メルマガ第730号「注文住宅」 連載・第4回(住宅の設計者:建築士)

みなさんこんにちは
安倍内閣に対する国民の批判が新聞の一面を賑わせています。国会証言に登場する和泉洋人は現在のわが国の「フローの住宅政策」の骨格をつくりそれに合った住宅産業をつくった人です。HICPMとも約9年間米国の住宅産業情報を収集検討するために長谷工財団(ハウジング・アンド・コミュニテイ財団)の研究での実質研究指揮をやらせてくれたのは和泉さんですが、彼は能吏ですが、私は現在の住宅産業本位の住宅政策にした人が和泉さんだと思っています。

今回も「注文住宅」、連載、第4回(住宅の設計者:建築士)を続けます。

日本の建築士法と米国の建築家法

日本の「建築士法」や「建設業法」は、米国の「建築家法」および「建設業法」をモデルにして立法されました。その中で建築設計を担う建築士に求める技術技能に関しては、米国の建築設計・工事監理業務をモデルに、また、建設業に関してはその業務履行に必要な業務を履行するために必要な建築教育及び実務経験を前提にして、制度設計がGHQの指導の下で建設省で行われた経緯があります。日本の建築教育も、建築士法の立法趣旨に沿う形で行われないと、結果的に立法趣旨と建築教育と建築設計及び工事監理の実務との矛盾が生まれ、矛盾が正しく解決されないと国民に不利益を及ぼします。

現行の建築士法で定められている建築士は、米国の建築学教育を基本的に履修せず、米国の建築設計業務及び工事監理業務の実務経験を持たず、さらに、建築士法で定める設計及び工事監理業務に不可欠な能力を試す試験とは違った建設工学教育と、日本の建築工学教育試験を行い、その合格をもって建築士資格を与えています。そのため、建築士法で定める設計・工事監理業務を担う能力を持たない者に建築士資格を与え、就業制限をかけた結果、国民に、建築士法に規定した建築設計能力を有しない人に住宅を設計させ、その建築士により設計された住宅を購入せざるを得ない国民に、資産を失わせてきました。
建築士試験の合格率は低く難関とされる資格試験です。当然、建築士資格を与えられた建築士は建築技術の専門資格を取得したと勘違いし、その名刺に「建築家」(Architect)と記載する人がたくさんいます。建築士法では建築設計・工事監理業務には就業制限がかけられ、建築確認申請で確認審査要件となっているため、米国の建築家(Architect)気取りになっている人がたくさんいます。

建築設計・工事監理業務理は建築士にしかできない高い技能が必要ですから、高い業務報酬を要求し、ときには「名義貸し」をしても、高い収入を得ることが行われています。注文住宅設計をできる技術者は建築士法で建築士資格保有者以外はできないことになっているので、「設計・工事監理業務は建築士に依頼しないと法律違反になる」と建築士の営業トークにしています。しかし、建築士の実態は、わが国の建築系大学を卒業し、住宅・建築産業関係の企業に籍を置いただけで、設計・工事監理業務の実務経験を持たないで建築士資格の受験資格が与えられ、合格の結果、建築士資格保有者になった者です。

欧米の「建築家」の技術を持たぬ「建築士」

私が建設省住宅局建築指導課で建築士法の施行責任者の立場にあったとき、建築士の受験資格を建築士法の立法趣旨に合わせようとしました。しかし、建築教育は、東京大学の行っている建築教育が建築士法で定めている建築教育と見なす扱いがされ、教育のカリキュラムは文部省の所管で、建設・文部両省の協議に持ち込み合意を得ないことには見直しはできない問題でした。まず、建設行政でできること(受験者の実務経験の審査)を厳しくしようとしました。しかし、建築士法で規定している設計・工事監理業務が社会で行われている例は少なく、その多くは「材工一式」で、建設工事業者が請け負った工事の中で確認申請図を作成するものが殆どでした。

