HICPMメールマガジン第823号(2019.03.04)

みなさんこんにちは

 

「区別」と「差別」の設計業務

現在、住宅産業に関係する建築技術者は、「如何にして集客し、成約に追い込むか」という客引き業務が中心で、建築主が帰属意識の持てる歴史・文化を担った建築の設計業務を実施する技術者は殆どいなくなっている。それは日本の建築教育が人文科学教育としての建築学教育を行わず、住宅販売のための建築性能を重視した歪んだ建築工学教育に偏り、欧米の建築学とは異質である。しかも、住宅の「差別化」政策を営業の武器とされ、「区別」ではなく、「差別」によって「価値を欺罔する」「詐欺の技術」が、住宅の営業販売技術として、社内教育として行われてきたためである。

 

その結果、「住宅の性能を高くすることが、住宅の価値を高めること」という間違った建築教育を、学校教育および社会教育としても行なわれている。居住者の生活本位の性能ではなく、「差別化販売のためでしかない。「高性能住宅は高価格販売し」、「高利潤を上げることに正当性が与えられる」とする誤った教育を住宅政策として実施してきた。住宅性能を価格で表示することはできず、価格は市場の需給関係で決まるものである。その経済原則を無視し、住宅産業が恣意的に「差別化」といって価格操作をしてきた。そのような販売政策を独占販売政策といい、販売価格つり上げに経済的合理性はない。

 

本書の冒頭で多くの人が憧れる住宅として長い命を維持している住宅設計は、居住者が帰属意識を抱け、満足を維持して住み続ける住宅設計は、人文科学教育によってしか与えられないことを説明してきた。過去・現在・未来という歴史文化を人びとが伝承発展させ、経年するに伴い熟成する住宅環境を取得し、住宅購入者に資産形成を実現させることが社会的に求められているが、日本では世界の先進工業国の中で唯一例外的に、消費者の願いや要求に反し、それが実現されないまま放置されてきた。

 

住宅設計を建築主の要求に応え求められる多種多様な品質を明確に区別して設計に取り入れ、それぞれの材料と労務ごとに区別し、工事費を見積もることが求められている。しかし、「差別化」設計の目的は、その住宅が具備する諸性能、所期能、(個性)を明確に区別するのではなく、販売価格として提示された価格が価格相当の価値を有するものとして、高額な見積価格を正当であると提示するための方便である。「高性能であれば高価格」「高機能であれば高価格」という「差別化」を「材工一式」の概算工事単価を使って行ってきた。

 

憲法第25条に基づく行政法・建設3法

消費者の健康で文化的な生活を守るために、設計及び工事監理業務や建設業に対しては、建築士法及び建設業法に依って、排他独占的就業制限をかけ、国民(消費者)を保護している。建築士資格を持っている人には、住宅を取得することで住宅購入者が資産形成を実現できる住宅の設計・工事監理に必要な専門的な知識・経験を積み、その業務を行えるよう努力をしなければならない。建築主に対し、建築士はその保有する建築学に関する学識・経験と、過去の業務実績で明らかにし、他の建築士との区別ができるようにしなければならない。建築士法では、米国の建築家法(アーキテクト・ロー)に倣った法律文言が取り入れられ、米国の建築家同様の職業倫理を求めている。そこで建築士に求められている学識は、人文科学に基づく建築学と建築設計能力と、建築工学としての実施設計と工事監理技術である。

 

しかし、現在の多くの建築士たちは、大学の建築学科で欧米の建築家養成教育である人文科学の建築教育を受けていない。その上、社会において工事監理経験をすることを建築士法で求めているが、行われていない。わが国には工事監理(モニタリング)という概念が未熟性で、工事管理(マネジメント)という概念と工事管理(モニタリング)とが混乱して使われている。建築士の受験資格として工事監理(モニタリング)を義務付けているが、その業務を行なうところがほとんどない。それは実施設計業務が行われていなくて、建築士の受験資格を満足する受験環境がない。そのため、わが国では建築士の学識と経験を社会的に評価されることを大学や行政機関が嫌い、資格取得後の建築資格者に対する業務教育が行われていない。建築士関係者は、建築士資格試験が難関であることと建築士法で設計業務制限をしていることを持ち出し、建築士の学識経験を差別的に誇張し、事業を取り込もうとしてきた。

