HICPMメールマガジン第806号(2018.10.26.)

 

わが国の建築設計の原点を問う『欧米の建築家、日本の建築士』(井上書院刊)

私が平成30年7月刊行した『欧米の建築家、日本の建築士』(井上書院刊)は、私の住宅産業との半世紀にわたる歴史の中で、国民が住宅を所有することで資産を失っている日本の状態を、住宅を取得することで資産形成をしている欧米のように住宅産業を改善するために大きな障害となっている問題を明らかにしなければと考えて取り組んだ調査研究成果の一端である。この本を皆さんに読んでもらいたいと考えて9月28日に、渋谷区の都立大学OBのNPOの事務所で、海老塚さん主催の国際比較住宅都市研究会で、約19名の希望者にこの本の説明をする機会が設けられました。参加者は今問題に対するご関心が集り、大いに議論が盛り上がりました。住宅関係者が消費者のために取り組まなければならないことを考える良い機会になったと思います。

今月10月16日から24日までヨーロッパにおける近代建築の歴史を学ぶため、アンドレア・パラディオの作品を学ぶためにイタリア・ヴィチェンツア、パドヴァ、ヴェネチアに出かけました。後日ご報告いたします。

 

わが国の多くの建築士は自らの建築士資格を欧米のアーキテクト(Architect〉と同じ学識経験を有する技術者と信じ、名刺にそれを記し、欧米社会でアーキテクト資格でないとできない業務に該当する者と勘違いし、建築士試験に応募し、合格し、建築士資格を取得し、欧米の建築家と同じになったと誤解して設、間違った設計工事監理業務を行なってきました。今回の参加者はそのような建築士が過半を占め、その他の参加者は、これらの建築士と同じような認識で建築士を捉えている人たちでした。それらの人たちは、日本の建築士の実情を正確には知らず、欧米の建築家と同じと勘違いしていました。

 

日本の住宅設計と設計道楽

私が最初に参加者に語り掛けたことは、世界中どの国においても、住宅は個人にとって特別重い経済負担となっているため、住宅は個人にとってそれに見合った能力のある建築家でないと設計依頼できない業務である。そして多くの消費者は建築士法で定められた建築士は、欧米の建築家同様、建築設計に関する専門的知識と経験を持っている者で、設計者は並みの人ではないと考えられてきた。欧米では今もその通りであるが、日本では、建築主でも住宅設計ができると言い、ハウスメーカーでは、営業マンに「建築主に住宅設計道楽」を楽しませることで住宅を受注している。建築主は、設計道楽で散財し、建築士が太鼓持ちを務め、高額な住宅を建築し、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきた。

 

日本政府の住宅政策は、住宅建設計画法時代の始まりから、住宅産業の需要を確保し、わが国の経済成長を拡大する「経済政策」として住宅政策を実施し、国民は政府の経済政策や住宅産業政策の犠牲とすることを前提に展開されてきた。多分、わが国の住宅政策をこのように断定すると反発をする人が住宅関係者の中にあると思う。2018年時点で40年の住宅建設計画法による住宅政策を振り返ってみると、この間に供給された住宅の殆どが建設廃棄物にしかならない住宅で、住宅を購入した人は悉く住宅を購入することで貧困にさせられてきた。その最大の原因は、建築士住宅設計自体の貧しさである。

 

建築士法のモデルとされた米国の建築家法

米国における建築家アーキテクト(Architect〉は、米国の建築家法(コモンロー):アーキテクトローに法律上の根拠を持つ資格である。現在は国際化の時代であって、国境によって事情が違うため、例えば道路交通法の場合、自動車のライセンスは国際的に通用している。その感覚でわが国の建築士も米国の建築家と同じように扱われて当然であると考えている人もいるかもしれない。しかし、自動車のライセンスは国際的に相互乗り入れを認められているが、建築家と建築士との間ではそのような相互乗り入れは認められていない。わが国の建築士は人文科学としての建築教育を全く学習しておらず、建築士の受験資格要件は建築家の資格要件と違っているから、建築設計者の相互乗り入れはできない。

 

