HICPMメールマガジン第735号(2017.08.28)
HICPMメールマガジン第735号(2017.08.28)
みなさんこんにちは
メールマガジンで「注文住宅」の連載を始めた関係で、私は日本との比較で欧米の建築家の社会的評価であるとか建築家の自己研鑽と言った情報に目がひきつけられます。どこの国でも建築家の職能としての社会的信用は高く、人格的な好き嫌いの問題とは別に、建築家が専門の職能として「恥ずかしくない」勉強をしていることに対する社会の職能としての建築家が、日本のような「メイド」として「ご主人様」に使える「太鼓持ち」でないところが基本的違いではないかという気がしています。「顧客満足」とは建築主に資産形成を実現する結果得られる満足です。それを提供できないため、建築主に「メードサービス」をすることでの満足を与え、「メイド指名」が「顧客満足」を示す建築士の技術の現実である。
不正確な設計業務しかできない建築士
建築士法で、設計・工事監理業務を排他的独占業務として行う規定の根拠は、建築物は土地を加工して社会的な空間を占用して造られる恒久的な不動産(都市環境)で社会に対して責任を持たねばならないためです。同時に、住宅は購入者にとって高額で、生涯で最も高い購買物で、かつ、壊れた場合、住宅の所有者と利用者の生命と財産とを危険にさらすことがないようにしなければならないと考えられ、わが国で建築士法がGHQ(連合軍総司令)の監督下で制定されたとき、米国の建築家と同様な学識・経験を有していることが建築士法で定められました。しかし、建築士は立法趣旨どおりに施行されず、建築士の受験資格である学識経験は、明確に建築士法違反状態に放置されています。
その結果、現実の建築士の実態は、建築士法に定められた業務を実施する学識経験を有しない上、建築士試験が建築士業務に関する試験として実施されていないため、建築士法で定められた設計・工事監理業務を、建築士法第18条に定められた業務として行うことができません。実際の建築士法の運用は、立法趣旨に合わない学識経験を有しない建築士試験合格者に建築士資格を与えました。その建築士が、建築工事をさせるための「代願設計」を行い、特記仕様書で定められた「背任行為」を正当化する工事監理を行ないながら、国土交通省による建設(建築士法、建設業法、建築基準法)行政では、その業務を適正な設計及び工事監理業務と見なしたため、建築主に不利益を与える建築物がつくられ、建築物が資産ではなく建設廃棄物をつくる結果になりました。
建築士法違反を容認する国土交通行政
住宅・建築・都市行政では、建築士を建築士法で定められた学識経験を有する技術者と見なしたため、建築士が実施した設計・工事監理業務を正確に行われたと国民を欺罔する結果になりました。しかし、わが国の住宅・建築・都市政策は、GDPを最大にする日本の経済政策の主要な担い手としてスクラップ・アンド・ビルドを繰り返す住宅・建築・都市づくりとして行われてきました。そして、スクラップ・アンド・ビルドを推進する設計・工事監理を推進する技術者として、彼らが建築士法により、排他独占的業務としてその業務を行うことを支持してきました。そのため、建築士はその業務を行わないでも、「名義貸し」で収入を得、国民に損失を与えても、行政は処分の対象にしようとはしませんでした。
安全と衛生に関しては建築主事が建築基準法に照合して安全確認をしてきました。建築士の行うべき設計・工事監理業務に対し、建築士法が社会的に求めていることは、その立法の経緯を考えて建築士法の条文を読めば、設計・工事監理に関し、高い学識と経験を駆使し、設計及び工事監理をするべきことは法律上明らかです。しかし、戦後70余年、建築士に対して建築士法が求めてきたことが、建築士の資格と業務のいずれに対しても疎かにされ、国民の利益に反する建築士の不正業務が横行します。
一方、わが国の建築士はその低い合格率のため、難関を通った建築士は、設計・工事監理に必要な学識・経験の受験資格がないにもかかわらず、建築士資格を得た者にしか設計・工事監理業務を行わせず、「建築士の特権」により国家資格を与えられた「優秀な技術者」と周囲にも誤解させてきました。建築士は設計・工事監理に関する建築士法が定めている能力を持っていないため、その能力を持っている業務を排他独占的に行い、以下のような損失を社会に与えてきました。
建築士による国民の住宅資産価値毀損
