HICPMメールマガジン第744号(2017,10.30)

みなさんこんにちは

最近、「鳥の歌」で有名なスペインのチェロリスト「パブロ・カザロフ」の伝記を読んでいて、それが今話題のカタロニの話でした。カザロフので、そこにはカタロニアの歴史にはフランコ時代よりももっと古い弾圧の歴史があって、彼ほどの大音楽家でも虐げられ、経済だけの話で独立が問題になっていないことを理解できました。人文科学上の歴史文化の認識がいかに大切なのかを改めて感じました。

 

『注文住宅』の続きの話をします。今回は、消費者に対する「不等価交換販売」を政府が容認する建設業法施行の「建前」(1層下請け)と「本音」(重層下請け)の辻褄合わせ(背任)を説明をし、日本の住宅産業が歪んでいる原因が国土交通行政にある理由を説明します。

 

「代願設計」による建築設計業務と「材工一式」の概算建設工事費の見積もり

代願業務の設計図書は、基準線の上に部材の中心が取り付けられる図面で、使用部材の厚さの捨象された「点と線」で建設部材を接合した図面です。その図面では材料の接合方法は具体的に決められず、材料と労務の数量と品質は特定できません。正確な工事のための材料の使用数量、材料を接合するための技能内容、工事に必要な技能能力およびその数量(作業時間)は分かりません。その結果、建設に必要な材料費も技能者の労務費も計算はできません。そのうえ、わが国の建設業は重層下請けの建材流通と施工とはいずれも、重層下請け構造です。工事代金決済も手形決済が多く、資金回収の保険料が加算され、実際に必要とする建築材料価格および技能労働者の労務費用を知る公正な公開市場データは社会的にも、企業内でも、いまだに整備されておらず、消費者に工事単価の確認はできません。

建設材料が企業ごとに技術革新の成果を生かし、新材料、新工法を開発し、建設労務は熟練技能が放逐され単純労働化され、労働市場は無政府状態です。一方、大量生産によって安価な材料生産を行い、材料の流通を与信(信用の保険)管理による市場の系列支配が、取引価格を不明瞭にすることが、建材メーカーと建材商社により行われています。建材のシステム販売により需要を集約し、「プラモデル」のような取り付け作業は材料ごとに開発され、単能工による低労賃工事を行わせる方向に向っています。これらの技能工は既存の建設技能者の技能に縛られないで、各建材を加工・施工する新規に供給される各建材取り付けの低賃金労働者として使い捨てられ、新規に開発される建材ごとの一過性の単純技能です。これらの労働力は、既存住宅の修繕や維持管理には使えない技能労働者です。

日本の建設業は重層下請け構造によって支えられ、元請業者は下請業者の取引相場や割引には関心があっても、下請けの最末端で働く技能者に支払われている労賃に関心をもっていません。国が建設物価資料を扱う財団法人に発注単価ベースの資料作成を依頼していますが、最末端で技能者に支払われるデータベースは作成されていません。国土交通省が、「建設業を流通サービス業」という理由は、重層下請けの業務の組み立ての下請けの過程での「口銭を取る仕方」を流通サービス業と言っているのです。実際の建材物流は建材メーカーから建設業者に流れても、取引伝票は6枚以上重なっています。

 

建設施工も、建材物流も、重層構造

材料や建設労務の工事価格は曖昧でも、代願設計で工事費見積もりをするため、工事費の見積概算単価が「材料と労務費」を一体にした「材工一式」の複合概算単価が利用されています。工事請負契約額を決定するために、「概算見積額」で計算した工事費を、「精算見積額」のように欺罔し、正式の工事請負契約額としました。そのため、その見積額と矛盾する工事内訳明細書を請負契約書に加えることをせず、参考資料とし、概算見積もり額を工事請負契約額に採用しました。やがて、工事請負契約額の範囲で工事が行えない事態が発生すると、請負契約額と設計圖書は変更せず、設計圖書通りの工事を行わせる「下請け叩き」が強要されます。

