メールマガジン第859号(2019.12.09)
みなさんこんにちは
第17回 わが国のTND開発とサステイナブル・コミュニティ
(第16回はUSBを紛失したので講座を休み申し訳ありませんでした。)
1996年HICPM(NPO法人住宅生産性研究会)は創設以来、全米ホームビルダーズ協会(NAHB)との間で相互友好協力協定を締結し、NAHBが実践してきたことを、わが国でも実現できないかと技術移転に取り組んできた。その協定に基づき、NAHBはHICPMの希望に応えた助言を与え、HICPMは2000年を迎えるに当たって、米国とカナダの住宅に対する取り組みの調査を行なった。NAHBは「21世紀のタウンハウス」の実験住宅を、NAHBのBRI(建築研究所)内にTNDの実験住宅を建設し、また、カナダのCMHC(カナディアン・モーゲージ・アンド・ハウジング・コーポレイション)は、21世紀に向け、「HOME2000」(21世紀に向け、世代を超えて使い続ける住宅)の開発に取り組んでいた。CMHCは大学との協力事業として国中で住宅設計競技を行ない、多数の提案が具体的なプロジェクトとして実践された。HICPMは米国のNAHBやカナダのCMHCで取り組まれた「高性能と恒久性を持つ優れた品質で、消費者の購買力に対応できる住宅」の概念を明らかにすべく、NAHBとCMHCを訪問し、そこでの21世紀に向けた住宅デザイン開発を調査した。両国ともホームプランシステムを持ち、基本的には国民の購買力で購入できる住宅の資産形成を実現する住宅の条件を、試行錯誤を繰り返して21世紀に向けての住宅デザインを解明しようとしていた。
両国を代表する国家的な能力を有する住宅関係の2団体の調査結果から、これからの両国の住宅産業が取り組む住宅の基本要素をわが国に取り入れて纏めた住宅を、HICPMは、今後わが国で広く取り組むべき「サステイナブルハウス」として整理し開発した。つまり、HICPMはわが国の住宅産業の住宅計画に、時代要請に応えた4要素を住宅設計の基本軸に取り入れた住宅設計とホームプランシステムを展開することにした。NAHBとCMHCが取り組んでいた住宅は、HICPMサステイナブルハウスとして、以下の4つの基本項目の実現を目指の住宅として、その住宅の構成要素が整理された。
- アフォーダブル:住宅購入者の購買力に適合し、家計支出に対応した価格で取引される住宅
- バリュアブル:住宅自体の資産価値(エクイテイ)は経年的に物価上昇以上に上昇する住宅
- フレキシブル:人びとや家族の成長とともに柔軟性をもって対応する機能と性能性のある住宅
- グリーン、セイフティ&アメニティ:エコロジカルで地球環境を守るサステイナブルな住宅
この米国とカナダの住宅には英国の住宅の歴史が大きく影響していた。1666年のロンドン大火で焼失した住宅が木造市街地から耐火構造のレンガ建築に置き換えられたロンドン大火以後の市街地住宅と、20世紀初頭に建設されたエベネザー・ハワードによる2つのガーデンシテイとハムステッドガーデンサバーブ、第2次世界戦後のニュータウンやニューシティに立つ住宅を調査した。ロンドン大火後の復興住宅は産業革命後の労働者階級の現代に繋がる住宅で、ルネサンス建築様式を色濃く反映している。それ以前の貴族が中心のチューダー時代の装飾を重視したティンバー(木骨)住宅に代わり、産業革命によるレンガを使用した量産住宅の手法で、価格重視の住宅の実現には強い関心をもっていた。
英国における住宅デザイン評価