設計・施工分離は例が少なく、「工事管理」(マネジメント)と「工事監理」(モニタリング)の区別さえ明確ではない建設業界の状況で、設計・工事監理の実務経験を審査することは事務的にも困難でした。その上、建築士試験は、その出題者のほとんどが大学の建築教育関係者、大手建設業施工技術者、大手建築士事務所設計技術者、官公庁営繕技術者で、そのすべてが大学での建築教育カリキュラム分類に準じて試験問題作りをしていました。そのような背景の中で、建築士試験を建築士法の立法趣旨に近づけることは、建築教育にまで踏み込めなくて、できませんでした。建築士法では受験資格を大学の建築教育を履修したことにしているので、そのモデルカリキュラムとされていた東京大学建築科の建築教育を調査しましたが、すべて選択で、建築設計教育を体系立てて義務教育課程を作成していませんでした。

また、基本設計教育として行うべき欧米で行われている人文科学教育も、実際の建築工事のできる実施設計を作成する教育もありませんでした。それに基づいて工事費を見積もることも大学の建築教育では行われていませんでした。それは半世紀近く昔のことですが、現在大学で建築教育を担当している人からの話も聞きましたが、その状況は現在もそのころと同じ旧態然の状態が継続しているようです。わが国の大学で建築教育を履修しても、建築設計額を履修していないわけですから、建築士資格保有者の大多数は建築設計も工事監理も、施工管理もする能力を持っていないのです。その意味では建築の専門知識を持たない一搬市民と同レベルの設計及び工事監理、並びに施工管理能力しかないと考えざるを得ません。建築士法でその職能を守られた建築士は、「名は体を表さず」の代表的資格になっています。

建築教育関係者に問いたいこと

現在は情報化社会といわれ、インターネットを使えばたくさんの情報が手に入ります。最近の学校教育ではインターネットを使った教育が行われていますので、住宅・建築・都市計画に関係した教育に関しても、日本と世界の建築教育の違いは知られていると思います。こと建築教育に関し、日本と欧米との教育は全く違っています。なぜ日本の建築教育関係者はそれを問題と認識していないのでしょうか。建築教育は歴史・文化・生活を扱う人文科学と考えないと、国民を幸せにする住宅設計自体取り組めません。建築設計業務は、全く新しい創造活動で、そのためには住宅・建築・都市計画の学問自体を人文科学的に学び、設計条件を住宅の建設される土地とそこで生活しようとする建築主の人文科学的条件を整理分析して、設計条件を整理することから始めないと設計業務は始められません。

日本の建築学は、物づくりで、欧米の建設工学(シビルエンジニアリング)で欧欧米の人文科学です。日本でも欧米の建築家(アーキテクト)に倣って、業務報酬規程は建築士法第25条に米国に倣って規定しています。実際に建築士が学ぶべき学識経験が日本の大学教育と実務で経験できず、建築主から提示させられた条件を、建築確認申請の代願申請用の設計図書にするだけの業務であるため、本来、建築士法で期待されている学識経験を基にした創造的設計業務になっていません。建築士に求められている学識経験は何かに立ち返って、建築教育を再構成しなければなりません。

注文住宅の設計方法

住宅は人類が歴史に登場するとともに生まれ、すべての人たちの居住空間としてつくられて来ました。そのため、住宅はすべての人が利用し、人々は生活を通して住宅関係の知識・経験を持ち、住宅での生活はすべての人が経験した技術を日常生活に生かしています。そのため、すべての居住者は住宅に関し経験豊かな利用者として、住宅に関し自らの経験したこととの関係で「一寡言」を持っています。しかし、居住者は必ずしも住宅の設計・施工・材料の専門的学識と経験を有する専門家ではありません。
住宅を職業とする人には、過去の住宅に関する知識経験や家族の繫がりや変化をもとに考えられてきた家族論や、家族経営論を研究し、人々に共通する家族の住生活の全体像を理解しようとします。その上で、依頼主の生活空間をよりよく改善するために、依頼人の家族の属性や社会的、経済的環境とその住宅に対する要求を聞き、現在の生活と将来に向けての望ましい生活を考えます。