「材工一式」の概算単価は、建設業法が施行されたころは、余裕をもった単価でしたので、工事請負契約額は変更することがない「契約」に裏付けられた権威のある金額とされていました。しかし、公共事業に政治家や官僚が集って、不正に資金を賛助会費等の名目で吸い上げるようになり、元請け段階で巨額な粗利を抜かれると、重層下請けでやせ細っている実行予算では末端工事ができない事態が日常化しました。「無理を通せば、道理引っ込む」の諺どおり、重層下請けによって膨張した工事費が工事請負契約を超えるようになったとき、請負工事費に合わせる「手抜き工事」が起きました。「設計圖書どおりの工事」と説明して、実際の工事で「手抜き工事」を行うものでした。重層下請け構造が一丸となって「手抜き工事」を行ない、下請けの都度縮小される下請工事費で必要工事費を割ってまで請け負わせなくなります。すると、組織ぐるみで、請負契約額の範囲で利益を上げる「手抜き工事」が行われ、特記仕様書で「手抜き工事」を「工事監理者による仕様変更の承認」という方法で処理しました。

 

「工事請負契約額」と「設計図書」の矛盾

欧米の建築設計業務は、設計図書で使用する材料と施工方法を特定する方法だとされ、建築工事に使用する材料と労務内容は、施工者の行なう「工事費見積もり」段階で特定され、工事内訳明細書は設計圖書より優先する請負契約書の一部とされます。その工事を特定する方法は、建設業者が購入する価格及び労務費として特定する以外に方法はありません。そのため、米国では、建築主は、「入札」や「工事費見積合わせ」によって工事業者を決める場合、施工者が工事内容を具体的に確定させるため、建築主に設計内容(設計図書)を説明することを求めます。施工者の実施設計に関する工事内容の質問に答え、建築主は設計者に「施工者の質問に答え、設計内容を具体的に説明すること」を義務付けます。その設計内容の説明書をもとに、施工者が作成した工事費内訳明細書は「設計内容を金銭で表示したもの」で、実施設計の施工方法に関する質疑応答書(議事録)も工事請負契約書の正式書類とされています。

しかし、日本の場合、実際の工事内容を確定するうえで契約当事者が最優先にすることは、工事請負契約総額と実施設計図書と特記仕様書です。工事請負契約額と実施設計図書は、相互に矛盾することはないとされ、それを前提に工事請負契約が締結され、工事監理者が矛盾を解決することになっています。

工事請負契約を変更する場合以外に、一旦決定したら工事請負契約額と設計図書とは変更しないとされてきました。しかし、わが国の工事請負契約額は「材工一式」の略算単価で計算した概算工事費であり、その工事費見積もりの前提になっている実施設計は、「代願設計」と言われる確認申請用の設計図書で、建築士法及び建設業法で規定する工事の実施設計ではありません。この曖昧な代願設計と略算のための「材工一式」の複合単価による概算工事見積額という不確かなものを「変更できない契約の絶対条件」と建設業法上見なした結果、工事請負契約が理屈に合わない扱いに迷い込むことになりました。

 

背任行為を隠蔽する特記仕様書

設計図書の記載内容で不明確な部分を明確化する役割は、設計・工事監理者とされ、「工事業者は工事監理者の判断に従え」とされてきました。請負工事が工事請負契約額でできないときは、その工事請負契約額に収まるよう、重層下請け構造を使って、「下請け叩き」に依って請負工事費を工事請負契約額まで引き下げることを原則としました。その背景には公共事業単価は、重層下請けを行なえる余裕を予算上、予め見込んであった直轄事業時代の政府の認識がありました。しかし、重層下請け構造を使った建設工事費の切下げが不可能なときは、設計図書と工事請負契約額は、変更されない工事請負契約の原則を守って、元請けと下請けの関係を利用した企業間の「貸し借り」や、別の工事を巻き込んで工事費調整を「貸し借り」に利用することが行なわれ、それが企業グループの結束を高めてきました。しかし、企業間関係が弱くなり、「企業間の貸し借り」はできなくなり、代わって、材料と労務内容(工事内容)を変更することはやむを得ないと考えられてきました。

