HICPMメールマガジン第753号(2018.01.09)

HICPMメールマガジン第753号(2018.01.09)

あけましておめでとうございます。

昨日NHKの再放送番組と思いますが、「近衛秀麿」をみて、1980年にABC開発の招聘されたときに、私に、「ノブレス・オブリージュ:高貴さは(義務を)強制する」という言葉を知っているか。と問われ、そのときは正確な意味を知らず、調べてみて、ABC開発が私に求めているものは、このような人物像なのかと思い、メディア関連の経営者は厳しい質問をするのだなと思ったことがあります。

 

私自身、戦後、日本国憲法に始まり、第2次世界大戦の過ちを繰り返さない生き方をしようと教育され、学生時代、日米安全保障条約反対運動に参加し、第2次世界大戦時代の「白薔薇通信」など多くの反戦運動の歴史を学び、戦時中の残虐な歴史を読んで、社会人になりました。建設省でスラム問題を5年間担当させられたとき、日米安全保障条約の背景で、米国の経済的要求で日本の炭鉱の閉山と農業構造改善という名の農政の合理化により、炭鉱と農業の失業者が大都市に集中し、私が住宅問題の原点と教えられた産業革命時代の英国のスラムと同様なスラムが日本に形成されていることに驚き、マルクスやエンゲルスの著作を読み、夢中でスラム問題のためにその問題を学びその対策に取り組みました。

 

戦時中のユダヤ人弾圧の中で、その救出のために努力した杉原 千畝やシイドラー等気高い生き方をした人たちは、世界中の人に大きな感動と勇気を与えてくれたと思います。私は1960年代差別により人権を蹂躙されていた未開放部落や在日朝鮮人の環境改善に取り組む仕事をとおして、自分の無力を感じながらも、何ができるかをいつも考えさせられてきました。近衛秀麿のTVは昨年も放映されたと思いましたが、私が未開放部落や在日朝鮮人部落を訪問し、それをきっかけにその歴史を調べ、彼らの立場に立って考えようとしたときの記憶が思い出されました。近衛秀麿の生き方を見て感激し、大切なことを気付かされ、私が取り組んでいる住宅に関し、もう一度この原点に立つ決意をさせられました。

 

近衛秀麿の記録TVは、「自分自身に誇りのもてる生き方」とはどのようなものかを考えさせる番組で、その能力、知力、門閥、学識経験、家族関係、交友関係など私とは「月と鼈」で比較することなどできません。しかし、「人間の志」と「気位」をしっかり持って、常に努力をし、「恥じることのない生き方」をすることではだれにも共通する生き方です。その共通することが、なかなかできないことですが、近衛秀麿の人生は、改めてそれを考えさせてくれました。「この年になって、今更決意しても」という意見があるかもしてないと思います。私は、志村喬主演のブランコに座って「命短し、恋せよ乙女」をうたった主人公の「生きる」姿勢を思い出し、人間はいつでもその生き方に取り組むことができることを思い出しました。その意味で今年の正月は大変に有意義なTVを見ることができたと喜んでいます。

 

個人資産としての「わが家づくり」の続きを今年も連載します。

 

建設業経営管理(CM)業務

建設業者は工事請負契約を締結してから重大な工事管理経営業務に取り掛かることになります。

設計圖書が確定し工事請負契約額が確定しても、その工事請負額で工事が実施できるわけではありません。請負契約額は建設工事業者にとって、通常、過去に行なってきた工事であれば、実施できる工事額であって、その工事額を上限として、「その額よりいかに安く工事を実施するか」が建設業者の経営の課題とされています。建設工事を合理的に行う工事経営管理は、次の3要素の管理業務として行なわれます。

 

CMを構成する3要素

(1)   原価管理(CC:コスト・コントロール)

(2)   品質管理(TQM:トータル・クオリティ・マネジメント)

(3)   時間管理(CPM,CPN:スケジューリング)

工事請負契約書の内容である実施設計圖書は、工事として実現する内容をすべて金銭で置き換えることができます。

その「工事経費(コスト)を管理する業務」が「CC:コスト・コントロール」(原価管理)です。その設計圖書で実現する工事は工事品質によって表現することができます。工事が実施設計どおりできていなければ、手直し工事や手戻り工事が発生します。それが最も避けるべきことです。