設計業務成果である設計図書は、建築士法で定めた通りの学識経験を具備した技術者ではなかった場合、大きな損失をもたらす恐れがあると判断されたため、建築士法で建築士しか担えない排他的独占業務に定められました。しかし、ハウスメーカーの無資格の客引き業務経験を建築士の受験近くである設計・工事監理業務と認定し建築士の受験資格を与えてきました。その上、営業マンが「名義借り」で設計業務は行なっても、それは建築士が設計業務を行っても大差のないとされ、現実にすべてのハウスメーカーでは、「名義借り」による設計・工事監理業務を建築行政が容認しています。そのため、建築士法上、建築士は国民の期待に応える業務が行なえず、建築士の業務に対し40%は、「不満足である」と回答しています。消費者に大きな損失及ぼしてきました。しかし、建築士が設計をしてもしなくても大差なく、建築士法を持ち出して問題にする必要もないというのが、社会一般の見方です。それは建築士法で予定している能力を有する建築士が存在しないためです。実際は建築士法がありながら、法律で定めた学術と業務経験の有する建築士がいないため、国民は大きな損失を被っています。
建築士法で規定した学識・経験を有する建築士が存在しない結果、建築主の建築物を長期的資産形成視点に立った基本設計が行われず、適正な材料と技能を取り入れた実施設計がされず消費者に損害を与えてきました。建築主の住宅資産を設計する場合、長期的視点で建築設計を進める技術を建築士が保有しないため、社会経済的に見て寿命の短い住宅建築しか設計できていません。そのため、欧米のように住宅を取得することで個人の資産形成ができる住宅がつくれないできました。
住宅の実際の価値(直接工事費)と「サービス経費を直接工事費と欺罔した」高額販売価格
わが国では新築住宅販売のときには、「差別化」により、広告・宣伝。営業・販売にかけた費用を直接工事費と欺罔し、販売価格で回収する高額な独占価格販売を行い、住宅金融機関はその独占価格全額の融資を行ってきました。しかし、その住宅の実際の価値は、広告・宣伝。営業販売経費の全てを販売価格で回収する独占販売価格ではなく、直接工事費です。そのためわが国で、住宅購入者が住宅を手放さなすときには、中古住宅価格は半額以下になり、建築主に大きな損失を与えてきました。本来の建築士は建築主の要求に応え、資産となるべき住宅を設計しなければなりません。
設計とは、工事用の設計図書を作成する図面作製だけではなく、建築士法がモデルにしている米国の建築家法のとおり、建築に関する歴史観と建築思想を持ち、歴史・文化的視点に立って優れた建築を創造・設計する使命を持った職能(プロフェッショナル)でなければなりません。米国の建築家は人文科学としての建築学を大学教育で履修した後、工事監理業務経験を積み、その後、建築家試験に合格し建築家に登録され、全米建築家協会の定めた倫理規則を遵守し、協会が定めた定期講習の履修が義務付けられます。わが国でも、米国の建築家法に倣い建築士法を制定し、国民に健康で文化的な居住環境を提供するために、建築設計・工事監理業務を担える者を建築士に限定し、建築士の資格条件を定めています。しかし、現実には、政府は建築士法に違反し、建築士法で定めた学識・経験を全く持っていない受験資格を有しない者に建築士試験受験を認め、建築士試験合格者に建築士に排他独占的な業務を保証し、設計及び工事監理を行なった結果、国民の利益を大きく損なってきました。
建築士の実力とその業務結果
現在、わが国で、建築士にその作成した住宅設計の工事費を見積もるように要求しても、正確な見積もりのできる建築士は皆無に近い状態です。その設計図書といわれるものは、確認申請書添付図書であって、実施設計図書ではありません。それを作成した建築士に持たせて、工事現場で工事監理業務をするように言っても、工事監理業務はできません。その理由は、下請け業者に渡された設計図書では具体的な工事詳細はなく、建築基準関係法令適合図面であって、その設計図書では工事の経営管理も、工事監理は不可能だからです。実際に行なわれるべき工事詳細が設計されないと、工事業者も工事ができませんし、工事費見積もりもできません。工事費見積もりをしないと請負工事費も決まらず、工事請負契約も結べません。そこで、工事業者は代願設計と、「材工一式」の床面積当たりの概算工事単価(坪単価)を使って工事費を見積もりますが、その見積額は概算額であって正確な見積もりではありません。しかし、その概算見積もりを生産見積もりと見なした工事請負契約が締結されています。わが国の工事請負契約に添付される設計圖書は、建築工事を具体的に確定できない実施設計図書によって起きています。
不正を生み出す設計図書と誤解されている確認手続きと建築工事
日本の大学の建築教育では、まともな建築設計教育は存在せず、建築確認申請書に添付図書する設計図書を作成することを設計教育とする間違った設計教育がされてきました。その理由は1950年に建築基準法が制定され全国適用となり、確認済み証の交付されていない建築物は建築してはいかないと定められたため、確認済み証の受けられる設計図書の作成が建築教育の目的のようになったからです。