 

政府は消費者保護を図るために、建築士法に定められている建築設計及び工事監理並びに施工に関する知識、技能、経験を有する建築士を養成するとともに、実際に建築士の保有する学識経験を消費者が理解できるように、その業務実績を判断できるようにさせる必要がある。当然、建築士の学識を高めるため、学校教育としての建築学教育を抜本的に見直すとともに、設計及び工事監理の実務経験の審査をするようにしなければならない。建築士法を維持し、建築士を建築士法の立法趣旨と条文に規定したような学識経験者にするためには、建築学教育のカリキュラム、教科書、建築教育制度を再検討することがなければならない。建築士の再教育を含めて抜本的な制度設計が必要とされている。

 

ハウスメーカーによる住宅設計

ハウスメーカーによる注文住宅設計は、建築主の夢を設計図書にする「本来の設計業務」の受注ではなくなっている。ハウスメーカーは、住宅展示場を使って、住宅を建てようとしている顧客を呼び込み、釣り上げる手段(フイッシング)が行われている。それを注文住宅設計業務という言葉が使われている。ハウスメーカーは設計業務自体を必要とは考えていない。その理由は顧客をハウスメーカーの供給する住宅設計システムに顧客を取り込むことが目的である。営業販売は、顧客をハウスメーカーの設計システムに取り入れることである。住宅設計業務自体の社会的存在感が薄くなっていて、大学でまともな設計教育が行われておらず、実際ハウスメーカーでは建築士不在で、かつ、設計業務自体が不在で注文住宅が供給されてきたことに表れている。大学の建築学教育が破綻している。

 

営業の中心は建築主から住宅受注をハウスメーカーのシステムに適合する需要として引き出すことである。顧客をハウスメーカーの需要者として釣り上げるうえでの接触・相談の糸口に住宅設計が使われている。住宅購入者の関心や、住宅に対する意見や、家族の状況を聞き出せれば、家族の夢の実現としてどのような話題でも続けることでハウスメーカーの営業軌道に導ける。ハウスメーカーの設計は建築主の生活要求を人文科学的に解明し、それを設計条件として設計する建築学的アプローチはしない。ハウスメーカーがその量産体制に乗せて高利潤を上げることのできるハウスメーカーが用意した設計に顧客を囲みこむことである。そこのは建築士法で規定しているような設計業務を行なう必要はない。

 

ハウスメーカーは建築主に、「ハウスメーカーの注文住宅は高級住宅となるから」と「差別化」を教宣して、その請負工事費の相場を、一定の価格帯の範囲として提示する。ハウスメーカーは実際の設計を建築士に行わせていないのに、優秀な建築士を擁しておりと説明し、それらの建築士が設計するから高級住宅設計に匂わせるが、そこで行われる設計は欧米の建築学に基づく建築設計ではない。顧客に対し、ハウスメーカーが量産によって高利潤を上げることのできる設計を、顧客自身がハウスメーカーの行なった最高の提案の中から選択した優れた設計と信じ込ませる設計である。最近の最先端の設計は、ハウスメーカーの営業マンが、顧客を「ご主人様」に祭り上げ、ハウスメーカーの営業マンが「メイド」になり、「ご主人様」の命令でメイドがハウスメーカーの用意した選択肢からの選択を誉めあげて、建築主に自宅設計を「旦那遊び」として楽しませる道楽遊びをさせることである。

 