私は住宅官僚として建築士法の施行担当責任者として、建築士資格を有する黒川紀章と菊竹請訓2人の建築士の業務を調査し、その業務が不誠実業務に該当すると住宅局として判断し、建設大臣が中央建築士審査会に諮問し、その回答として「業務停止2か月」の処分を適当であると答申した。2人の建築士は設計監理業界の有力建築士であったので、建築行政と設計監理業界との関係を崩さぬよう、住宅局は、設計監理業界の幹部との非公式協議を行なった。私は、建設大臣から中央建築士審査会に行なった行政処分の答申に基づき行政処分執行を起案した。これらの一連の業務を通して、わが国の建築士法が米国の建築家法をモデルにしながら、全く異質な法律であることを知らされた。

それ以上に問題は、法律の適正執行の担当責任者(私)が更迭され、その地位を奪われて、代わって、担当課長が起案文書を執務机に施錠しまった。その決裁されなかった起案文書が、約40年後、「成仏できなかった起案文書」が残され、処分を受けるべき建築士は2人とも死亡し、起案者の私以外、住宅局関係者も死亡し相談できず、「処分方法がない」と住宅局審議官の困っている話を聞かされた。

 

立法、行政、政治が絡んだ官僚不正事件がそこに眠る「建築家と建築士事件」

2人の建築士は、田中角栄の列島改造委員に指名されていたので、処分を廃棄させようと自由民主党幹事長二階堂進書記長に陳情した。二階堂進と同じ鹿児島県人であった救仁郷斉建築指導課長は、2人の建築士の処分は田中角栄に対する反対の意向と思われ、処分を行なえば救仁郷課長の住宅局長になる芽はないと伝えた。救仁郷斉は私が持ち回り決済を行なった稟議書を、自分の机の引き出しにしまい施錠し、「こうなるのだ」と言い大臣決済を妨害した。救仁郷課長は局長になり日本住宅公団の副総裁にまで昇進した。私の人生を狂わせたこの問題の原因は『欧米の建築家、日本の建築士』の問題(人文科学と工学)にあると考え、5年近くかけて書籍にまとめ7月に刊行された。もし、日本の建築士制度が米国の建築家法どおりに制度化され施行されていたら、2人の建築士の設計能力も米国の建築家同様に高く業務も適正に行われたならば、事故自体が起きず建築士処分問題も起こらなかったであろう。

 

第34回 世界の大学における建築学教育と建築設計教育(MM第806号)

 

米国の住宅・建築・都市の設計と建築設計の「基本コンセプト」

建築家や建築士は、個人の所得と比較できないほどの高額な費用をかけないと実現できない建築物を設計する業務を担う技術者である。建築設計が予定通りできなければ、経済的に計り知れない損失を関係者に及ぼすことになる。建築設計があって建築施工が可能になるもので、建築設計がなければ建築工事自体が発生しない。建築設計が完成しても、その建築設計図書通りの建築を立てるための工事監理業務がなければ、設計内容通りの工事は行われない。そのような意味で、建築設計と工事監理は建築物を建築主の要求に応え、社会経済的に合理的に建築するために不可欠な業務とされている。

 

建築設計はそれを建築する土地が定められ、それを利用する人という「基本コンセプト」が定められれば建築計画と建築設計は始められる。そこで建築される建築不動産は、その土地を建築加工することで作られる不動産で、一旦建築された建築不動産は、社会経済的にも、歴史文化的にも、未来永劫まで大切に使われ続けるものと考えられ、建築された建築不動産は都市環境の一部を構成することになるので、その後に建築される建築不動産は、建築不動産の設計に当たって、その都市の既存環境を尊重したように、その後に建設される建築不動産は、その存在を前提に都市環境を形成することになる。

 

都市環境は一朝一夕に出来上がるものではなく、都市の歴史文化の集積として形成されるものである。それは歴史の時間という過去・現在・未来と言う時間軸と、計画する土地とその相隣の土地、近隣の土地、その敷地の属する地区の土地や地域の土地、やがては都市や広域都市圏との関係する生活空間としてその都市環境を考えることになる。建築不動産を活用する人びとの生活は時空間への広がりを持つもので、同じ住宅不動産を利用する場合にも豊かな環境を利用することが可能になる。

 

建築不動産はその都市環境と切り離して存在することはなく、都市環境との関係をいかに豊かに作るかということは建築不動産を計画する上で重要なことになる。欧米の住宅・建築・都市を設計計画する場合、「基本コンセプト」を明確にすることを要求される。その「基本コンセプト」とは、住宅不動産や建築不動産、や都市開発を計画する場合、その立地する土地とそこに生活することになる人びとの歴史文化・生活を考えた人文科学的な性格を、建築主の要求に先立って明確にすることを求めている。