「実施設計で定められたとおりの材料と労務品質で工事を管理する業務」を「TQM:トータル・クオリティ・マネジメント」(品質管理)と言い、最も時間とお金の損失を少なくする途です。そして、工事は、その工事を完成するための工事期間(工期)により管理されます。

工事工程を時間で管理することをスケジューリング(時間管理)と呼んでいます。建設業経営利益も、建設労働者の賃金も経営時間に左右されます。企業の経営利益も労働者の賃金も、時間当たりの額を高くする生産性(工事費÷工期)が重視されることになります。そのためには作業が行われていない遊び時間(フロート)を最小限にする施工ネットワーク(CPN:クリティカル・パス・ネットワーク)を組み、 その中で無駄時間を取り除く技術(CPM:クリティカル・パス・メソッド)を使った工程計画が行われる必要があります。

 

三角柱で進められる建設工事

そのため、建設工事は、費用(コスト)、品質(クオリティ)、工期(タイム)の三要素に読み替えることができます。そのため、建設工事時の管理は、資金管理、品質管理、工程管理による工事管理経営(CM:コンストラクションマネジメント)であると言われています。この3要素は、全く異質な内容ですが、建設工事を構成する3つの側面であるとも言われ、建設工事を三角柱に例えると、その3角柱を輪切りにしたとき、その断面は三角形となりますが、その三角形の切断された部分が建設工事を構成する部分、または、下請け工事と考えたら理解しやすいと思います、その三角形の三辺がコスト費:費用(C)、クオリティ:品質(Q)、タイム:時間 (T)で構成され、工事をどれだけ小さな単位に切り分けてもこの3要素は常に付きまとう相乗し合う関係(CM=C・Q・T)にあります。

 

CMを構成する3要素の関係

各要素の管理は、3要素のうち他の2要素を定数と見なしたときの偏微分の関係(dCM/dC,dCM/dQ,dCM/dT)として行います。この3要素はいずれも重要ですが、住宅建設業経営は、製造業ですから、限られた期間内にいかに早く住宅を生産するかということが建設業経営では最も重視されます。言い換えれば、1戸建設することで獲得できる利益として使用する材料の無理、無駄、斑を省くことや、適正な工事品質をシステマティックに生産することで工事を円滑にできます。

なかでも、その生産速度を高めることは、建設業者としての建設工事費粗利をより短時間で得られるため、建設業者の総利益を工事速度に沿って高めるだけではなく、限られた時間でより多くの生産ができ、その分、賃金を高めるか企業利益を拡大することができます。このように同じ時間により多くの生産を行うことを「施工生産性」と言い、「施工生産性」を高めることが企業利益の拡大と建設労働者の賃金向上に大きな役割を果たすことになります。建設業における生産性向上は現代の最大の課題です。

わが国の江戸時代には木造建築技術が発展し、標準化、規格化、単純化、共通化が進み最大の利益を実現するために、現代米国で行われているCMが実践されてきました、それを江戸時代の言葉で、「段取り8分に仕事2分」とわれていました。当時の大工棟梁は工事生産性を誇り、最も高い賃金の得られる職人として社会的に尊敬されていました。

 

建築学教育や建設業経営管理学の欠如の結果

建築士がいなくても、ハウスメーカーは住宅を建設し、巨額の利益を上げ、有名建築家はジャーナリズムを賑わす建築を立ててきました。しかし、ハウスメーカーやそれと同様な経営をしている住宅会社から住宅を購入した消費者や有名建築家の設計した住宅や建築を購入して資産を失わされ、欠陥住宅を購入させられた事例を見ると、建築士の設計及び工事監理技術の欠陥があることは明確です。日本全体をマクロな視点で見て最もわかりやすい例が、政府自身が指摘するように、住宅購入者は住宅購入することで例外なく資産を失っていることです。また、既に絶望的な状態になっている中古住宅価格の異常な値崩れに表されています。中古住宅は売却しない限り新築販売時の詐欺価格は顕在化しないため、新築住宅購入者の圧倒的な損失は潜在したままです。

 