建築主の生活を受け入れる住環境を、現在利用できる技術、材料、経営管理方法に活用し、住宅環境計画をします。また、建築主がうらやむ住宅に関する必要な情報を集め、依頼主の将来的な社会的、経済的な環境変化に対応する住宅づくりをしますが、そのために必要な作業に対する調査研究や教育は、わが国では建築教育として組織的に行われていません。
欧米では新築住宅の5倍以上の戸数の住宅が、既存住宅市場で売買され、既存住宅に住み替えする人たちは、基本的に既存住宅の良さを受け入れて購入しています。住宅だけではなく近隣住区環境も具体的に確かめられるため、既存住宅購入は、最も安心できるリスクの少ない住宅購入方法です。場合によってはより高い満足を得るために、購入にあたり家族の生活要求に合わせて必要なリモデリングが行なわれます。既存住宅市場での住宅取引が一般的な社会では、既存住宅は常に実物大の情報で個人の生活要求を当てはめられます。抽象論ではなく具体的に住宅を比較・検討し選択できます。しかも、住宅のロケーションを含んだ品質の比較は、既存住宅の取引価格として、経済価値との対応で考えられます。このことは売り手と買い手の双方にとって取引を検討する基本となります。その結果、既存住宅が中心となっている社会では、価値と価格とに「ずれ」のない判断が行われます。

注文住宅と既存住宅のリモデリング

日本ではリフォームと言って中古住宅を安く買い叩き、内外装に新築並みに着せ替え、新築住宅に準じた価格で販売し利益をあげる住宅政策になっています。米国でも住宅のグレードアップをするリモデリングも取り組まれていますが、それは住宅の品質を高め、高い価格の住宅購入者層向けの大規模修繕が目的です。米国の住宅バブルが崩壊したときに、住宅の価格下落によって生じた損失を回復するため、これまでの居住者より、格段に高い購買力を持つ人向けに住宅の品質を向上させるリモデリングも行われました。それは債務を縮小する目的で住宅流通販売業者本位の流流通販売利益目的で行われたもので、一般的な建築主本位のリモデリングではありません。その場合、住宅に使用する材料と労務を高い品質に置き換えることで高額販売するものです。

米国では、全住宅の20%程度の新規建設住宅の中の10%以下がカスタムホームと呼ばれ、建築家に設計を依頼し、または、ホームプランシステムを利用し設計図書を作成し、その設計圖書通りの住宅を建設します。大多数の人は優秀な建築家が設計したホームプランを活用するシステムを使い、設計業務費を節約し、その設計圖書を建築主の生活に合わせて修正(カスタマイズ)して、住宅建設業者(ホームビルダー)に施工してもらいます。または、ホームビルダーの住宅環境供給システムで準備されたオプションを選択して、納得のいく注文住宅をつくります。それも「カスタムホーム」と呼ばれています。中には、設計・施工・住宅地経営管理まで準備されたスペキュラティブ・ハウス(建売住宅)から、建築主が家族の生活に適した住宅を選択することもあります。そのすべてが住宅建築の設計・施工・住環境管理の専門的な知識・技術で裏付けされた住宅の中から消費者が選択する注文住宅です。

住宅は注文する人に選択権はありますから、住宅の設計・施工者は住宅購入者から選ばれなければなりません。建築主に選ばれる設計者、施工者は、その設計・施工に関しては、「過去に良い業務事績をつくり、尊敬に値する専門知識と技能を有する専門業者、技術者、技能者たち」です。彼らは、住宅購入者と等価交換で住宅を供給し、社会的「資産価値を高める住宅設計や施工をした」と評価(評判)を得てきた業者です。米国でのカスタムホームの定義は広く、建築主の主体的な選択で造られた新築住宅や建築主の要求に合わせてリモデリングされた住宅も、広義のカスタムホームです。狭義には、建築主の依頼に応え設計者が設計業務を行なう新築住宅がカスタムホームです。次回に続く
(NPO法人 住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

HICPMメールマガジン

登録無料!週に1回、世相、経済、エンタテイメントなど、あらゆる面から掘り下げた戸谷英世の情報コラムをお届けします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です