米国とカナダの両国とも歴史的には英国からの住宅技術を持ち込んでいる国であり、特に米国は1776年英国から独立し、フィラデルフィアが米国の独立後の首都となった。そのとき、首都建設ためにペンシルベニア州を創設したウイリアム・ペンが急遽ロンドンに出向き、英国の大工・建設業者に「緑の大地の建設に一緒に取り組もう」と呼びかけ、ロンドン大火後の景気の落ち込み時期を狙って、住宅建設のシステム、技術や材料を米国に持ち込むことに成功した。その結果、ロンドン大火後開発された耐火性能があるレンガ造の住宅デザイン、サー・クリストファー・レンがレンガ産業界を牽引して開発した標準設計(レネサンス様式:レンの開発したルネサンスデザイン)と呼ばれる建築デザインの住宅が米国に持ち込まれた。そのため米国で建設された住宅のデザインは、「ニュー・イングリッシュ・コロニアル様式」とよばれる。レンガ造のルネサンス建築様式の標準設計、住宅建設業者、大工、レンガ工など多数の職人が渡米しフィラデルフィアの市街地を建設した。そのため、「フィラデルフィアは建築家がいなくて造られた都市」ともいわれる。フィラデルフィアの市庁舎は著名な建築家が設計した世界最大の無筋コンクリート造の優れた建築物であるが、都市を埋め尽くした圧倒的多数の住宅は、英国から持ち込んだ標準設計で建設された。その職人たちが建設し同業者組合の建築物「カーペンターホール」は、大工組合や住宅建設業者が資金を出し合って建設した当時最大規模のホールであった。そこで最後の植民地議会が開催されたと伝えられている。それほど大工や建設業者は大きな力を持っていた。
このように新大陸には英国の建設産業が大きな影響を持っていた。そのような歴史もあって米国に持ち込まれた住宅の歴史を調査するため、HICPMは英国にも出かけた。そこで見学した住宅は20世紀を代表するガーデンシテイとそれに倣った戦後の大量な住宅需要に応えて取り組まれたニュータウンと、ニュータウンの行き詰まりを打開する都市開発と言われていたミルトン・ケーンズ・ニューシティであった。戦後20以上のニュータウンがニュータウン公社により建設された。将来計画を厳しく制限したニュータウンは、経済成長を頭打ちにする都市との批判が生まれていた。その批判に対し、英国政府はミルトンケーンズでは、「ステージ・コンストラクション」(時代とともに建設する都市建設)を掲げ、都市を熟成させる計画理論に立っていた。都市内全域に網の目のように道路を張り巡らせ、高速道路と市街地内の生活道路を立体に分離・計画した。ニューシテイ内の自動車専用道路の交差点には自動車の駐停車する空間のないラウンドアバウト(「ロータリー」交差点)で自動車道路が構成された。都市全域に交差道路をなくし、交通信号を設けなくて安全で渋滞のない騒音の低い町を建設した。
その住宅地の中に最も進んだ斬新な住宅デザインの開発したモデルホームの住宅地も取り入れて開発されていた。そこで「英国の未来に向けた住宅の実験」が行われていた。英国も米国やカナダ同様「輸出住宅政策」を展開し、わが国への住宅輸出を検討しており、見学に出かけたHICPMには、最新デザインの住宅プロジェクトを詳細に説明してくれた。モデルホーに対する英国人の関心は高く、モデル住宅地会場は黒山の人集りであった。そのプロジェクト責任者に最新デザインの住宅の説明を聞いたところ意外な説明が返ってきた。新しい住宅モデルに対する関心は想定を遥かに超えていたが、見学者の多くは見学するだけで購買する人は少なく、住宅産業の期待を裏切っていた。展示住宅は目新しいことで消費者の関心が高かったが、消費者がその住宅を恒久的に保有し、資産価値の上昇に期待が持てないと感じ、購買を躊躇していた。金融機関がモーゲージ評価をどのようにしてくれるかも不明確あり、将来の既存住宅価格が現在の購入価格より高い価格で売却できる保障も確信も持てないでいた。ミルトンケインズはロンドンでも高い人気のある住宅地であるので展示された住宅は間違いなく売り切れると信じられていたが、ロンドン市民の不安として既存住宅の取引価格に大きな不安を持っていた。
米国とカナダの住宅とわが国の住宅:理屈の通った故密度開発