欧米の公共事業と比較すれば、2倍以上の価格となっていることで明らかなとおり、わが国の公共事業は政治家、官僚、建設業が重層下請け構造に集って粗利を正当利益として奪い、その粗利を建設業界の賛助会費としてキックバックさせ、政治家への政治献金や官僚OBの天下り人件費として利用する腐敗構造を形成してきました。その腐敗構造を建設官僚は「公共事業福祉」、「建設業福祉」と呼び、建設業界が政治家と官僚が共存共栄する仕組みと言ってきました。日本では、米国が世界恐慌後に行った「財政誘導による公共事業費」を分配し共存共栄する道だと「国土交通省内の共通理解」ができています。

 

日本の建設業法

国土交通省が所管する建設業法施行の基本は公共事業で、住宅産業は国土交通省行政の中で行われてきました。現在では、建設業の枠を超えた「建設サービス業」とされ、建設業法の歪みをさらに拡大する方向に向かっています。建設業に関する行政で、請負契約額を維持するために設計図書に記載された工事品質を事実上引き下げ、それを材料の品質と労務内容を引き下げることも、現在の公共工事を、既存の重層下請けの建設業で行なうためにはやむを得ないとされてきました。しかし、品質を引き下げることは、「手抜き工事」を容認することになるため、「品質を落とさない建前」を維持する方法が考案されました。それが、工事監理者による「同等品の承認」を明記した特記仕様書です。それは請負契約書である設計図書で定めた工事品質を変更しない「欺罔」を正当化する特記仕様書を正式文書に加える扱いが、建設業法を所管する国土交通省によって生み出されました。

 

法律上の「適正手続き」の体面づくり

工事請負契約では、材料と労務は、価格によって特定されますから、価格を引き下げるために採用された材料や労務が、設計図書の記述と同等品であることは論理的にあり得ません。しかし、「無理を通せば、道理引っ込む」の諺どおり、それを契約形式上、辻褄を合わせる方法が特記仕様書の欺罔になっています。これは建設業法違反を行政上容認する「建設業法施行の便法」としての建設業法の行政解釈とされ、会計検査院へも特記仕様書を正式契約書類とする説明がなされ、公共事業では公然と「欺罔」行われ、「手抜き工事」の欺罔を正当化する建設業法の運用が行われることになりました。行政機関内部での違法な法解釈を省内の共通解釈とし、「法解釈の官僚間の約束」で省内外を民事契約のように縛れると考え、それを実行しているのです。

この件に関し、米国の建設業者に尋ねたところ、工事監理者による「同等品の承認」は、米国では、建築主に対する背任行為であると説明されました。建築主には分らないで、工事監理者による「同等品の承認」行為が行われれば、それは、建築主の利益を侵害する「詐欺・背任行為」で、犯罪として刑罰の対象とされ、このような犯罪を容認する特記仕様書は米国には存在しません。わが国で行われている「工事監理者による承認行為」自体、日本の刑法上でも、犯罪行為です。しかし、日本では起訴権を持つ検察は、官僚の解釈に従い、訴追することはないので、犯罪にはなりません。

 

東京大学の学閥による組織犯罪

公共工事の場合、四半世紀前ころは、全国各地で有名建築家の設計した高額の建築請負工事で、建築主と設計者と施工者と東京大学の学閥で癒着した例は多く、北九州市は飛び抜けて多くありました。計画段階から設計者、施工者、建設業者が共謀し、有名建築家が工事監理者の立場で「同等品の承認」の仕様変更を行い、最終的には「設計圖書の差し替え」で建築主の利益を毀損する背任行為の証拠隠蔽が日常茶飯事で行なわれていました。問題は建築主を含む設計、施工関係者のすべてが、請負工事費の範囲で工事をまとめたことを「工事関係の功労」と勘違いしたことでした。「手抜き工事」は「工事費がなく追加更正予算が組めないから正当な措置」と説明し、公共事業の発注団体に予算承認どおりの工事を行なわず、手抜き工事で辻褄合わせをした犯罪は、「刑事訴追されないから、問題はない」とされてきました。多くの下請け建築士事務所が、工事終了時点で工事に合わせて改めて実施図面一式をつくらされ、それを請負契約時の添付設計図書と「差し替える」刑法上の犯罪業務をさせられてきました。公共事業の場合、工事施工者は、建設予算が議会承認を受けたことを無視し、工事予算に合わせた「手抜き工事」を、「工事監理者による同等品の承認」の形式を整え、工事請負契約書添付設計図書を差し替えることで、差し替え図書を請負契約書添付設計図書と欺罔し、議会に諮らないで変更する納税者に対する背任行為が、建設業法、民法及び刑法に違反して行われてきました。