 

本来の「基本設計」と「実施設計」

土地利用は建築主が決定できるように考える人もいるが、土地利用はその土地を囲む歴史文化を反映して育てられていく物で、住宅・建築・都市を計画する人は人文科学に基礎を持つ歴史観を持ち、高い思想を実現する事業と考えられている。西欧の住宅・建築・都市の歴史を振り返ってみると、優れた歴史家や思想家が、都市計画を牽引する建築家や政治家として大きな仕事を実現した事実がある。その建築家の社会思想が住宅・建築・都市の建築デザイン用語として、都市の形態、その詳細、装飾という形を通してその思想を語り伝え、そこに生活する人びとに希望や勇気を与えてきた。

 

基本設計と実施設計とは一つの設計を実現する性格が違う2つの設計業務である。「基本設計」は人文科学的な領域の学問で、建築家による創作業務である。それに対し、「実施設計」は「基本設計」で定められた設計内容を具体的な工事として実施するために、材料と工法と職人の技能に対応する労務量とその必要経費を確定して材料の使用方法と工事詳細を特定するものが実施設計図書である。欧米では基本設計を行なう建築家も実施設計を行なうが、建築家とは別に、材料と工事施工に精通して実施設計を専門的に手掛けるドラフトマンと呼ばれる実施設計作成技能者がいる。建築家は基本設計までで、実施設計は建築家の支持でドラフトマンが作成することもよくある。基本設計業務は創造的業務であるのに対し、実施設計業務は、基本設計を実際の建築工事できる施工詳細に作り上げる業務である。

 

代願設計を設計図書とするわが国の設計業務

わが国の建築士は基本設計をまとめる学識経験がないため、建築士には基本設計はできないうえ、基本設計を与えられても実施設計を作成できる学識経験がない。わが国では確認が建築実現の関門になっているため、確認申請書に添付する設計図書(代願設計)を設計図書と呼んでいる。一般的な「注文住宅」の設計図書は、建築主の設計要求を設計図書に取り入れ代願設計にまとめたものを言っている。代願設計がまとめられたとき、建築主が支払える「相場」単価に延べ面積を乗じた概算工事費で造ることができるかを確かめるために建築士は、工事費の設計見積もりを行い、その工事費が建築主の予算範囲で出来なければならないが、多くの建築士は設計見積もりを行なう能力を持っていない。

 

「代願設計」は、確認申請を行なうための設計で、建築士法や建設業法で言う設計図書ではない。実施設計は工事請負契約書に添付する設計図書で、工事施工者が実施設計に基づき工事費を見積り、工事請負契約書に添付する設計図書である。「代願設計」ができても、設計を始める前に建築主との間で合意された「相場単価」に収まるわけではなく、工事業者が工事費用の見積もりをしなければ、実際の工事費は分からない。工事業者が請負工事費を「相場単価」に収めるためには、建築業者と下請け業者との間で、住宅に使う材料と労務の「試行錯誤」を送り返し、目標額となるように材料と工法を選択する。その過程で、設計が始まった当初、建築主の要望を認め「仮押さえ」した材料工法は、「相場単価」で設定した工事総額に収まらないとされ、工事請負工事契約の仕様から脱落させられる。

 

わが国には住宅の設計段階で社会的に合意を得た「建築設計積算資料」自体が存在せず、また、実際の建材価格は複雑な流通と価格決定の方法によって、設計者である建築士が設計見積を正確に行うことは不可能である。本来、建築士自身も自分の設計業務で採用する建材や工法に関し、建材及び労務の調達に必要な価格のデータベースを作成し、自らの行う設計内容に適した工事費用の積算見積もりができる「設計積算資料」を整備しなければ、正確な見積もりを行なうことはできない。建築士は自ら設計し、又は、工事監理して建築工事を介して材料と労務に関するデータベースを常にアップ・トゥ・デイトし、自ら設計した場合、精度の高い設計見積もりができる準備が必要である。

 