英国は戦後、1960年代には「アメニテイ」と言う言葉が最も早く登場し、欧米社会で最も沢山使われた住環境への関心が高い国である。欧米では土地と住宅とは一体の不動産で、「住宅建設は住環境形成である」と考えられている。その環境評価の基本となっている「物差し」が「アメニティ」(快適性)と言われており、住宅・建築・都市は環境形成の事業とされている。英国の住宅・建築・都市行政は、環境省の所管事務である。この英国の住宅に対する見方や考え方は、米国とカナダの住宅の考え方に影響を与えている。わが国も1968年に英国の都市環境を日本でも実現するように都市政策決定をし、英国の「都市農村計画法」を、英国の法律制度通りわが国移転する政策が閣議で決定され、都市計画法案が作成された。その「都市農村計画法」とは都市環境計画とその実現と管理を行なう法律制度であったが、わが国では英国の土地と建築物一体の都市計画法制度を受け容れる環境になく、「土地と建築物とは別の不動産」と規定する民法の規定に合わせ、英国とは異質の新都市計画法が立法された。
その上、わが国では宅地造成事業が住宅都市整備公団(住宅公団、宅地開発公団の行政改革による合併)地方住宅供給公社等で行われてきた。それらの宅地造成に要する資金は、財政投融資から公団・公社事業として行われ、その資金の金利は7.5%という商業金利とされ、政府は土地開発によって財政投融資会計を潤すことしか考えていなかった。その資金を利用した公的宅地開発は宅地造成価格が高額になり過ぎ、敷地面積は最小限に切り締められ、建築基準法に定められた建蔽率では建築物も満足に建てられず、自家用車用車庫や駐車空間の確保も困難な状態で、道路へのはみ出し駐車や、路上駐車を余儀なくされた。宅地造成をしても固定資産税負担が過大になり、住宅建設(ビルトアップ)が非常に困難になった。そこで政府は租税特別措置法を改正し、敷地ネット面積が200㎡以下の敷地に関しては、租税額を法定固定資産税額の6分の1に引き下げる措置を「暫定措置」と言い訳して断行した。その結果、米国やカナダの住宅敷地とわが国の住宅敷地は比較にすること自体が困難な状態にされている。
英国や米国の住宅地を見学し、国民に供給すべき住宅は、私達が米国やカナダの住宅から知ることの出来た「サステイナブルハウスの4条件」であることが理解できても、それをわが国で実現しようとすれば、住宅地の土地面積の絶対的な狭さが問題にされた。そこで米国やカナダの地価を調べると、地価水準は都市によって大きな違いがあり、決して安いわけではないが、高い地価の土地を利用して優れた環境の住宅地を造っている理由を調べると、高密度開発を住宅地環境全体の環境計画を前提に実現可能にしていることが分かった。特に米国のTNDでは、PUD計画の中でタウンハウスが活用され、高密度で美しい環境開発を実現している。その住宅地の開発技法がTNDであることが分かった。
高地価国の米国とカナダから学ぶべき技術:PUD開発
1950年わが国の建築基準法が米国の都市計画法(ゾーニング・コードとサブ・ディビジョン・コントロール)から、わが国の都市計画法(土地利用計画)と建築基準法第3章規定に取り入れられている。しかし、米国のゾ―ニングコードは慣習法であり、わが国のような成文法でないため、わが国の理解ができないでいる。わが国では立法当時、建築基準法及び都市計画法に取り入れられていた基準自体が条文上存在し機能していたが、判例が法律で高い法律知識がないと理解できないため、わが国に導入された米国の法令は行政上、正しく引き継がれていない。米国の都市計確保に登場するユニット(団地:建築基準法施行令第1条第一号)の活用も存在も実際の行政上忘れられている。しかし、米国では「2×4工法タウンハウス」として中低層高密度開発に一般的な開発技術として利用されている。そこで、HICPMでは2013年ごろから米国のTNDとして実施された開発技術としてHICPMの会員事業として2×4工法タウンハウスをTNDとして実践することに取り組んだ。その代表的事業としては、「泊山崎ガーデンテラス」(アサヒグローバル建築(株)、四日市市)」と、ガーデンヒルズ(工藤建設、横浜市)「荻浦ガーデンサバーブ」(㈱会社大建、福岡県糸島市)である。この3つの住宅地は建築基準法施行令第1条第1号に定める「用途上不可分の一団地」に建設される住宅である。「泊山崎ガーデンテラス」は敷地約4、000㎡の住宅地の中央に水の流れる小川を設け、小川に沿って、桜やその他の花木61本が植えられた公園を取り囲み、全19戸の住宅が建設されたコートハウスであった。一方「荻浦ガーデンサバーブ」は、同じく約3、500㎡の住宅地に人工地盤を建設し、人工地盤上に18戸の2階建てタウンハウス4棟18戸とコモンハウスとが建設されている。いずれの住宅地も、住宅棟間空地には花木の植えられた公園が造られ、その公園のアメニティを各住戸が享受している。