建築基準法では、確認申請書は建築主が建築を計画したとき、その計画内容を建築主事に設計図書として提出することを求めています。それは確認申請時点で明らかになったことを設計図書にまとめて提出するもので、建築主は確認申請段階で未決定の内容は記載する必要はありません。しかし、現実の確認申請は請負契約書に添付する設計書と同じものを提出することが求められ、未確定の設計内容まで記載することが求められています。建築基準法で定めている内容は、確認申請書は、確認申請時に建築計画をしたという意思表示として提出することを求めていて、計画内容の確定を求めてはいません。実際の建設工事は工事の確定できる実施設計がまとまらないことには工事請負契約は締結できず、工事請負契約なしに工事をするわけにはいきません。
建築主は確認申請後計画内容を変更しても、変更確認申請の手続きは不要で、後は工事請負契約内容としての設計圖書を「工事検査確認」として建築主事が審査するというのが建築基準法の立法時の法律構成です。実際の建設工事は工事請負契約を根拠に行われますから、工事請負契約に添付された実施設計を建築主事に確認させ(工事検査確認)、特定行政庁が工事検査確認を行なった工事請負契約書添付設計図書と工事を照合して違反建築を防止する法律構成になっています。
建築士による設計能力の欠如と設計業務成果が建設業法違反の原因
しかし、社会的には、建築設計技術・能力が欠如し、設計段階で工事内容を特定できない不正確な設計図書であっても、これで工事請負契約を強行する必要が生まれてきました。設計圖書として不正確なものでは、材料も労務も数量が確定せず、工事費見積もりはできません。そこで、設計圖書が不正確でも概算額を計算できる概算見積もり方法生み出されました。それが「材工一式」で概算工事費を見積もる方法です。わが国では正確な実施設計が作成できなかったので、その概算額を、正確に工事費を見積もった見積額と見なして、一挙に工事請負契約を締結させる建設業法違反を強行させたのです。内容の確定しない設計図書を使い、「材工一式」の概算見積もり単価を使って概算見積もりを行い、それを精算した見積額と欺罔し、工事請負契約を締結することは建設業法違反です。しかし、概算見積工事費でも、重層下請構造を前提建設工事は実施できると考えて、概算見積額を正式な工事見積もり額と見なして正式の工事請負契約が締結されてきました。そこでの単価は実際に支払われる材料費及び労務費より十分高額な単価として設定されていたため、下請けを厳しく締め付けることで、殆どの工事は、概算額で計算した工事請負契約額の範囲で実行できていました。そのような工事請負契約は建設業法違反です。
工事内容を確定させる実施設計を作成できない建築士が、その後の工事請負金額の見積もりを概算工事費としてしか計算できない状況を作ってきました。そのような学識経験の不十分な建築士を育成する教大学建築教育体制が現実です。建設省は、1950年に建築士に必要な学識経験を行う学校教育も実務を存在しないのに、それが存在するという前提で建築士法を施行したのです。
戦前までは、わが国では職人制度がしっかりしていて、設計及び工事監理業務が不十分でも、実施設計が正確にできていなくても、熟練技能者が工事を確実に実施してくれました。そのため、実施設計圖書が未整備でも現場工事は行える設計段階の無責任さで、「材工一式」の概算見積りで工事は納められるとしました。しかし、職人技能制度が崩壊し、実施設計において工事納まりを明確にしない限り、現場での工事はできない状態が生まれてきました。実施設計図書が作れず、概算見積もりと概略設計で工事請負契約を進めたところに合理的な工事のできない問題あります。
現在の時点で建築士法上の責任関係を明確にするとしたら、大学における建築教育で建築士受験資格に相応しい「実際に工事のできる実施設計を作成させること」と、実際に設計・工事監理の実務経験を建築士の受験資格通り厳密に審査し、建築士試験を建築士に求められている学識経験を試す内容に変更しなければなりませんが、学校教育で、その実施設計を作成する教育を行なえる大学の建築教育のカリキュラムもなければ、設計教育のテキストもなければ、学生に教育できる設計教育のできる教師もいないのが現状です。雑誌やメディアを賑わしている建築士はそのようなデザイン力を持っている建築士であっても、建築設計教育のできる教育者ではありません。建築主の立場に立ってその予算の範囲で希望する住宅をつくる能力のある建築士がいないため、日本の国民が住宅を取得することで不幸になる現場が生まれているのです。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷英世)