HICPMビルダーズマガジン第259号

BM第259号をお届けします

 今回ご紹介するボルチモア(米国)は、リバプール(英国)や川崎(日本)と並ぶ重厚長大時代の国家経済を担った工業都市である。英国や米国でも、チャールズ・ディケンズの小説で紹介されたように、産業革命は奴隷労働で重化学工業は発展した。半世紀前、私は5年間日本のスラム行政を担当し学んだことは、かつて、「日本鋼管は命の交換」と言われた朝鮮人労働者を強制連行し過酷な重労働で、戦前の軍需産業を発展させた事実を、現在から未来に繋がる歴史として忘れてはならないということだった。

 

これらの歴史をもった工業都市には、経済的繁栄と裏腹に過酷な労働とスラムの歴史がある。現在でもその痕跡が残っている。しかし、重厚長大産業から軽薄短小産業構造への変化に伴って、産業人口構成が全く変化し、空洞化した重厚長大産業のあった工場跡地や、労働者が生活していた住宅地はスラム化し、スラム対策として建設された住宅もスラム化したものが多くあった。しかし、これらの歴史と産業の犠牲の上に現代社会の繁栄がある。最近の都市は、歴史を生かした都市開発が取り組まれている。

 

重厚長大型産業を担った港湾の工業地帯を、軽薄短小産業社会のホワイトカラーの労働者の豊かな労働の場所とするとともに、大きな港湾の水面(ウオーターフロント)は、ウオータースポーツやリクリエーションを楽しむ空間につくり変え、ストレスの強い頭脳労働や神経をすり減らす人間関係を緩和し、豊かな気持ちと人間性を回復する環境にする取り組みが行なわれている。ボルチモア再生の経験はボストンや川崎のウオーターフロント開発にも展開され、冒頭に掲げた3都市は姉妹都市にもなっている。

 

都市再開発の内容を踏み込んで調査してみると、ボルチモア、リバプール、ボストンでは重厚長大社会を象徴するレンガ建築が、建設された時代の威風堂々たる姿を生かして、都市の歴史として新しいサステイナブルコミュニティのデザインに取り込まれている姿を見ることができる。ボルチモアのかつての重厚長大型産業時代の労働者のレンガ住宅が、当時から育ってきた緑の林で囲まれた現代のウオーターフロントで生活しようと希望するエリートたちの、憧れの歴史を実感できる住宅地に変身している。

 

レンガ建築には壊されたものもあるが、破損したレンガ住宅を修復し、既存の住宅と調和させて新たにレンガの住宅が建設されているものもある。街の再生を都市の歴史・文化を尊重する観点に立って、既存の建築物に労りの気持ちで都市再生が行われている。街を歩くと、「過去の歴史を尊重した街づくり」という「歴史を思い起こさせる豊かさ」を感じさせてくれる。それはススクラップ・アンド・ビルドによるスラムアランスではつくり上げられない。人類の発祥とともに生まれたレンガという建材が、その歴史を担って演出する空間である。ぜひ、現地をご訪問する機会をつくられ、過去の繁栄と現代の豊かな生活要求実現のサステイナブルな街づくりが共演するレンガの景色を実感できるはずである。

2.インターナショナル・アーツ・アンド・クラフツ

---アーチボルド・ノックス:指輪(リング)とネックレス

3.カレントトピックス:

---現代に続く「和魂洋才」の建築教育:明治・大正・昭和の近代建築を学ぶ12の視点

4.松尾憲親の「帯裏ガーデンサバーブ」住宅地経営奮闘記:第7回「資産価値の上がる住宅地とは」(1)

5.レンガと緑と水(運河)の街:オランダの街並み景観

6.特集:レンガの住宅、レンガの街並み

---重厚長大型年からウオーターフロント都市へ:ボルチモア(メリーランド州):産業構造の変化により重厚長大型産業は先進工業国では経営的に成り立たず、都市としては衰退を余儀なくされた。しかし、それらの都市は大都市圏の中核出逢った立地条件の良さと、港に恵まれた都市であったことから、その六面と立地条件の良さを評価して新しい都市がウオーターフロント都市として再開発がすすめられた。ボルチモア、リバプール、川崎はその代表的な都市で、ボルチモアでラウスが始めたうおーたフロント開発は、その後世界的にウオーターフロント開発のモデルとされ拡大した。

重厚長大型産業の地代にはレンガが主たる建築材料として使われていたが、そのレンガ微風合いが歴史と懐かしさを演出することから、再開発のヴィジョニングとして採用され、大きな成果を上げている。今回取り上げたボルチモアのウオーターフロント開発と一体になった住宅地開発の魅力は歴史を感じさせるものである。

10.竹山清明の街並み講座

---古代ロ―マの建築デザインと現代化の試み:EURの建築

11.澁谷征教の住宅デザインのワンポイント(65)

---南町田マークスプリング設計企画の裏話―7

12.オランダ・アメリカ・日本の住宅(38)

---20世紀のアメリカ住宅産業を気付いた英雄たち(2)

14.「聖域なき構造改革」第42回

— 住宅の価値と価格と担保価値

16.ア・フィールド・ガイド・トゥー・アンリカン・アーキテクチュアー(115)(116)

---ヴィクトリアン様式

18.CM講座学習の原点に戻って(10)

---CMをこうせいするPEPSIの理論と実践(その3)

19「街づくり教科書」講座(第17回)

---城郭都市を公園都市に、軍事道路を生活公園道路に

20書籍注文・編集後記

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です