イタリアン・ヴィラ様式
英国の建築が華麗な華を咲かせた時代は、 後にジョージ四世とな ったプリンス ・リージェンツの時代である。 七つの海を支配した英国がその富に物をいわせて、 世界中から優れた文化を採り入れることになった。 英国南部ブライトンにあるロイヤルパビリオンは、 その代表例の一つである。 異国情緒の建築デザインをためらいもなく、 英国南部のリゾート地のデザインに採り入れたのである。 このロイヤルパビリオンの設計者がジョン・ナッシュ(1752〜1835)であり、 彼は、ロンドンの北側にあるリージェントパーク及びその周辺の都市計画プランナーとして、 現代でも人々を魅了するクレッセント(半月状)にサークルを囲むテラスハウスの設計者として人々に感動を与えている。 ナッシュはビクトリアン時代のピクチャレスク(絵画的)建築の代表的作家である。
1802年、 ジョン ・ナッシュによって設計されたシュロップシアのアーティンハムパークにある代理人の小規模住宅クロンクヒルは、 イタリアン・ヴィラ解説(前頁・表紙のことば)の英国における代表的事例とされている。ナッシュの建築思想は、 その後、 米国のアンドリュー・ジャクソン・ダウニングの建築思想に伝えられ、 フレデリック ・ オルムステッドのピクチャレスクな造園技術として、 欧米の都市計画に不動の計画指針として結実していくことになる。 その萌芽となった英国ビクトリアン時代のジョン ・ ナッシュによるデザインは、 ルネッサンスを実現したイタリアの建築美に原点を置き、 その中に古くから、 人々の心の中に懐かしさとともに、 ロマンスや騎士道の物語の中に伝えられてきた永遠に輝きを失わない造形上の美しさの実現にあった。
アンドリュー・ジャクソン・ダウニングは、 彼の不朽の名著「ビクトリアンコテッジ・ レジデンス」の中で、 イタリア様式のヴィラとして、 ここに示すデザインを紹介している。 邸宅aは小高い丘の上にあり、 自然の湖水から40m程度離れて立地し、 園内アプローチ道路bで車付け玄関前広場cに到着する。 ここから農園の別棟には邸内道路dでつながっている。 邸宅aには湖水を眺めることのできるテラスfがあり、 その前面にフェンスで囲われた幾何学的にデザインされた人工庭園が設けられている。 住宅の正面からの見取り図は非対称で、 右手に鐘楼があり、 棟には豪華な煙突がある。 平面形は2階建てで正面アーケードを入って、 大きなホールがあり、 左手に応接間、 図書館があって、 その先にテラスfが連なっている。主寝室の窓には窓台がある。