この計画技法は米国の2×4工法タウンハウスが一般的に採用している計画技法で、「公園環境の中に住宅を計画し、居住者には豊かな公園環境を享受させ」ている、また公園の緑が、居住者相互を「プライバシーを尊重しながら、相手からの干渉を回避する計画である。この人工地盤の下に住宅空間を取り入れ、その空間を住空間を造ることで、個人住宅全体の延べ面積で180㎡以上の空間にしている。住宅自体は屋根裏空間利用で130㎡以上程度にまで利用面積を拡大し、人工地盤内の地階空間(約50㎡)には、居住以外の商業・業務利用を考え、ミックストユースを図り、それを自ら利用するほか、賃貸利用に使い、その空間から収入を得ている。「荻浦ガーデンサバーブ」では、液状化の危険性のある軟弱地盤を耐震的に信頼できる安全地盤とするべく地下工作物として造り、その内部空間を今後のライフスタイルの変化に柔軟に対応できる空間に利用し、世代の変化に合わせ、必要な空間として利用できるよう計画している。また、この敷地に降った雨やこの住宅からの排水を「ためトット」と名付けられた雨水・雑排水浄化装置で浄化し貯留することで、非常時の飲料水利用を考慮して植栽向けの中水利用が行なわれる一方、地下の恒温性を利用し、エアコン冷却水として利用できるようになっている。
「泊山崎ガーデンテラス」も、「荻浦ガーデンサバーブ」も小さな前庭の中央に計画された細長い歩行空間で住宅の前提と公園とを一体に有機的に結びつけ、空間全体として十分広い公園を形成している。この歩行者道路の両側には各住宅の個性豊かな前庭があり、その全体として多様性が混ざり合った公園空間ができている。お互いから見られる公園空間を介して居住者の生活を理解し合う繋がりを造り、各戸が前庭を管理する結果、住宅地全体が各戸の個性を生かしながら総合力の公園を作り出している。
NAHBの会員のニューアーバニズム事業では、降雨水を循環利用する事例や住宅をミックストユース(住宅用以外の利用)やミックストハウジング(貸家貸間の別世帯の同居)の計画や、家庭菜園などを住宅地として計画することで、住民相互の活動を刺激させ合う例も多い。住宅地の中に「コモン(共有地)」を計画信組の利用を住民の合意で工夫することで、居住者の多様な能力を生かす事業を展開できる。米国から学んだニューアーバニズムの技術は、TNDと結びついて豊かな県境を形成している。
北米のTND開発をわが国との比較で検討すると2つの点で大きく違っている。北米では、住宅地の計画の考えの中に環境形成と経年にともない環境増進する考え方と、提供する住宅を住宅購入者の家計支出の範囲で供給するこだわりが消費者及び供給者の双方に充満している。前者は住宅地計画を人文科学的文脈で考える学問と業界の風土が形成されている。一方、個人生活を豊かにする意識が強く、業界が供給するものを受け入れている。その背景には北米ではモーゲージ金融が行われている。
NHKが首都直下地震想定特集を行なっている。この特集を持て、米国とカナダで一般化している木造耐火建築物に改良すれば、市街地火災の拡大速度は6分の1地程度に抑えられると考えられる。既存木造建築物を木造耐火建築物にする改造は、建築物を防耐火区画を行なうことで可能にすることができる。それは建築部タウを防耐火区画することでその技法は既に確立している。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)