画法と都市再生緊急措置法を根拠に制定した都市計画法とは木に竹を接ぐ法律になっているのです。都市計画法及び建築基準法は、それぞれ一つの法律に組み合わされているが、「都市再生緊急措置法」によるものは、明らかにそれまでの憲法を根拠に制定された法律と異質の立法内容です。この明白な日本国憲法違反に私が気づいたのは、数年前ですが、このような理屈で憲法違反であることを確認できたのは、敗訴した事件を整理分析した昨年になってからです。しかも、これまでのわが国で憲法・法律学者、行政法学者、都市計画関係者、行政官、メディア、都市建築学者・研究者でその指摘をしてきた人は私の知る限り皆無です。それほど日本の社会は、憲法違反を犯してもそれを容認する闇に覆われているのです。

 

本日はこの年末から新年にかけて考えてきたことを皆様にお伝えすることにし、今回は連載してきた「注文住宅」セミナーはお休みにすることにしました。

皆様のご意見をお待ちしています。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

 

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