「限界マンション」

それに加えて最近大きく報道された「限界マンション」と言われる空き家が加速度的に増大しています。「限界マンション」は健全な修繕や維持管理ができないため急速に劣化し、売却ができず、悪循環を辿って建設廃棄物状になっていきます。その原因は、大きな不正な利益のマンションを建築士に設計させ、それを企業が売り抜けさせる「差別化」を売り物にした、住宅設計がなされてきた「物づくり」の設計です。「限界マンション」の解決に、政府はリフォーム事業で改善されると言いますが、それでは不可能で、政府の言う「リフォーム」は、マンション所有者が損失を一旦、表に出すスクラップ・アンド・ビルドで被ることで、それを買い叩いたリフォーム業者が利益を上げるというものです。衰退し始めたマンション所有者のマンション自体の資産価値を救済するものではありません。政府が考えている「フローの住宅」政策は、リフォーム投資をさせて住宅産業が金儲けをするための政策であって、住宅を所有する人の利益を中心に考える「ストックの住宅」をを「推定建築費評価」させる対極にある政策です。

 

既存住宅が資産価値を失っている理由

日本の住宅が資産価値を例外なく失っていることは、建築士制度や住宅政策が間違っていて、国民を守るために建築士法等の行政法が立法趣旨と法律通りの施行がされていないためです。これは戸建て住宅地で過疎化が進んでいく住宅地も同様です。これらの住宅は住宅産業が新築住宅販売で不等価交換販売と不等価交換金融で利益を上げ、住宅購入者が損失を被り、経済政策として住宅政策が日本経済を発展させてきた結果です。すべての住宅が例外なく購入時価格の半額以下になり、住宅を購入することで国民を貧しくしてきたためです。住宅の設計及び工事監理業務を行っている建築士の設計技術を向上させない限り改善することはできません。

このような現象が社会問題になると、多くの識者たちは、「当然起こるべくして起きた」と、あたかもこの問題について認識していたような発言を繰り返してきました。そして、住宅産業や住宅政策関係者は、等しく住宅所有者の「自己責任」であるといいますが、「自己責任」は政府の責任回避の理屈で説明になりません。現実に発生した「限界マンション」や空き家が急増している戸建て住宅地には、例外なく発生した理由を説明できる経済的、技術的必然性があります。そのため、結果論として必然性があって、住宅所有者の善良管理義務が果たされなかったと説明できても、住宅所有者に損失を与えた者の不正を隠ぺいする無責任な発言にしかなっていません。

 

建築士の能力が欠如していれば、良い住宅はできません

日本は法治国で、国家は国民に納税義務を課している見返りとして日本国憲法で定めた健康で文化的な生活を保障しています。この憲法の保障は国家行政組織法で定めた行政法、刑法、民法と行政制度の施行を通して実現しています。住宅ローンの返済不能事故を始め、制度欠陥の結果、国民が被害を被っている問題で、消費者の自己責任を追及することでは説明できません。以下に指摘する制度上の欠陥は、国家の責任であり、国民の責任ではありません。

第1義的には、住宅の設計・工事監理を排他独占的に行う建築士の建築に関する専門知識と経験を持った技術者が、建築士法に定める設計・工事監理技術を有していないことです。建築士法の立法趣旨どおりの法律施行として学校教育において人文科学としての建築教育を実施し、設計・工事監理の実務経験を積ませ、建築士法の立法趣旨通りの建築士試験を実施すれば、建築士の設計工事管理技術は建築士法通りに向上させられます。

第2義的には、建設工学としての施工教育を改善し、実施設計が正しく作成、工事費見積もり及び施工管理を確実に行なう施工経営管理者を育成できれば、住宅産業に必要な技術は整備できます。このように設計・工事監理を実施する技術者の実施経験を高め、建設業者の施工経営管理(CM)技術の改善をしないでは、住宅の設計・工事監理、並びに、施工経営管理を建築士法及び建設業法どおりに行うことは望めません。住宅の設計・施工に携わる建築士の学識経験とその倫理をたかめることなしには、住宅購入者に損失を与えている問題解決はできません。

 

「欧米と比較して遜色のない住宅」とは

確かにモノづくりとして、「欧米の建築と比較して遜色のない住宅建築をつくことができた」と反論する人もあるかと思いますが、「遜色のない住宅」とはどういうことでしょうか。重大な問題は、その住宅を住宅購入者の家計支出で支払える価格で、経年しても資産価値が向上し続ける住宅として供給する能力です。新築住宅の品質としては欧米と同等のものをつくれても、それを家計支出の範囲で供給でき、将来的に維持管理できなければ、意味はありません。わが国では住宅は衰退し続けるばかりです。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

 

 

 

 

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です