建築士は顧客の前には絶対に姿を現さない。見せたくても名義貸しする建築士は、ハウスメーカーにはいない。営業マンに聞き取らせた建築主の要求をメモとして聞き取らせ、それをもとに設計をする。設計者(建築士:神)は神殿に隠れていて、営業マン(巫女)が顧客の意向を診断に届けると、営業マン(巫女)を通して設計業務が進められる。営業マン(巫女)は、「設計者(建築士:神)」は忙しくて面会もできないが、必ず希望は叶える」というやり方である。建築士が設計をしても、建築士には基本設計も実施設計も作成する能力はない。

 

住宅の価格

ハウスメーカーで作成する設計図は確認申請のできる代願設計で、建築士法で規定している基本設計でも実施設計でもない。代願設計は建築基準法に適合することを説明しても、その建築に使用される材料及び工法を明示している訳ではないから、建設業法に定める工事費見積もりはできない。

住宅購入者はハウスメーカーの提示した相場価格に合わせて「材工一式」の概算単価を使って概算見積もりを行ない、それを正確であると顧客を騙し、概算の工事見積もりで建設業法上の工事請負契約書を作成する。相場単価の工事費は最低でも工務店の建設する住宅価格と比較すれば高額である。営業マンは建築主に、社会的には高級住宅であるが、建築主には「特別割安に供給している」と言い、設計内容を具体化させる実施設計作業を無償で行うと説明するが、彼らには実施設計を作成する能力はない。

 

住宅展示場に展示されている住宅やカタログの高級仕様を見せつけられ、高額な「相場価格」を適正な価格と理解させられる。営業マンが設計者の意向として伝えてきた坪80万円という価格を聞いて、それが、目の前で見せられているモデルホームのイメージの住宅の工事費か、それとも、そのハウスメーカー独自の提示価格相場で作れられる住宅か、と考えても納得のできるものは出てこない。はっきりしていることはハウスメーマーが期待している住宅販売価格が相場価格で計算した価格である。すべてが事実と違い、安倍内閣の経済統計と同じである。ハウスメーカーが行う設計業務として、設計図書の作成から工事費の見積もりまでは無償であると明言されたことで設計作業が始められる。ハウスメーカーは、その計業務は住宅販売促進経費と理解しているから、無償でも当然である。

 

実施設計が存在しないで進められているわが国の住宅産業

営業マンは、顧客から建設敷地の有無を聞き出し、購入価格の上限目標を建築主から聞き出せば、その目標額をハウスメーカーの相場単価で除し、延べ面積の上限が決められる。そうすると家族の構成を考え、最初の聞き取り条件を取り入れた間取り図が、ほぼ自動的に提案される。営業マンが、設計図といって生活の詳細まで書き込んだ平面詳細図は、建築主の設計条件がほぼ取り入れられていることを示すデモンストレーションである。顧客は家具什器まで配置された生活感を感じさせる設計を見て、それをハウスメーカーの設計力と信頼を高め、いろいろな「夢の実現」のための具体的な話になる。

 

ハウスメーカーの設計図書のプレゼンテイションに続く営業の説明は、最初は間取りに話に集中し、工事費の話は工事費見積もり段階までは基本的の持ち出さす、もっぱら家族の団欒、子どもの学習、家庭での友人や親せきのもてなしなど間取りづくりとインテリ(家具、照明器具)住宅設備(システムキッチン)バス・トイレと主婦の関心に夢を膨らませること人る。そして、次の段階では住宅の設計図書の詳細設計と呼んで外観デザインや主要な部屋のインテリアパースが造られ、建築主をハウスメーカーの営業方針に完全に乗せることになる。

 

ハウスメーカーは裏方に回って、建築主が自らまとめたと思えるように住宅設計条件の整理と選択肢を建築主に与え、ハウスメーカーが実際の間取り作成を行っても、すべての図面の決定は建築主の要求通りに作製する。建築主にとっては、すべて希望どおりに設計業務が取り纏められたと感じるように作業が行われる。建築主がその思いどおりの設計を行なったように設計をまとめることが、顧客に高い満足を与える方法だと言われている。間取りの取り纏めが終了段階に近付くと、住宅性能など政府の「差別化住宅政策」を持ち出し、それをハウスメーカーの専門性を誇示するところと説明し、建材や住宅設備等で高級さを誇示し、高額となる工事費の正当性を示す。住宅の品質と材料価格が話題になれば、建築主の購買力の範囲で設計をまとめる姿勢で材料と住宅設備の仕様を変更し、当初の相場価格で纏まるような設計を作成するが、設計業務はハウスメーカーと建築主の協議で合意形成が行われた形で決められ、設計業務はハウスメーカーの準備したシステムの中で建築主が選択決定した方法で設計が進められる。