しかし、このような状況に追い込まれた原因は、合理的な設計図書が作成されず、それに対応して工事費見積もりができず、建築現場工事が遅延し工事費が膨張し、資金不足を手抜き工事で行ない辻褄合わせのために発生したものです。わが国の雑な設計・施工のもう一つ悪いことには、建設現場で工事納まりが明確でないため、下請業者間で工事納まりの調整に手間がかかり、工期が延長されたにも拘らず、それが原因で実際の建築工事が膨張していることに気付いていないことです。「親方日の丸」と言われるように、公共工事は、発注者の言いなりに行えばよく、工期も請負契約額も発注者の意思で変更され、予算がなければ手抜き工事をしても当然、という考え方があります。

予算が不足すれば追加更正予算を組めばよく、工期が不足すれば事業を繰り越すか、手抜き工事をしてよいとされます。発注者の意向でなく起きた問題は、工事業者に責任を取らせるやり方です。その原則も、工期が順延し工事予算が不足した場合、公共発注主体は追加予算を組まず、その不足部分は当事者間の癒着で、「手抜き工事」を容認することで不足額を捻出するような救済が行われてきました。

 

CM技術が日本の建設業界に存在しないための問題

工期延長が工事費増大になる建設業経営の認識が、わが国の建設業者には非常に弱いことが挙げられます。建設業経営管理(CM)は、建設工事を経費、品質、時間の三要素で経営管理することですが、その教育がわが国の建設業者に行われておらず、それが工事現場での工事納まり図面がないことで、大きな損失を生み出す原因になっている認識を失わせています。合理的な設計圖書(実施設計)の作成というその基本を直さないで、小手先で設計の欠陥を容認してきたためです。

実施設計の不完全さが原因で工事が遅延し、工事費が嵩み、工事資金が不足した情状を酌量して、工事監理者による「同等品」の承認が、頻繁に行われています。犯罪意図をもって行われたものではなく、工事請負契約額の範囲で工事実施をするためにはやむを得ない行為として、行政法および刑法上の犯罪として訴追はありませんでした。しかし、この扱いは政治家・官僚・産業界が護送船団を組み、不正な利益を追求する場合と紙一重の関係にあるため、不正な利益追求のための「同等品承認」に対して、厳格な法施行はできず、不正の温床を作ってきました。

 

実施設計図書の作成ができず、工事監理能力を具備しない建築士事務所

通常、設計・工事監理業務は同じ建築士事務所が行います。大きな公共工事を行う有名建築家を擁する建築士事務所は、「同等品の承認権限」を濫用して、工事業者に利益をもたらす不正な設計変更を承認し、工事業者から巨額な資金の分配を、指導料、寄付金、賛助会費という名目で建設業者から建築士事務所に送られてきました。その結果、大手建築設計事務所は、多数の下請け建築設計事務所を使って、建設工事引き渡し時に「差し替え図面」制作に膨大な作業をさせられています。そこで行っている差し替え図面の作成は、建築主に対する背任行為ですが、公共事業の場合、建築主である公共事業したいが、「差し替え図面」を「請負工事額で工事実施できなくなり、関係者は、主観的には、皆まじめに業務をやってきたから、だれの責任追及もできなく、請負工事費の中で処理するためには手抜き工事もやむを得ない」として、正当な事務として受け入れていることが問題です。建築士事務所は実施性図書の作成ができず、建設業者でありながら、CM技術を持っていないため、日本の請負契約のように、設計図書(代願設計)と工事請負金額(概算額)を変更できない請負契約の基本条件とすれば、施工経営管理業務(CM)が行われていなく、工期が延長したときの解決策に困って、安易に特記仕様書に逃げ道を求めたこと自体間違っています。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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