「設計見積もり」と「工事見積もり」に必要なデータベース

一方、熟練した住宅建設業者はこれまで実施した住宅建設工事の実績を基に、過去に実施した工事データを自社でデータベース化し、工事の都度データベースを更新し、いつでも使えるようにしている。それは新規受注の住宅の建設工事費を正確に「設計見積もり」するためでもある。言い換えれば、建設業者は、損をしないで確実に利益を上げるためには、受注できる最低工事費でできる工事方法をしらなければならない。このデータベースは建設業者が継続反復して業務を実施するために、建築主の求めに応えて正確に施工見積もりを行い、入札や工事費の相見積もりを正確にするための不可欠なデータベースで、「工事積算資料」で、将来の工事を獲得し、工事を実施するためにも不可欠である。

 

NAHBのCM(コンストラクションマネジメント)テキストでは、では、請負った工事を完成することと同じ以上に、正確な工事費のデータベースを作成管理することは重要な業務であると繰り返している。しかし、わが国では重層下請け工事に依存し、実際の工事業者から支払らわれている労賃や材料費に対する関心が低い。米国のホームビルダーのように、原則「一層下請け」でCMにより無理・無駄・斑を排除した建設工事の場合は、データベースの管理に熱心であるが、重層下請け工事の場合には、最終工事業者や工事人への支払額には関心が間接的になっている。

 

設計見積もりと施工見積もり

建築主が設計者に建築設計を依頼するとき、その成果物である住宅設計が、建築主か支払う予定の金額で建築できるものでなくてはいけない。そこで住宅設計を依頼された建築士はその設計成果である設計図書を用いて建築した住宅が建築主の支払い能力の範囲で建築できることを証明できなければその設計図書は有効に使うことはできない。そのため設計者である建築士、自ら作成した住宅の設計と者を用いた住宅は建築主の支払い能力で建設できることを証明するために設計見積もりを行なう。

 

欧米では設計見積もりを行なうための積算・見積もりのデータベースが社会的に整備されているため、一般的に設計者がそのデータベースを使えば、実際の工事費より一般的には高めの安定した工事費見積もりをすることができる。設計者は作成した設計図書と一緒に設計見積もりを作成し、建築主に納品し、設計図書が建築主の要求通りに工事費の範囲で建築できる設計図書であることを説明する。建築主は建設業者を選定するとき、設計見積もりを基に工事入札や見積もり合わせを行なうが、多くの場合、設計見積もりは設計図書と一緒に工事業者に提示される。工事業者は設計図書とともに提示された設計見積もりを検討し、建設業者としての特性を生かして合理的な工事を計画し工事費見積もりを作成する。

 

工事費見積もりは、建設業者の特性として材料の調達や下請け業者の選定など、過去の実績をもとに工事業者としての特性を生かして工事費見積もりを行なうことになるが、すべて工事業者が過去に経験した工事を基にした材料と工事のデータベースをもとに工事費見積もりを行なうことになる。一般的には材料と工法は実施設計の内容として決められているため、工事の組み立て方の違いによって後期に変動が生まれ、それが見積もり額の違いとなる。工事業者は工事施工を計画する上の施行条件を建築主に明らかにするように求め、不測の事態への対応など施行条件を厳密にして工事費見積もりを行なう。

 

工事条件によって変動する材料及び労務価格

建設工事費の中心は材料費と労務費である。このいずれも需要と供給との関係で絶えず変動し、固定されていない。材料及び労務の購入(調達)価格は、需給関係を反映して変動し、工事を行なう社会の経済・環境によっても、価格は変動する。当然、材料と労務を建設会社が購入するわけであるから、その購買条件(4W1H)によって材料費も労務費も変動する。これらの材料も労務も実際に購入契約を行うときと、実際に材料と労務を使うときによって、さらに費用は変動する。材料も労務もその価格は固定しているわけではなく、購入条件により絶えず変動している。

 

建設業者は価格の変動について購入条件との関係をよく調査し、最も有利な条件で購入するように努めている。購入条件、計画変更や事故処理の条件、経済環境など4W1Hがある。海外からの建材輸入の場合には、為替の決め方、輸送手段、支払い条件、事故等に対する保険などの条件により購入価格自体が変動する。その業務をコストコントロール(工事費管理)、クオリテイコントロール(品質管理)、スケジューリング(時間管理)の3種類の管理業務を行うことになる。これらの管理業務をCM(コンストラクションマネジメント)と言い、過去の経営として組み立てていて、工事ごとにつくものではない。

 