 

住宅設計と建設工事費

工事ごとの単価は「材工一式」の直接工事費単価と説明され、そこにハウスメーカーの住宅システムに価格様様なサービス費用が確認申請を始め、各種性能表示、ゼロエネ、構造安全等級、瑕疵保証、設計・工事監理、現場管理、営業販売等各種の経費率という形で加算され、それにハウスメーカーとしての粗利率20%が加算され請負金額が決定される。そこでの材料や住宅設備、特殊工法など設計図書の決定は、建築主とハウスメーカーという契約当事者間の需給関係者の合意で決定された形式が採られる。

 

ハウスメーカーが提示する価格は材工一式で、材料供給業者が提示するメーカー希望小売価格で、それらをハウスメーカーの場合は安く仕入れられると言い、割引価格で計上される。しかし、それはメーカーが実際に仕入れる価格の2倍以上高額な価格である。建築材料と住宅設備はその採用を決定した時点で割引価格を承認した前提で、住宅の品質(使用価値)と一体的にその価格(経済価値)が合意されたとみなされる。ハウスメーカーは建築主に選択肢の中から選ばせるが、工事費の内訳に関する説明(材料メーカーらの購入価格、その流通経費、施工に関係する労働者の数量と単価)は一切行っていない。その結果、設計図書が決定されるとその工事請負契約額は、ハウスメーカーが用意した工事費積算システムで決定する合意とみなされてきた。

 

住宅産業の利益確保本位の事業

見積工事額が建築主の負担として、年間所得の8倍以上となることも稀ではない。それに気付いた建築主が尻込みを始めると、ハウスメーカーはファイナンシャル・プランナーという第3者を紹介し、住宅ローン返済計画を修正し返済可能として契約に入ろうとする。将来の返済計画に不安を感じた建築主は躊躇し、契約が進まないと、登場する駆け引きが「出精値引き」である。「出精値引き」は端数の切り捨てではなく、内訳を示さないで、「受注契約締結に感謝の気持ちを誠意で示す」秘密の扱いで、「建築主とハウスメーカー担当者間の個人的信頼関係を基にする部外秘の値引き」として数百万円単位で提起されている。出精値引きの金額の大きさに誘惑され成約させられることになる。

 

ハウスメーカーによる工事費見積もりは、基本的に「材工一式」の概算見積もりによって行われ、材料の数量を基本に、住宅の営業・販売・設計・施工・建材流通等に係るすべての経費が、「経費率」という形で「材工一式単価」に加算され、請負契約額が計算される。工事請負契約額を概算額の見積もり額で行なうこと自体、建設業法第20条に違反する行為であるが、それを国土交通省が建設業法に違反しない正当な契約と扱ったため、もはやその是正方法はない。

 

建築士は設計業務を排他独占的業務として行なうが、設計業務成果は工事費として建築主の要望どおりの価格でできる設計業務成果でなければならない。建築士が行なった住宅設計の建設工事費の見積もりが、建築主の支払い能力で購入できる行政上の監督は消費者保護のための行政法の機能である。しかし、現実には、建築主の購買力以内で購入できない住宅の設計が行われ、その工事請負契約額を「材工一式」の概算単価で計算し、それを詳細工事まで正確に決定して実施設計図書を基に工事費を建設業法第20条に定めた正確に工事費を見積もった工事額であると建築主を欺罔し、工事請負契約で縛ることは不誠実業務である。それを容認する住宅産業の業務は、建設業法及び建築士法上の違反である。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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