米国社会では、設計業務と施工業務とを明確に区分することで合理的な設計施工業務が行なわれるよう、一般的に、設計段階で工事に用いる設計圖書を確定する作業を行う。その作業は設計者が設計業務を完了させ、その設計圖書で工事を行なったら最も高額な工事費でも建築主の希望価格の上限でできる調達可能価格によって建設できることを確認して設計業務を完了さる。その段階で主要な材料と労務に関しては、工事単価の検討もするが、一般的には市販の信頼性の高い積算資料を基に工事費見積もり(設計見積)を行ない設計段階での工事費の検討を行なう。設計者の作成した設計図書が、設計業務契約で定めた業務成果が、建築主の要求に応えた設計業務成果であることを証明するもので、建築主が希望した価格でつくれない住宅の設計図書は工事に使えないため、建築主は受け取りを拒否することもできる。

 

「工事費入札」や「工事費の相見積」

一般的に、工事業者を決定するとき、そのような価格変動し続ける条件下で、建設業者は建築主の支払い能力との関係で住宅建設工事内容(実施設計図書)を、工事請負契約を締結して確定することになる。工事請負契約は、建築主と工事施工者(建設業者)との間で「工事費入札」や「工事費の相見積もり(見積合わせ)」をとおして工事業者と建設工事額を決定する。建設業者が、「入札」や「見積もり合わせ」をするとき、工事費請負契約を前提に行う「工事費見積もり」は、通常、「設計見積もり」を参考に行う。「設計見積もり」と比較して「工事見積もり」は、10~20%安くなると言われている。それは工事業者ごとの施工管理能力や、得意な工事や工法、得意な材料仕入れ方法や下請け業者を使うことにより、一般的な設計見積額より安く購入し、高い生産性で工事を実施できるためである。

 

元請業者(建設業者)はすべての下請業者と入札または「相見積もり」により下請工事額を決定するが、そのときの下請業者の提示額は、元請業者が工事請負人になったとき、その提示額で下請工事を行う義務となる。元請業者は下請業者に対し、入札や見積もり合わせで下請工事費を確定する上で、「禁反言の原則」(エストッペル)に縛られる。それは見積もり段階で下請業者が元請業者に提出した下請工事費は、変更できないことを定めた建設業法(慣習法)の規定である。住宅建設業者の業務は元請業者としての地位を確保するために、入札か見積もり合わせで低い建設価格の提示で選考される。建設業者の経営業務は工事費の受注に成功することと、工事経営で工事により確実に利益を上がることである。

 

建築士の教育としての人文科学教育の開設

建築士は建築士法が制定されたときと現在とは、時代背景も建築士制度自体が独り歩きをして、建築士に対する社会的評価も期待も大きくずれてきて、建築士制度をどのようにするかは、もう一度原点に返って考えなければならない。実際の建築士の知識と能力が欧米の建築家より劣っている事実とは別に、法律上、わが国の最も高い建築工学教育を学び、建築士試験という国家試験に合格した者と規定された事実は、70年近い歴史を持っている。建築士法上では建築の設計及び工事監理業務を排他独占的に行う業務を担うことになっている。しかし、現在わが国の住宅産業の中で最も大きな勢力を誇っているハウスメーカーにおいて、建築士は「名義借り」の対象資格でしかなく、建築士は機能していない。

 

建築士資格を国家資格として得るための受験資格は、大学で建築学科を履修し、その後2年間の工事監理業務の実務経験を受けることと建築士法上に定められているは、日本の大学の建築教育は、すべて工学として行なわれており、人文科学教育としての建築教育が行なわれていない。住宅・建築・都市を計画し、設計する学問は欧米では人文科学教育として行なわれてきており、その教育が正しい教育とされてきて、欧米の豊かな住宅・建築・都市環境をつくってきた。つまり、住宅・建築・都市を計画するためには人文科学教育が必要であるという認識が世界の住宅・建築・都市計画の教育に存在する限り、わが国の住宅・建築・都市計画に人文科学を導入する必要がある。

 

建築学の教育を再構築することは大変なエネルギーを必要とするだけではなく、既得権との戦いを避けて通るわけにはいかない。私はかつて建設省においてプレハブ教育制度を実施したように、住宅・建築・都市計画に携わる人たちのために欧米の建築家に与えている人文科学教育を行なう途を拓いたらどうかと提案したい。欧米に留学して人文科学としての建築教育を学ぶと同様に、わが国において人文科学教育として住宅・建築・都市計画を学び、それを実務として生かせる方法を作り出すことである。

(10月26日、MM第806号)

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